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2010.12.19 (Sun)

星に願いを

「星に願いを」

陛下目線で短文です。
冬をイメージして書きました。

ではどうぞ。
















ここは夜も更けた後宮。
回廊の灯火に照らされて、陛下の濃紺の上衣が暗闇に浮かんでいた。

急ぎ足で、歩きなれた後宮回廊を波のように進む。そこの角を曲がると妃の部屋の前庭へ続く一本道だ。陛下は徐々に弾みだす足取りを抑えつつ曲がり角に差し掛かる。すると、前方からこちらに近づいて来る人影が見えた。
後宮女官であろうか…目を凝らして見つめた人影にはどこか見覚えがあった。
そばまで近寄ると、その人物が道の端に寄って深々と頭を下げる。陛下はその様子を目端に捉えながら、過ぎ去ろうとした一瞬、ぴたりと歩みを止める。

暗闇で気づかなかったが…。


「何してるの?夕鈴」

くるりと振り返ると、まだ頭を下げたままの夕鈴が驚いたように顔を上げた。


「バレちゃいましたか…」

長い袂で顔を隠し少し照れくさそうに答えるのは、狼陛下の唯一の妃、夕鈴であった。
その様子に訝し気に眉根を寄せて、陛下がそっと壁に片手をついた。
突然目の前に立ちふさがる陛下の姿に、夕鈴の穏やかな気配が緊張に包まれる。


「こんな夜更けに…共の者もつけず一体君は何をしているんだ?」

回廊をすれ違う人物が僕でなければどうする…相変わらず警戒心の薄い夕鈴を見下ろすと、目を大きく見開いて困惑顔でこちらを見ていた。


「えっと…ちょっと散歩がしたくって」

気の抜けた返答に、陛下の眉根はますます深く刻まれる。こんな夜更けに散歩?仮にも夫である私の帰りを待たずに…。
陛下の深いため息が暗闇に流れる。


「あ、あの…怒ってらっしゃいますか?ここで待っていれば逢えるかなぁっと思って」

肩を落として少し落ち込んでいた陛下であったが、夕鈴の言葉に目線を上げた。


「今のどういう意味?」

「えっと、実は散歩じゃなくて…」

もじもじと、何やら言いにくそうに身を縮める夕鈴。壁際まで追いつめられていたため、身動きできない状況がさらに彼女の言葉を止めているようだ。
陛下は手を壁から外すと、夕鈴から一歩だけ退いた。

夕鈴はほっと息を吐くと、戸惑いがちに陛下をゆっくりと見上げる。


「今夜は流れ星が見えると老師から聞きまして…良かったら一緒に見ませんか?」

思いがけない夕鈴のお願いに、陛下の表情が一変したのは言うまでもない。
















暗くなった中庭に、陛下と夕鈴の姿があった。
暗い夜道を慎重に歩きながら辿りついた四阿の中。その四阿の中で、ふたり並んで上空を眺めていた。広い中庭の中央までは回廊の光は届かない。空を覆う一面の星空が、ふたりの顔を白く浮かびあがらせている。


「綺麗な星空ですね」

隣で笑う夕鈴はとても嬉しそうで、陛下の顔も自然と笑顔を作っていた。
冬の星空の美しさは格別だったが、今夜の星空は本当に美しい。隣に座る夕鈴は、その美しさを余すことなく取り込んだかのように輝きを放っていた。


「今日の星空は一段と綺麗だ」

夕鈴の横顔に向かって呟いたが、彼女の視線がこちらに向くことはなかった。
美しい星空に心奪われすっかりと見惚れてしまっているようだ…陛下は夕鈴の様子に微笑む。


「流れ星、見れるでしょうか?」

しばらくその可愛らしい横顔を見ていたかったが…陛下は夕鈴の質問に、名残惜しそうに視線を外すと上空を見つめる。
無数の光点が散りばめられた空は、吸い込まれそうなほどに美しい。
この様子ならば、老師が言うように星が流れるかもしれない。


「今夜なら…見れるかもしれないね。流れ星に何をお願いするの?」

「何をお願いしましょうか…何も考えてなかったです」

夕鈴の言葉は、ただ純粋に僕と星空を眺めたかったんだと言っているように聞こえて、嬉しくなった。
誰かの何気ない一言に一喜一憂するなんて…昔の僕では考えられなかったことだ。

陛下は、目を閉じて記憶を辿る。

夕鈴と過ごした日々の思い出ひとつひとつが、陛下の心を暖かく染める一方で、じわじわと足元を覆うこの不安は何か…。閉じた目の奥底で、底光りする記憶の波。柔らかく暖かい思い出よりも、遥かに多い辛く悲しい記憶が、陛下の心に陰りを落とす。


