09月≪ 2017年10月 ≫11月

12345678910111213141516171819202122232425262728293031

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--:--  |  スポンサー広告  |  EDIT  |  Top↑

2010.11.26 (Fri)

空色に手を伸ばしてⅡ

Ⅰのつづきです。












輝く子犬の瞳。
ここ最近見る一番の陛下の笑顔に、夕鈴は苦笑いで答えた。


「夕鈴。どうしたの……」

どうしたの…その言葉に赤面する。
どうもしていない。ただ、着てみただけだ。紅珠が頑として譲らなかった特別な日に着る衣装を。

夕鈴は、まるで物珍しい珍獣でも発見したかのように、じっくりと食い入るように見つめてくる陛下の視線を避けた。気恥ずかしいったらこの上ない。この視線に……これから逢う人みんなのこの視線に耐えなければならないということか…夕鈴は、熱く火照る頬を両手で隠した。

「あんまり見ないでくださいよ」

「なんで?夕鈴…とっても綺麗」

陛下の呟きに熱が上がる。その熱が全身を覆う手前で、夕鈴は、それでは…と踵を返した。


「ちょっと、どこ行くの?」

ふいに掴まれた手首に、夕鈴の足が静止した。振り返って見た陛下は、どこか困ったようなそれでいて満足そうな判別できない表情を浮かべていた。


「これから紅珠と逢うんですよ?」

「あぁ…そういえば昨日そんなこと言ってたね」

「はい。では」

「ちょっと待って」

掴まれた手首ごとぐいと体を引っ張られて、夕鈴は陛下と顔を合わせた。陛下は相変わらず纏わりつくような視線を絶やさない。夕鈴は耐えきれず顔をそむけた。


「夕鈴。こちらを向いて」

「もう行きませんと…」

「そんな可愛い格好で紅珠に逢いに行くの?」

「これは…この格好には理由があるんですよ」

夕鈴は紅珠とのくだりを説明した。陛下は終始黙ったまま、夕鈴の説明に耳を傾けていた。夕鈴の説明を聞く陛下はどこからどう見ても狼陛下で、ときどき細められる眉根から陛下の冷たい気配が伝わった。
氾家の話をするといつもこうだ。
陛下は、どんなに氾家の良さをアピールしても聞く耳を持たない。それどころか夕鈴が信じれば信じるほど、警戒を深めているような気がする、確実に。

じわじわと深まる狼の気配に、夕鈴は部屋を退出することで避けようとした。いつもならば、こんな逃げ出すようなことはしたくないけれど、この格好の今では穏やかに対処出来るとは思えない。


「失礼しますね」

軽く会釈して退出しようとする夕鈴。だが、予想外にすぐに子犬に戻った陛下が笑顔を浮かべて夕鈴を制した。


「陛下?」

「それでこの衣装か…珍しく可愛い衣装を着てるから思わず詮索しちゃった、ごめんね」

「いえ」

気にしていませんよ…陛下につられて夕鈴も笑う。思ったほど、怒ってはいないらしい。


「それにしても、妃への贈り物を身に纏えとは…」

陛下は、ため息混じりに呟くと肩を落とした。
あの家、ろくなことしない…きっと陛下はこう言いたいのだろう。夕鈴は、聞きなれた氾家に対するお決まりのセリフを思い浮かべる。陛下の言う“ろくでもないこと”にいつも巻き込まれているわけなので、夕鈴には反論出来ない。


「今回は、そうでもないかな」

「はい?」

口端を緩めて笑う陛下に、夕鈴は疑問を込めて見つめ返した。


「僕、今日の午後からは休憩にするよ」

「え?なんでですか?」

陛下は、尋ねる夕鈴の髪を一房取ると、薄い唇に当てた。


「!?」

「今日は天気もいいし、久しぶりに遠乗りに行こうか?夕鈴」

「え…でもこれから紅珠に…」

言いかけた夕鈴の言葉を遮るかのように、陛下の腕が伸びてきて腰を捕えられた。


「なっ何を…」

誰もいない部屋で突然演技をし出す陛下を、夕鈴は警戒して見つめる。


「その格好で紅珠に逢うの?そんな可愛い衣装を着てるのに、紅珠に逢いに行くの?」

紅珠に逢うために、わざわざこんな格好をしているのに……陛下は何を言いたいのか?夕鈴は動揺する心を抑え、陛下の放つ言葉の意味を理解しようと必死に思考を巡らせた。


「今、説明しましたよね?この衣装は氾家からの贈り物で、今日はこの衣装を着て紅珠と逢う約束をしています」

「もったいない…」

ぼそり…耳元で囁かれる低い声に、夕鈴の身が震えた。
確かにもったいない。本物の妃ならばともかく、偽物の妃が着ていいような代物ではない。


「すみません!やっぱりもったいないですよね。すぐに脱ぎます」

夕鈴は慌てて答えた。紅珠にせがまれて着てしまったが、よくよく考えるといけないことだ。


「そうじゃなくて」

「?」

夕鈴の耳元に顔を伏せていた陛下は、ゆっくりと夕鈴と目線を合わせた。


「僕以外の人に逢わせるなんて…もったいないよ」

「はい?」

「可愛い君は、僕だけのものだからね」

にこり…子犬陛下が微笑む。演技ではない素の笑顔に、夕鈴の心臓がどきりと跳ねた。


「だから紅珠と逢うのは許さない」

「…………」

何なのよ…それ。紅珠は女の子よ、私よりも華奢で可愛らしい美少女なのに。嫉妬する演技をする陛下に、夕鈴は憤慨する。


「演技はやめてください!」

「ははは」

急に笑い出した陛下に、夕鈴の怒りはますます増していく。やっぱり、演技で人を騙して楽しんでたんだわ。嫉妬で動揺させようなんて…そんな手には乗るもんか!


「演技じゃないんだけどなぁ…」

「知りません!嘘つきは嫌いです」

「ゆーりん。僕、嘘なんてついてないよ」

しゅんと肩を落として呟く陛下。それよそれ!その、まるで捨てられた子犬のような目はやめてください!

いつもその目に、その態度に振り回されっぱなし…徐々に波打つ鼓動に高まる心音。


陛下に捕らえられ力強い腕の中、今日も夕鈴は囚われの兎になる。














後日。

「紅珠。先日はごめんなさいね」

「いいえ、お妃さま。急用ですもの、仕方ありませんわ」

「え、ええ…」

夢見るような瞳で見返す紅珠を前に、夕鈴はいたたまれず目線を避けた。


「ところであの衣装ですけど…」

「そ、そうね。あの衣装…結局着れなかったわね」

ごめんね…夕鈴は謝った。


「お気に召されたようで良かったですわ!」

「え!?」

「空色の衣装、お召しいただいたのですよね?」

「な…なぜ……」

夕鈴は高揚して赤く染まった紅珠の顔を、見つめながら詰め寄る。



「だって…陛下からお礼を言われましたもの」
















二次小説第33弾完です

氾紅珠初登場☆名前だけでは何度か登場していますが。
彼女はミケの中ではすっかり夕鈴のとりこです。夕鈴に魅入られて、お姉さんのように慕う可愛らしい女の子ですが、いつなんどき心変わりするか分からない子ですね~。そこが面白いところなので、このキャラは結構好きですよ
陛下の取り合いがヒートアップしたら…なんて考えるとにやにやしちゃいます(笑)



00:15  |  日常編  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する

URL
COMMENT
PASS  編集・削除するのに必要
SECRET  管理者だけにコメントを表示  (非公開コメント投稿可能)
 

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://mike3aoi.blog134.fc2.com/tb.php/55-75e6c058
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | HOME | 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。