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2010.12.01 (Wed)

秘め事Ⅰ

「秘め事」

いろんな方の目線で書かせていただいてます。
ごちゃごちゃして読みにくいかもです。

ではどうぞ。


















落ち葉揺れる秋色の気配が濃くなった中庭。
今日も夕鈴は、分厚い本片手に独り言を呟いていた。

最近はめっきり寒さが顕著になってきたこの白陽国後宮。
広い宮殿に過不足なく配置された臣下たちの間で、噂されていることがひとつあった。

それは、世間で名高い名君、狼陛下珀黎翔のことではなく…いつも傍らに佇むように控える寵妃、狼陛下唯一の妃である夕鈴のことであった。



「ほら、今日もお妃さま、中庭にいらっしゃるわ」

ひそひそと侍女たちの囁きが繰り返される。


「本を広げて、いつも一体何を独り言を申されておいでなのかしら」

「お妃さま付きの侍女に聞いても、知らぬ存ぜぬの一点張り…お妃さまが何をされていらっしゃるのか気になるわよね」

「えぇ…とても」

好奇心の強いふたりの侍女の目が輝く。
その輝きを色濃く瞳に残したまま、忍び足でゆっくりと夕鈴に近づこうとする侍女たち。その怪しげな行動を偶然にも見つけたのは、後宮の回廊を道行く張老師であった。


「何をしておるのじゃ?」

「ろ、老師さま…」

慌てて拝礼する侍女を横目に、老師が中庭へとするりと降り立った。老体にしてはすばしっこい動きに、侍女たちは目を丸くして見つめていた。


「お妃に何か用事かの?」

「い、いいえ…ちょっと肌寒くなって参りましたゆえ、羽織など差し上げようかと…」

しどろもどろに侍女が答える。その様子に、老師の目じりがぐっと上がった。


「お妃は今勉学中ぞ。近づくことは堅く禁じる。羽織ならば妃付きの女官に申し出よ」

「はい」

こくり…と頷いたふたりの侍女は、老師の言葉に素直に身をひいた。老師は、去っていく侍女たちの後ろ姿に向かって、大きくため息を吐く。

あぶない、あぶない…。
老師は額にうっすらと浮かぶ冷や汗をぬぐいつつ、呑気に中庭にたたずむ夕鈴の姿に視線を送った。


「あのようなところで独り言など。あれでは先が思いやられるの…まぁ今はご政務中ゆえ、油断したのかの」

目を細めて呟く先には、一生懸命に何かを語る夕鈴の姿。
どうやら本に集中しすぎていて、さきほどそば近くでかわしていた会話など耳にも入っていない様子だ。もちろん老師の姿にも気づいているわけがなく、足を忍ばせぬとも、簡単に夕鈴に近づくことが出来た。


「お妃」

突然鳴り響いたしわがれた声音に、夕鈴はびくり…と肩を震わせた。


「ろ、老師…」

姿を確認するや否や、ほっと胸を撫で下ろす。そんな夕鈴の様子に、老師は聞えよがしに大きくため息を吐いた。


「な、なんですか。突然」

「さっきからそばにおったわい。こんな見通しの良い中庭で何をしておるのじゃ?」

「何って、もちろん…」

夕鈴は手に抱えていた分厚い本に視線を落とした。最近の臣下たちの噂の元、寵妃が片時も離さず持ち歩いているという本である。


「こんな見通しの良い中庭でか?」

とげとげしい老師の声が響く。風にさらわれて小さくしか聞き取れなかったが、どうやら随分と怒りがこもっているようだ。


「すみません。ひとりで休憩するには見通しの良い、いつでも駆けつけられる場所にしろと李順さんに言われて…」

「あの陰険めがねか?」

「はい。特に注意を受けています」

まだまだ妃に仇為す臣下の多い今では、もっともだ。
それに、お気に入りの臨時花嫁が、共のものもつけず人目を避けて後宮を徘徊していることがあの怖い主君に知れれば、きっと黙ってはいないはず。
それを見越して念押ししたのだろう。


