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2010.12.01 (Wed)

秘め事Ⅱ

Ⅰのつづきです。














「なんでそんなこと聞くの?」

「え?聞いちゃいけなかったですか…?」

夕鈴は無邪気に尋ね返した。
子犬の瞳に、『疑問』の二文字が揺れているのは見て取れたが、戸惑うことなく質問を続ける。


「ううん。ただ、なんでそんなこと聞くのかなって」

眉根をひそめて尋ねる陛下の姿に、夕鈴は慌てて手を振った。


「なんでって…なんでもないですよ。ただ、最近体調とか崩されてないかなぁって」

ちらっと覗いた陛下の表情は、さきほどから変わっていなかった。
う…そんな顔されると質問しにくい。


「僕が体調を崩していると思ったの?」

「違いますよ。ただ…ほら、最近陛下のお仕事が忙しいから、ちょっと心配で」

夕鈴はなんでもない風を装って答えた。
徐々に鋭くなる視線を避けるように、茶器に手を伸ばすと陛下のお茶を淹れ直す。すぐに良い茶葉の香りがして、夕鈴は心を落ち着かせた。

どうやら質問の仕方を失敗したようだ。なんとなく自然に投げた質問のつもりだったのに、今日の陛下はなんだか警戒心が強くなったみたい。
だって私の一挙手一投足を食い入るように見つめてくるし、何気ない会話にいちいち突っ込んでくる。

一体どうしたのか。

夕鈴は、まだまだ纏いつくような視線を送り続ける陛下に、曖昧に笑いかけた。


「なんでそんなに見つめてくるんですか?」

「そりゃあ、僕の花嫁さんをずっと見つめていたいと思うのは当然だよ」

「はい?」

机に頬杖をついて、満面の笑みを浮かべる陛下。夕鈴はどこか意地悪気なその顔にたじろぐ。この表情だったら、まださっきの鋭い視線のほうがましかもしれない。
今日は、陛下の大好きな甘い夫婦演技に付き合っている場合ではないし。

夕鈴は陛下の言葉を軽く無視して、話を戻そうと口を開いた。


「あの…陛下。さっきの続きですけど」

「僕、別に体調を崩していないから大丈夫だよ」

「本当ですか?たとえば、最近ご政務で疲れているとかってありませんか?」

「うーん。激務なのは相変わらずだけど大丈夫。君の顔を見たら疲れも吹き飛ぶよ」

そんな言葉が聞きたいんじゃない。いつもならばここで赤面するところだったが、夕鈴は顔を崩さずに繰り返し質問した。


「じゃあ、夜眠れないとかはないですか?」

「まったくないよ」

「じゃあ…」

「夕鈴」

カタリ…椅子のきしむ音が耳に届く。
いつの間にか陛下は椅子から立ち上がり、夕鈴を見下ろしていた。目の前に立ちはだかるようにして立つ陛下の姿に、夕鈴はごくりと息を飲んだ。

