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2011.01.12 (Wed)

仲良し夫婦強化週間Ⅰ

「仲良し夫婦強化週間」

タイトルそのまんま。年が明けても、やっぱりミケはタイトルをつけるのが苦手です。
年明け長文第1弾!気合入れて書きました(本当かな?)

ではどうぞ。





















「仲良し夫婦強化週間…?」

「うん」

子犬陛下の急な提案に、夕鈴は大きな瞳を見開いてぽかんと口を開けた。

なんでしょうか…それは、とは質問しにくい。というかあらかた予想出来るので質問したくない。
夕鈴は目の前でにこやかに笑顔を振りまく陛下をやんわりと見つめた。

今はお昼の休憩の刻。
午後からは掃除婦バイトに専念するつもりで掃除箇所のプランを脳内イメージしていたところだが…めんどくさい要求にやる気は極限までそがれていた。

それでもバイトしないわけにはいかないので、夕鈴は重い腰を上げた。


「夕鈴?」

「午後から掃除婦バイトがありますので」

夕鈴は陛下の疑問の視線に答える。途端に怪訝そうな表情が見えた。


「僕の話聞いてた?」

「……」

どうやら避けては通れない話題らしい。夕鈴は小さくはい…と頷く。

陛下の話によるとこうだ。
夕鈴は狼陛下の唯一の寵妃として、臨時の花嫁を演じている。降っては湧いてくる縁談を避けやすいように、誰にも付け入る隙がないほどの仲良しぶりを披露しているわけなのだが…最近その仲良しぶりが臣下たちに疑われているらしい。こんな話は夕鈴には寝耳に水で、疑われていると知ってもどうしてよいか訳が分からないのだが…陛下の下した命令は、夕鈴にとってあまりに酷なものだった。
ただでさえ甘い演技にお腹いっぱいなのに…さらに糖度をあげよと言うのだ。このままでは消化不良を起こしかねない勢いだ。もちろん断固拒否したわけなのだが、雇われの妃に具申する権利などあるはずもなく…無惨にも夕鈴の希望は散って行った。


「午後からも政務室にいてね」

陛下の勅命に素直に従った夕鈴は、午後の微睡みが垂れる雲空をぼんやりと眺めながら、政務室のいつもの定位置に腰掛けていた。
耳に流れるのは怖い狼陛下の声と、側近の李順、さらには方淵といったお決まりのメンバーたちの声だ。夕鈴は耳慣れたその会話を聞くことなく、鳥のさえずりや草木が風に揺れる音色などといった魅力的な外の世界の音ばかりを集中して聞いていた。
だから気づかなかった。気づかなかったから急に現れた陛下の姿に飛び上がるほど驚いた。


「夕鈴」

恐ろしいほど低い声音で夕鈴を呼ぶのは、なぜか不機嫌そうな様子の陛下であった。


「は、はい」

上擦る声を隠す間もなく夕鈴は答えた。

しまった。
仲良し夫婦強化週間だというのに…これはよろしくない。
すぐに後悔したが時すでに遅し…目の前で無言で見下ろす陛下に気圧され、夕鈴は訂正の声を出すことも出来なかった。


「さっきから、幾度となく声を掛けていたというのに、君は一体何に意識を奪われていたんだ?」

陛下は強張る夕鈴の手を引っ張ると、そば近くに立たせた。そのままあごに手を添えると、夕鈴と至近距離で顔を合わせる。狼陛下の夫演技がいつもより熱が込められていると思うのは、気のせいであってほしい。


「すみません」

「許さぬ。私を置いて他に意識を反らせるなど許しはしない」

う…迫真の演技。夕鈴は切なく眉根を寄せる陛下の表情に、すぐに捕らわれてしまう。


「妃よ…その清らかな瞳が映すのは私の姿だけであって、耳に届くのは私の声音だけであって欲しい。他は許さぬ」

「……」

極甘のセリフに顔が熱くなってきた。火を噴いたかのように全身に熱がこもる。
熱に浮かされて胸が狂ったように早鐘を打ち始めた。夕鈴は高鳴る心臓に動揺しつつ、目の前で繰り広げられている寵愛にただひたすら耐えていた。


「それに…その愛らしい笑顔を向けるのはどんなときも私だけだ。良いな」

「…はい」

夕鈴はかろうじて頷く。手はぐっしょりと汗をかいていた。

陛下は夕鈴の返答に実に満足気に頷くと、口角を上げて不敵な笑みを浮かべた。
そして次の瞬間にはゆっくりと顔を近付けて来た。

えぇ!?