「お妃よ…」

「はい」

急に神妙な表情になって、声を落とす老師に、夕鈴は身構えた。


「秘め事とは…隠し通してこそのものじゃ」

「もちろん!」

夕鈴ははっきりと答えた。握りしめる手に力がこもるのは、この秘め事への力の入れようがとても大きいから。


「隠し通しています」

「今のところはの…じゃがいずれバレる。現に噂になっとるしの…」

「大丈夫です。おまかせください」

何が大丈夫なのか、自分でもさっぱり分かっていないが、必ず隠し通したいという強い思いが心に浮かんで、夕鈴はきっぱりと答えた。


「不安じゃのう」

「大丈夫ですって」

「お前さんの演技力じゃ…とても」

「失礼な。狼陛下の花嫁、一体どれだけ続けてると思ってるんです」

「不安じゃ。いつバレるか分からんの」

「老師!」

しつこく否定する老師に、夕鈴は憤慨する。
演技力には全く自信がないが、今までの実績は評価してくれてもいいものを…夕鈴は丸顔の老師を訝し気に眺めた。


「とにかく、これは一世一代の僥倖じゃ。ぬかりなく準備をすすめよ」

「はい」

ぐっと拳を握りしめて夕鈴は答えた。


「では…いろいろ調べなければならない文献が書庫にありますので、これで失礼します」

「くれぐれも用心するようにな」

「はい、それはもう…」

用心は完璧。夕鈴は軽く会釈すると、中庭を後にした。
残ったのは、まだまだ不安気にうつむく老師がひとり。秋晴れの陽光が老師の横顔を黄色く染めていた。


「こうしてはおられぬ。お妃のためにわしも準備せねば」

はっと気づいたように呟くと、慌てて踵を返そうとする。だが、回廊に戻ろうと振り返った老師は目の前に居る誰かの姿を確認するや否や、仰天した。


「へ、陛下!!」

急に現れた陛下の姿に、老師は飛び上がるほどに驚く。また、ぎっくり腰が再発しかねない勢いだ。
中庭の脇の回廊には、陛下の共のものが静かに佇んでいた。政務室から後宮へ戻って来る途中だったのだろう。


「こ、これはご機嫌うるわしく…今日は良い日和ですなぁ。陛下も散歩ですかな?」

「我が妃と何を話していたんだ?」

冷たく非情な声が耳に響いて、小さな老体の姿がより小さく縮まった。
しまった、見られていたのか…。あいかわらず目ざといことこの上ない。


「お妃ですか?天気が良いのでお妃もさっきまで居たようですなぁ…」

ご自慢のひげをゆったりと撫でながら、のんびりと老師が答えた。


「最近、あれがよそよそしくてな…何やら、私に隠し事をしている模様。お前は知らないか?」

知らないか?…普通の質問なのに、まるで鋭利な刃物で切り付けられたかのようだ。冷酷無慈悲な声音に、老師の背筋がぞくりと震えた。外はこんなにも暖かいのに、陛下を取り巻く空間だけ、熱を失ったかのように冷たい。


「知りませんなぁ。お妃が隠し事など、絶対にないかと思いますが…」

「なぜそう思う?」

「いや…お妃との仲睦まじく。寵妃が心配なのは頷けますが、心配のしすぎではありませんかの」

ふぉっふぉっふぉ…老師は声高らかに笑い出す。


「なるほど」

無言のまま視線を送り続ける陛下に、老師は耐え切れずに目線を避けた。なんと鋭い視線か…まるですべてを射抜くような、冷たい狼の目。
あの娘もよく、この視線に耐えられるものよ。老師は心に浮かぶ言葉を飲み込みながら小さく頭を下げた。


「では、これで失礼します。わしもこう見えて忙しいので…」

「なにやら準備がどうとか申していたしな」

ぎくり…陛下の言葉に老師の鼓動が跳ねた。見つめた陛下は口端に笑みを浮かべて、ひややかな視線を寄越していた。
いたいけな老人をいたぶるとは…陛下も人が悪いことじゃの。


「あれも、なにやら最近忙しそうだ。私にかまってくれなくて困っておる」

「そ、そうですか。いろいろとお互い忙しいようですな」

老師は、冷たく緩む陛下の表情をあんまり見ないように答えた。

秘め事が妃の口からバレるとは考えにくい。あの娘の根性と口の堅さだけはわしも評価している。だったら、目障りな後宮管理人から聞き出そうという魂胆か。いやはや…狼は畏れ多いの。

老師はまだ年若い主君の姿を眺めた。
視線に気づいた陛下は、一瞬天を仰いでから諦めたかのように背中を向けた。


「がんばれよ、お妃」

去っていく狼の背中に向かって、老師は小さく呟いた。






Ⅱへつづく。

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