「陛下?」

名を呼ぶ声音に気づき、はっと目を開けた。


「大丈夫ですか?」

僕を心配そうに覗き込む夕鈴の顔を見た途端、一瞬で陰りが過ぎ去って行く。まるで散りばめられた星空に溶け込んだかのように見えない。さっきまでそこにはっきりと存在していたというのに…改めて感じた夕鈴のすごさに、陛下は感心の息を漏らした。


「大丈夫だよ。僕もお願い事を考えていたんだ」

そうですか…ほっと胸を撫で下ろす様子に、陛下は浅く息を吐いた。


「陛下のお願い事って何ですか?」

「何だと思う?」

「え……何でしょう?」

顔を伏せて真面目に考え込む様子に、陛下は苦笑した。
自分のお願い事でさえまだ決まっていないのに…自分のことより人のこと、いつでもどこでも真面目な夕鈴は本当に可愛くて仕方ない。

陛下は思わずくしゃりと破顔する表情を隠すかのように、前髪をかき分けた。ほんのり熱くなった頬に手を置いて、頬杖をつくような形で肘を足にくっつける。この体勢の方がもっと彼女を見つめられる…見つめた夕鈴はまだ懸命に“僕のお願い事”を考えているようだった。


僕の願い事は…これぐらいの星空ではきっと叶わない。
今はただ…可愛らしい君の横顔を見て、このままふたりで過ごす時間が止まったらいいのに。

陛下の纏いつくような視線に集中力を切らした夕鈴が、顔を上げてこちらに向き直った。


「そんなに見られると、考えられません」

「なぜ?」

「なぜって…気になるじゃないですか!」

「僕はまったく気にならないよ」

「私が気になるんです!」

「そっか…」

陛下はしゅんと肩を落として、仕方なく夕鈴から目線を外した。


「な…そんなに落ち込まなくても」

途端に焦り出す夕鈴。困惑顔を浮かべて伸ばされた手、陛下は間髪入れず、その手を堅く握り締めた。


「!?」

「私は…ずっと君を見ていたいんだ」

「なななな…何を…何を言っちゃってるんですか!?狼陛下!」

一生懸命に体を反らして、狼陛下の気迫から逃れようとする夕鈴に少し心が痛む。そんなに嫌わなくてもいいのにな…陛下は口元に笑みを浮かべると、夕鈴の手を解いた。

狼陛下は失敗に終わったか…。
やっぱりまだ思うようにはいかない。夕鈴と僕との関係も、まだまだ上手くはいかない。もっとも、僕の気持ちを隠し通している以上、どうにもならないのだが…。
陛下の心に浮かぶ花の笑顔。ふいにその笑顔が曇る様子が心に浮かび身震いする。
いつの間にか足元を吹き抜ける冷たい風に、陛下は眉根を寄せた。足元からじわじわと這い上がってくる陰りの波の世界。何度ぬぐったら消え去るのだろうか…。


「そ、そんな顔しないでくださいよ、陛下」

「ごめんごめん」

はっと意識を取り戻した陛下が、笑って答えた。ははは…暗闇に響く薄い笑い声に、夕鈴はほっと息をつく。
夕鈴は安堵の表情を浮かべて僕に笑顔を見せると、目を伏せてまた考え出した。