今のままでも十分顔同士が近いのに、さらに迫り来る狼に心の中叫び声を上げる。

抵抗しようにもがっちりとあごを固定されていたためそうは出来ない。しかも…
臣下に見られている今では拒否なんて出来るわけがない。

恐るべし仲良し夫婦強化週間。

夕鈴はぐるぐると回る意識の中、目を閉じた。






















なんだか気分が悪い。
夕鈴は色とりどりに並べられた夕餉の膳の前で、ひとつため息を吐くと箸を置いた。
王宮御用達の美食も今宵ばかりは箸が進まない。
早々に食事を終えた夕鈴に、侍女が心配そうに声を掛けて来た。


「お妃さま。いかがなさいました?」

「少し胸焼けがして…」

「まぁ…」

侍女は長椅子にしなだれたように座る夕鈴の傍らに佇んで、夕鈴の様子を食い入るように眺めていた。


「夕餉の味付けが濃かったのでしょうか…すぐに薬湯をお持ちしますわ」

「えぇ、お願いします」

胸焼けするのは料理の味付けのせいではないのだが、夕鈴は分かりきった原因を口にすることなく侍女を見送った。

昼間はなんとか第一線を守った。
普段から抱き締められたり、髪に触れられたり、何を今更…などと思われているかもしれないが、唇だけは奪われるわけにはいかない。
結局赤い顔でぎゅっと目を閉じる夕鈴の姿に苦笑を浮かべた陛下が、頬に口付けを落として今に至る。

薬湯を飲んで少し気分を和らげた夕鈴は夜着に着替えて寝室へと向かう。少し早いが今夜は眠ってしまおう…と考えていた矢先、陛下の来訪を告げる女官の声が聞こえた。

夕鈴は胸焼けのことを堅く口止めしてから、お茶を出す準備のため次の間に向かった。

お湯が沸くときの蒸気が湯釜から浮かび上がってほどなく、陛下が妃の部屋へとやってきた。


「おかえりなさいませ」

腰を折って優美に出迎える夕鈴。完璧に浮かべた妃笑顔は、陛下に抱き締められることによって崩された。


「!?」

「今宵は遅くなった」

陛下のため息が耳元で流れて、夕鈴の背筋がぞくりと震えた。


「やはり君の顔を見ないと一日が締めくくれない」

魅惑的な視線を寄越しながら陛下が呟く。


「そ…そうですか」

なんとか平静を保ち夕鈴は答えた。鼓動がうるさいくらい波打っていた。


「いい香りがするな…」

陛下はふと気付いたように呟くと、夕鈴の長い髪を指にからめた。


「湯浴みの後か…」

湯浴みと言われてどきっとした。近い距離での演技のせいか…何気ない発言でもいちいち赤面してしまう。


「お、お茶をお淹れします」

夕鈴はいたたまれなくなって、陛下の腕の中から逃れようと手を伸ばした。だが、その手が到達する前に陛下に掴まれてしまった。


「お茶はよい。少し早いが今宵はもう休もう」

陛下はそう言うと、ふわりと夕鈴を抱きかかえた。
突然視界が揺れて、夕鈴は小さく叫び声を上げる。


「このまま抱き抱えて連れて行こう」

「!?じっ自分で歩けます…」

「初々しいことだ」

夕鈴の慌てた声は、陛下の一笑にかき消されてしまう。有無を言わさぬ笑顔に夕鈴は言葉を失う。
反論出来ない。やはり…恐るべし仲良し夫婦強化週間。

夢見るような顔つきでふたりのやりとりに熱視線を送る侍女たち。夕鈴は結局素直に身を任せて、寝所まで運ばれることになった。


ほの暗い寝台に横たわると、静かな室内に陛下の息遣いが聞こえた。
肌をかすめる生暖かい感触に、夕鈴は身震いする。寝台に着いてからもなお離そうとしない陛下に、夕鈴は遠慮がちに声をかけた。


「あの、陛下…」

「ん?」

相変わらず艶のある笑みを浮かべた陛下が夕鈴と瞳を合わせた。こういうときの陛下は、その辺りの美人女官よりもよっぽど色っぽい。夕鈴は思わず赤面する顔を隠しながら、陛下の囲いから逃れようと身をよじった。