なんか、怒ってる?
実際、予想通りの反応を示さない夕鈴に対して苛立っていただけなのだが、夕鈴には気づかない。


「僕の不調を見つけたいの?」

「いえ、そういうわけではありません」

夕鈴も慌てて立ち上がると、机を挟んで前に立つ陛下に駆け寄った。


「あの…変な質問してすみません。別に深い意味はありませんので」

ここでバレては一大事。夕鈴は低姿勢で謝罪した。


「僕の体調を心配してくれているのは嬉しいよ、でも…」

するりと伸びてきた腕に、夕鈴はいとも簡単に抱きすくめられた。


「僕は君が心配だなぁ…」

「な、なんでですか?」

「最近どうしちゃったの?なんか変だよ、夕鈴」

「べ、別にどうもしていませんよ。なんのことやら…」

下手くそな言い草に、案の定陛下の口元が緩んだ。その緩んだ口元に、夕鈴の心臓がどきりと跳ねる。陛下の笑顔はときどき、何もかも見透かされているようで怖くなる。

陛下は、怯えたように身を縮める夕鈴の体をさらにきつく抱きしめてきた。


「老師も口を割らないし…困ったな」

ぼそり…耳元で陛下の低い声が響いて、夕鈴はぞくりと身を震わせた。

誰もいない夜の密室。嫌でも意識してしまう。
夕鈴は震える両手を陛下の胸に押し当て、離れようと手に力を込めた。


「は、離してください」

「隠し事はダメだよ、夕鈴」

「そんな、隠し事なんてしてないですよー」

夕鈴はへらへら笑ってごまかす。顔が引きつってしまうのは仕方がない。


「本当に?」

「本当…です」

そんな顔で見つめられると困ってしまう。そば近くで揺れる漆黒の黒髪に、夕鈴の顔が熱く高揚した。


「本当に本当?」

「はい」

「……」

陛下はまだ信用しきれていないようだ。どうしたものかと首をひねると、真っ赤な顔で熱視線に耐えている夕鈴を見つめていた。

嘘がバレる心配よりも、秘め事が暴かれる心配よりも…今は、この状況に激しく高鳴る心臓が爆発してしまうのではないかという心配の方が強い。

夕鈴は浅く息を吐くと、思い切って陛下を見上げた。


「陛下、私…絶対に陛下の為にならないことなんて、しませんから」

「夕鈴」

「だから…信じてください」

ぎゅっと陛下の袂を握りしめて、夕鈴は答えた。

夕鈴の行為に、くしゃりと顔を破顔して陛下が笑う。さきほどまでの表情とは一変、にこやかに笑う陛下に、夕鈴は唖然とする。


「あの…?」

「ごめん、夕鈴。ちょっと疑いすぎたみたいだ」

「え?」

「最愛の妻を疑うなんて…僕もどうかしてた」

「はぁ…」

いや、ここは納得するところじゃなくて!
夕鈴はいつまでも夫婦演技を続ける陛下を軽く睨む。


「私、真剣なんですよ!」

「僕も真剣だよ」

即答する陛下に、夕鈴の攻撃態勢はすぐに崩される。にっこりと可愛らしく微笑む子犬陛下を前に、夕鈴はどうしていいか分からず答えあぐんでいた。


「だから君を信じるよ」

「は、はい…」

何か変なことになっちゃった。
隠し事…本当はしてるんだけどな。でもでも、陛下の為のものだから。だから、信じて欲しくて言った言葉なのに。
傍から見たら、これってまるで恋人同士の会話みたい。

思わず赤面する夕鈴に対し、終始満足気に笑顔を浮かべる陛下。
夕鈴はどきどきと鼓動を重ねる胸に手を置いて、陛下の笑顔を見つめていた。


















「なぜ私が調べないといけないんですか?」

陛下と李順以外誰もいない自室に、訝し気な声が流れた。露骨に嫌そうに表情を曇らす側近を見て、陛下は嫌悪の表情を浮かべる。


「なんでって…なんだその口ぶりは」

「なぜ私が夕鈴殿の隠し事を調べるのですか?ご自分でお聞きになられては?」

「私が聞いても答えてくれない」

「だったら見て見ぬふりをなされては?それも夫婦には必要ですよ」

「それは出来ないな…夕鈴のことなら何でも知りたい。この性格は変えられん」

陛下は大げさに息を吐くと、卓上に書類を一束置いた。さらさらと薄い料紙が舞い落ちる音が響く。


「女性には知って欲しくない隠し事など山の数ほどありますよ」

「山の数もあったら困るな。夕鈴が隠し事をするたび…不安で溜まらなくなる」

眉根をよせて語る主君の姿に、李順は盛大に嫌そうな顔で答えた。


「なんだその顔は」

「これ以上、胃が痛くなるような発言をしないでください」

「胃の鍛え方が足りないんじゃないか?」

しれっと答えるさまは、さすがに狼陛下。
本来、冷酷非情な彼は、臣下の心配をするような人ではない。なぜか、ただの臨時花嫁である夕鈴への愛情の込め方は、目に余る事実なのだが。だが彼女を連れて来たのは自分なので、なかなか文句が言えないのが辛いところだ。

李順は、寵妃を思って物思いに耽る主君の姿を眺めながら、肩を落とした。


「秘密を暴きたいなどと、無粋な真似はなさらないほうがいいですよ。のちのち、後悔なさいます」

「…………お前、何か知っているな?」

狼の瞳が冷たく揺れ動くさまを確認して、李順はめがねをかけ直すことで視界に入れないようにした。
陛下が知らない寵妃の秘め事など、知りたくもない。


「何のことでしょうか?あぁ…そろそろ時間ですね」

李順が呟いた言葉に、陛下が疑わしげに見つめ返す。


「時間?」

「失礼します…」

突如響いた侍女の声に、陛下の思考は停止する。自室の扉の前に、ひとりの侍女が拝礼して立っていた。手にはおおげさな盆が乗せてあり、その盆にはなにやらたくさんの食べ物が乗っているようだ。