「夕鈴。空を見ていないと…星が流れたことに気づかないよ」

「そ、そうですね。じゃあ空を見ながら考えます」

「夕鈴。僕の願い事はいいよ。それより君のお願いを叶えないと…」

「それを言うなら陛下こそ。空を見てください」

「僕はずっと空を見ているよ」

陛下の返答に、不満気にちらっと目線を送る夕鈴。陛下は不思議に思いながら、夕鈴の態度を注意深く観察する。


「陛下。お願い事をしっかり心に浮かべて、星に願うんですよ」

夕鈴はいつになく真剣な表情で、陛下に力説した。


「流れ星が見えたら、心の中で3回唱えるんです」

「うん」

「3回ですよ。一瞬ですからね、気を抜いたらダメです」

「うん」

「陛下。本当に分かっていますか?」

「うん。分かってるよ」

にこにこにこ…子犬の笑顔で陛下は答えた。
本当に分かってるんですか…ぶつぶつと、夕鈴はまだ不満気に独り言を呟いていた。


「そんなことより夕鈴。君のお願いは決まったの?」

「わ、私はまだです…でも、大丈夫です」

何が大丈夫なのか…なぜか自信たっぷりに語る夕鈴の姿を、陛下は疑問を込めて見つめ返す。


「ダメだよ。早く願い事を決めないと」

「私のことはいいんです。陛下、上空から目を反らさないでくださいよ」

「良くないよ」

「はい?」

「だって…僕の願い事は、夕鈴の願い事が叶うことだもの…」

「え?」

一瞬の沈黙の後、慌てたように夕鈴が口を開いた。


「な、何ですかそれ。どういう意味ですか?」

「だから、僕は流れ星に、夕鈴の願い事が叶いますように…ってお願いするつもりだから」

「な…なんで」

笑顔で言い放つ陛下の前で、力なく肩を落とす夕鈴。すっかり気の抜けた体で、夕鈴は再度、なんで…と呟いた。


「ダメだった?」

「ダメです。全然ダメです。陛下の願い事を言わないと意味ないです」

「だから言ったよ」

陛下は、そっと手を伸ばすと夕鈴の髪に触れた。流れるように長いその髪を一房取ると、唇に当てて目を閉じた。長い髪を通して夕鈴の身の震えが伝わったが、僕にはどこまでも心地良く伝わった。


「へ、陛下…」

さっきよりも動揺した声音で、夕鈴が呟く。
今更だけど…僕を呼ぶ声は夕鈴が一番甘い。などと考えつつ、陛下は目を開けた。

真っ赤な顔した兎が一匹、目の前で固まっていた。


「僕は言った。君の願い事を叶えるのが僕の願いだよ」

「でも…それじゃあ陛下が」

夕鈴がかすれる声を出したとき、上空で何かが瞬いた。
あっ…と短く声を出すと、陛下は上空に視線を移す。


「今、何か流れたかもしれない」

陛下の言葉にはっと気づいたように夕鈴が上空を見たが、そこには変わらず、静かに星がきらめきを放っているだけだった。


「もしかして流れ星!?」

「だね」

「あ~あ」

夕鈴はがっくりと肩を落とした。


「願い事、言いそびれちゃいました」

「大丈夫。また流れるよ…」

陛下は笑顔で答えた。
心底落ち込む彼女が可愛くて仕方ない…髪だけでは物足りず、思わず手を伸ばして頬に触れそうになったが、なんとか自制心を呼び起こして自らを制した。

中途半端に止められた陛下の手。
夕鈴は、大きな瞳でまばたきを繰り返して見ていた。本当は…訳が分からずに視線を送るその仕草すべて独り占めできるように、堅く腕の中捕らえたいが…これ以上はきっと警戒されてしまう。
狼陛下が不発に終わった今夜では、同じ手は通じないし。

これ以上は触れてはいけない…か。

ため息を漏らす陛下に、夕鈴は心配そうに声を投げてきた。


「なんでもないよ。ちょっと残念で…」

「私も残念です。でもまた流れ星見れますよ!今夜はがんばりましょう」

堅く拳を握りしめる夕鈴。まるで星空へぶつけるように、上空へ向かって意気込みを言い放った。

あぁ…やっぱり面白いな。
陛下は、込み上がる笑いに口元を押さえる。やっぱり彼女は面白くて可愛い。


「うん。今夜はがんばろうね」

陛下は笑い声を漏らさないように答えた。
夕鈴のこの様子では、きっと流れ星に願い事を言うまで粘るつもりだろう…。だったら僕も付き合うしかない。可愛い妃の願い事は、すべて叶えたいから。流れ星なんかに負けてはいられない。

意気込む夕鈴の隣で、さらに意気込みを深める陛下。
流れ星も夕鈴も…長期戦になりそうだ。だが、諦めるつもりは毛頭ない。



「でも……さっきの言葉…嬉しかったです」

ふいに耳に入って来た細い声。陛下は上空から視線を外すと、夕鈴の横顔をじっと見つめた。


「私の願い事が叶うように…って言ってくださったこと。私も、陛下の願い事が叶って欲しいと思ってたから」

一緒ですね…嬉しそうに微笑む姿に、胸が熱く高鳴った。
一瞬で波打つ鼓動に、陛下は息を飲む。甘く響く心臓の音が、僕に気づかせる事実。

やっぱり、夕鈴は面白くて可愛くて……愛おしくて仕方ない。


「願い事、思いついたよ」

「本当ですか!?良かった」

暗闇の中、光る夕鈴の顔。
夜空を覆う星空のきらめきにも負けないくらい、とびきりの笑顔が輝いて光る。

その姿を目に焼き付けて、陛下は瞳を閉じた。

流れ星に願うことはただひとつ。




いつまでも君と一緒に。



星に願いを。







二次小説第37弾完了です
クリスマスが近いのでバカップルを目指してみました(笑)
ちょっと路線からは外れましたが…ロマンチックな感じで仕上げることが出来ました☆
ミケの小説では、最近夕鈴がとっても大胆になっていくような…。ちょっとドキドキです。

最後までお付き合いありがとうございました



02:43  |  陛下片思い編  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

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