「どこ行くの?夕鈴」

「も、もう演技は必要ないかと…」

「今は強化週間だよ」

にっこりと笑顔を向けられて、夕鈴はたじろぐ。


「それは人前だけで良いのでは?」

「夕鈴…仲良し夫婦をより完璧に演じるためにも、普段からたとえ誰も見てなくても仲良しでいないとね」

陛下はそう呟くと、夕鈴の肩を抱いた。


「そ…それはどういう意味ですか?」

「夕鈴は可愛いなぁ」

「はい?」

まさかまたからかっているのかしら。夕鈴は愉快に笑う陛下を訝し気に眺めた。


「そんな顔しないで」

くすり…陛下が笑い声を上げた。


「わっ笑い事じゃないですよ」

「やっぱり夕鈴は可愛い。大丈夫だよ、僕何もしないから」

どの口がそれを言うのか…陛下の発言に夕鈴はため息と共に肩を落とした。


「あれ?何か怒ってる?」

「はい。昼間の演技はやり過ぎだと思います」

そうかなぁ…なんてのんびり呟いて、陛下が頭をかいた。


「そうです!」

「臣下に疑われてるんだから仕方ないよ。僕は楽しいし…全然気にならないけど」

「楽しい?」

「うん」

陛下の言葉に夕鈴はさらに肩を落とす。

この人の、人をからかい楽しむ癖はとても厄介だ。いつも振り回されているこちらの身にもなって欲しい。


「あの…前にも言ったかと思うのですが」

「ん?」

「私はあんまり楽しめないです」

「えーー」

陛下がしゅんと耳を垂らして瞳を寂しげに伏せた。
さっきまでの明るい気配がすぐに冷たく寂しげな雰囲気と化す。

ちょっと!その顔反則…夕鈴は慌てて陛下をなだめようと頭中をフル回転させたが、何も言葉が出ない。
その間も、陛下は心底悲しそうに瞳を濡らして、おぼろげな視線を惑わせていた。まるで百年の孤独の世界にでも旅立ったかのようだ。夕鈴は陛下の悲しみに暮れる様子に耐えられるはずもなく、すぐに謝罪した。
百年の孤独の世界から戻って来た陛下は、苦悶の表情を浮かべる夕鈴の頬にそっと触れた。


「やはり…君は素直で可愛い」

陛下は目にも止まらぬ速さで夕鈴の腰に腕を回すと、ぎゅっと抱き締めた。


「なっ…」

何をするのか。またふりだしに戻ってしまった。どこまでこの押し問答を続ければ良いのだろう。

反論する気も抵抗する気もすっかり失せた夕鈴。陛下の行為に身を任せると、不思議な感覚に捕らわれた。
相変わらずやかましいくらい跳ねる鼓動。だが、この鼓動は夕鈴だけのものではないような…耳を澄ますと、暖かい胸の奥からも同じく激しく刻む鼓動が聞こえたような気がした。


「……?」

暗闇の中では陛下の表情を窺い知ることは出来ない。
無言のまま目を閉じて聴覚だけに集中すると、やはり夕鈴とは別の鼓動が聞こえた。
もしかして…陛下もドキドキしてる…?
夕鈴の心に沸く親近感。自らと同じように激しく刻む鼓動に、妙に安心してしまう。
陛下のぬくもりに包まれてどのくらい時間が経ったのだろうか。ふいに頭上から低い声音が届いた。


「夕鈴……抵抗しないの?」

予想外の反応に驚いたのか…陛下が不思議そうに尋ねる。
抵抗しないんじゃなくて出来ないんです!普段なら、声を大にして叫んでいたところだったが、夕鈴が言うことはなかった。変わりに口を開いて別の言葉を呟く。


「強化週間ですし…お妃演技を極めてみます」

「……」

「より完璧に演じきりますよ!」

片手で拳を作って意気込みを語る夕鈴。その表情は活き活きとしていたが、反して陛下の表情は暗かった。


「?」

暗闇の中でもはっきり見えるほどに暗い陛下の表情に、夕鈴は疑問を浮かべる。
せっかくやる気が起こったというのに…何が気に入らないの?なぜか傷付いたかのように眉根を寄せる陛下に、夕鈴は訳が分からず見つめるだけだった。



Ⅱへつづく。


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