夕餉には早い刻。陛下は、盆を持って立つ侍女に訝し気に視線を送る。


「何だ?」

「お妃さまのおなりです」

侍女の声に、陛下は立ち上がった。


「良い頃合いでしたね。では、私はこれで失礼します」

「李順?」

立ち去る李順と入れ違いに、夕鈴が現れる。

夕鈴の様子が浮き足だって見えるのは気のせいだろうか。
夕鈴は、満足気に微笑みながら侍女を連れだって入室してきた。思いがけない来訪に嬉しくなって駆け寄ると、すぐに夕鈴は手の平をこちらに向けた。まるで近づいてはいけないとばかりに。


「夕鈴?」

「陛下、今日は何の日がご存じでしょうか?」

「?」

一体何だ?入って来て早々、変な質問を投げる夕鈴を疑問を込めて見つめた。
また先日の質問攻撃の続きなのだろうか…。
陛下は何となくわずらわしさを感じながらも、夕鈴の質問に付き合うことにした。

今日という日を思い浮かべたが、何も思い当たることがない。朝から何か特別なことでもあったかな…考え込む陛下の姿に、夕鈴の瞳がきらきらと輝く。

そんな純粋無垢な瞳を向けられたら、抱きしめたくなるな…なんて邪なことを考えていると、夕鈴の質問を考えている場合ではなくなってしまった。


「まったく分からないな…」

早く答えが知りたい。たいして熟考せずに、陛下は答えた。


「良く考えてください」

夕鈴はうきうき顔のまま、侍女に指示して大きな盆を机に置かせると、部屋を退出させた。
稀な夕鈴の積極的な姿に、陛下はまじまじと眺める。


「その盆は?」

陛下はゆっくりと近づくと、盆の中を覗き込んだ。
いつも出される料理とはまったく違う。見覚えのある配列や色彩は夕鈴の手料理であることは明確だった。


「おいしそうだな。こんなにたくさん、作ってくれたの?」

陛下の言葉に夕鈴は目を見開いて驚いた。


「私が作ったってよく分かりましたね」

「もちろん。愛しい妃の手料理は一度見たら忘れないよ」

「今日は何の日か分かりましたか?」

また最初のくだりに戻るのか。今日が何の日であっても君と過ごす毎日が特別なんだから、僕には関係ないが。でも真剣な眼差しを寄越してくる夕鈴を見ていたら、知らないと即答するわけにもいかない。

陛下はとりあえず、うーんと深く考え込む仕草を見せた。


「えっと、確か僕と夕鈴が出逢った日?」

陛下の答えに夕鈴の顔が曇る。しまった、違うようだ。


「えっと、じゃあ……」

何だ?まったく思い浮かばない。


「まさか!借金を返済し終わったとか?」

陛下は声を大にして叫ぶ。そんな陛下の様子に夕鈴はくすくすと笑った。


「違いますよ。そうなればいいんですが…」

「ダメだよ、夕鈴。借金が終わったら、ここに居られなくなっちゃうよ」

「はぁ…」

夕鈴はたいして態度を変えずに答えた。
相変わらずつれない返答に、陛下はしゅんと肩を落として嘆く。


「そんなことより陛下。今日は何の日か分かりましたか?」

「なんだろう。今日は…夕鈴が何かをした日?」

「違いますよ。私のことは置いておいてください!」

「えー。夕鈴を置いておくなんて出来ないよ」

「そういう意味じゃなくて…今日は何の日かを当てて欲しくて」

「だから夕鈴なしじゃ考えられないから」

「もー意味が分かりません!」

質問の投げ合いにふたりの息も切れ切れ。夕鈴は荒く繰り返す呼吸を前に、肩で息をついていた。


「だから…」

「別に今日が何の日でも、君と過ごすなら毎日が特別だよ」

陛下の言葉に、夕鈴の頭に血が登った。それはすぐに全身を巡り、体中を熱くさせる。熱く火照る頬に伸ばされた陛下の手が到達する直前に、夕鈴はその手を押しのけた。


「もー今日は陛下の誕生日なんですよ!!!」

夕鈴は叫んだ。
陛下の自室から漏れる妃の大声。きっと部屋の外にも聞こえていたかもしれない。
外の様子を窺い知ることは出来なかったが、ざわざわと騒がしそうな気配が揺れていた。


「え…?」

まるで予想外の答えに、陛下はじっと無言のまま。


「だから、陛下の誕生日ですよ。今日は陛下が生まれた日です。何か贈り物をしたかったんですけど、たいしていい案が思い浮かばなくて、結局いつものように手料理を作って参りました。味は保証済みですので、安心してお召しあがりください」

夕鈴はこほん…と咳払いをひとつすると、取り繕うように早口で話し出した。

陛下はしばらく呆然と、夕鈴の言葉に耳を傾けていた。
















真っ赤な顔の兎の傍らに、にこにこ顔の子犬が一匹。
陛下は、めいいっぱいの微笑みを浮かべて、夕鈴の手料理をゆっくりと味わっていた。


「とっても美味しいよ、夕鈴。僕って幸せだなぁ」

「……」

赤面もののセリフの連発に、すでに夕鈴には言葉がなかった。


「僕の為に作ってくれたんだよね。しかも隠し事も僕の為だったなんて…こんなに嬉しいことはないよ」

子犬の甘いセリフは止まらない。


「昨日の夜の質問はこれの為だったんだね?」

「はい。せっかくなら何か効果のある食材を使って料理を作りたくて。陛下が何も答えてくださらないので、結局何にでも効く健康料理になってしまいましたが…」

夕鈴は色とりどりに並べられた食材に目を落とす。
がんばって作った甲斐があって、どれもおいしそうに出来ていた。


「おいしいな…」

陛下が今まさに口に運ぼうとする食材を見つつ、夕鈴は袂から分厚い本を取り出した。
ぱらぱらとめくったかと思うと、食材の効用について語りだす。


「それは滋養強壮に効果の高い食材です。最近、お疲れ気味の陛下には一番いいですね」

嬉しそうに語る夕鈴。


「そんな分厚い本を、袂に入れていたの?」

「はい。書庫でいい本を見つけて。とっても為になるんですよ~これ」

子どものように見せびらかす夕鈴の仕草に、陛下が面白くて噴き出した。


「何がおかしいんですか。本当に為になるんですよ」

「ごめんごめん。嬉しくて面白くてつい笑っちゃった」

嬉しくて面白いなんてことあるのかしら…心に浮かんだ言葉に蓋をして、夕鈴はとりあえず微笑んだ。


「夕鈴。やっぱり君は最愛の妃だ。僕、こんな風に誕生日を祝ってもらったのは初めてだよ」

「喜んでいただけてよかったです」

「とっても嬉しいよ。夕鈴」

「あの…」

「うん?」

「いいえ…お茶を召し上がれ」

嬉しそうなその表情を見てしまったら、結局何も言えなくなるのである。
過激な演技も今日だけは大目に見てあげよう。

夕鈴は、お茶を淹れると、陛下に差し出した。ふいにその手を捕らえられ、夕鈴の心臓がどくんと跳ねた。


「夕鈴、ありがとう」

「いいえ…もっとちゃんとお祝い出来たら良かったんですけど。陛下、あんまりこういう催し、お好きじゃないって聞いて」

「李順が言ったの?」

「はい。でも、誕生日を祝ってもらえないのって悲しいし…だから控えめでもお祝いしたくて」

「ありがとう」

陛下はそっと呟くと、夕鈴の手首に口付けた。


「ちょっと陛下!?」

「こういう隠し事なら悪くない。でも、老師や李順に相談するのはやめて欲しいな」

「他に相談する相手が居なかったので…ところで、なんで知ってるんですか?」

「内緒」

にやっと口元を緩ませて陛下が笑った。
まるでいたずらを仕掛けた子どものように、あどけない笑顔。
いつも気の休まらない毎日を送る陛下へ、ほんの少しでも幸せを感じて欲しくて…生まれて来た今日という日を祝ってあげたくて…

陛下の笑顔を見ていたら、悩んで隠して、焦っていた日々も全部無駄ではなかったというもの。

夕鈴はほっと息をつくと、笑顔をたたえたままの陛下を見つめる。

ほがらかに甘く…柔らかい視線に、胸が熱くなった。




陛下…


「誕生日、おめでとうございます」






















二次小説第34弾完了です
今回は誕生日ネタ。
勝手に陛下を秋生まれにしております。だって原作でその話題がまったく出ないので!待って待って待って、待ち続けましたが…限界が来てしまいアップしてしまいました。お許しください。陛下が秋生まれじゃなかったらどうしよう…と不安になる小心者のミケです(笑)

陛下って自分の誕生日とか興味なさそうですよね。おおげさなお祝いって苦手そうです。王様って聖誕祭とかで盛大に祝いそうですが、陛下にはそんなイメージがありません。そこが陛下の魅力なんでしょうかね☆

今日から12月!最近めっきり寒くなって参りましたが、風邪などひかずにがんばりましょう!



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