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2011.01.24 (Mon)

揺れる心と君と僕とⅠ

「揺れる心と君と僕と」

長々とちょっと重たいです。
陛下目線です。気分が明るいときに読んでください!


ではどうぞ。

















呼び掛けても答えない。
こっちを向いてもくれない。
それに…もう何刻も君の花のような笑顔を見ていない。


僕は深い深いため息をついて、夕鈴を見つめた。
窓際に座る彼女は眩しい夕日を受けていた。僕の焦がれる花は、初めて見たときからその輝きを失わずにそこにあった。
茜色に染まる頬、目の下に映るまつげの陰影、愛らしい唇、きちんと膝に揃えられた白く華奢な手。ひとつひとつを目で追う僕は、最後に願いを込めて夕鈴の顔を見つめた。
相変わらず膨れっ面の夕鈴。僕は再度ため息を吐くと、立ち上がり夕鈴に近付いた。
ゆっくりと近付く僕にも関わらず、頑なに顔を背ける夕鈴。僕がそば近くまで来て見下ろしたとき、やっと夕鈴の視線がこちらに向いた。

その表情を見た僕はかなり落ち込むことになる。夕鈴の顔が相も変わらず怒っていたからだ。
これなら見ないほうが良かった…普通の男ならばこんな風に思うかもしれないが、夕鈴の怒った顔も心底大好きなので、僕は穴が開くほどじっと見つめ続けた。
その間も夕鈴は無視を決め込んでいる。


「夕鈴、まだ怒ってるの?」

「いいえ、まったく」

答えた夕鈴はぷいっとそっぽを向いた。
嘘ばっかり…。僕はこれ以上妃の機嫌が悪くならないように策を巡らせる。


「さっきはごめんね、夕鈴」

僕は努めて子犬を意識してしゅんと謝った。いつもは効果的だったが、今日の夕鈴がなびくことはなかった。


「夕鈴、君に居て欲しくて…お別れなんて寂し過ぎるから」

「……」

少しだけ夕鈴が反応を返して来た。僕は間髪入れずに続ける。


「それに…やっと夕鈴も花嫁仕事に慣れて来たのに、やめちゃうなんてもったいないよ」

「……」

こちらを見て欲しい。君の目を見て話せないなんて辛すぎる。
僕は夕鈴の頬を両手で挟み、顔を合わせた。

夕鈴は気まずそうに視線を漂わせていた。


「夕鈴、君が許してくれるまで僕は何度も謝るよ」

「謝って済む問題じゃありません!」

夕鈴は僕の腕を解いた。


「人前でもないのに触れないでください」

夕鈴は冷たく言い放つと、立ち上がって僕から離れようとした。僕は慌てて夕鈴の手首を掴む。


「夕鈴、待て」

しばらくして振り返った夕鈴は、うっすらと瞳に涙を溜めていた。

あぁ…これはまずい。
僕は動揺する。夕鈴が本気で怒っている。


「夕…」

「離してください!」

振り払われた手をもう一度掴むことは出来なかった。拒絶が込められた高い声音に、僕の心がとっくに打ちのめされていたから。
逃げるように去って行く夕鈴の背中を目で追いながら、僕の意識は現実とは違う場所でさまよっていた。


















時は遡る。
きっかけは李順の言葉だったか。


「今何と言った?」

「もう間もなく夕鈴殿の借金が完済になります」

僕が驚くことはない。李順が二の句を告げる前に期間延長を命じた。


「給料はどうするんですか?」

「ボーナスとでも言って渡せばいいだろう」

今まで借金として差し引いていた分を今まで通りとし、何度か寸志として渡せば良い。僕の良案に対して、李順は一笑して却下した。


「そんなやり方は了承しかねます」

「私から話しておく」

「借金が返済し終わったと知れば、実家に戻られましょう」

「それは私が許さない」

夕鈴の居場所は今までもこれからもこの後宮だ。
今は仮でも私の妃としてそばに居て欲しい。
私は脳裏をかすめた思いに身震いする。いわば諸刃の刃のこの思い…いつまで通すことが出来るのだろうか。

今私が一番に恐れることは夕鈴の雇用期間が終了することだ。彼女がこの後宮を…私のそばを離れてしまうことがとても恐ろしくて堪らない。

私はため息と共に、李順の酷な言葉を断ち切った。

李順の言い分も分かる。昔の僕なら素直に分かっていたが、それを納得するには、彼女と過ごす時間を多く持ちすぎた。夕鈴を知らないままのあの頃に戻る気はさらさらない。
だとしたら結論はひとつ。


「夕鈴の雇用期間を延長する。異論は一切受け付けない」

僕の勅命に対して、李順は無言で頭を下げただけだった。

この判断が後々夕鈴の怒りに触れることになる。そのときの僕はまだ知り得ることはなかった。


















僕と夕鈴の関係って何だろう…最近よくひとりで考えていることだ。

現状は雇用主と雇用者。僕は王で夕鈴は臨時花嫁。最初に交わした契約は全く変わっていない。

だが時を過ごすうちに、ただの雇用関係では表せないほど、僕は夕鈴と特別の関係になっていた。少なくとも僕は特別だと思っている。

言葉で表現するととても難しい。
友情…これは違うだろう。信頼…正解でありまた違う。では愛情であろうか。
互いに互いを思いやり慈しむ心が愛情である。確かに僕は夕鈴を心から思い慈しみ、いつかは手に入れたいと渇望している。
だが…僕の思いは愛情とも表現されぬ。そうではなくもっと別の気持ち…もっと切なくて激しくて、狂おしいほどに焦がれて、体の奥底から溢れ出す強い気持ち。

僕は額に手を置いた。
手のひらの冷たさが心地良く伝わり、ほっと息を吐いた。感情が高ぶり過ぎると、血が登る。僕は自らの手で額を冷やした。
王とは常に平静で沈着、有り得ないほど冷酷でいなければならないというのに…夕鈴が僕の前に現れてからというもの、僕が固めた王像は崩されつつあった。もっとも…それを僕の周囲の人間に知られることは、万にひとつもない。他人に気取られるほど、まだ僕の心は狂いきってはいなかった。

だから、まだ愛情じゃない。
いずれはそうなるかもしれないが、まだ僕の心は純粋に夕鈴を思っているだけ。

僕は椅子の背もたれに背中を深く預けて天を仰いだ。
政務の合間に出来た短い休憩。いつもなら昼寝をしているか妃に逢いに行っているかだ。今日の選択肢はひとつしかなかった。なぜなら夕鈴が、いつまで経っても怒りを収めてくれないから。

なんとなく昼寝する気にもなれず、僕はこうして考えていた。

ふいに目を閉じると雑音が聞こえた。
王宮の護衛兵の稽古の声だろうか…はたまた侍女たちの噂話か。噂好きな彼女たちは、今頃は僕と妃の喧嘩話をしているのかもしれない。

僕はふっと笑った。

夕鈴と出逢う前であったなら、こんな雑音など聞こえていなかったはずだ。己に必要な情報以外、一切を受け付けない便利な耳であったから。
夕鈴に出逢い夕鈴に触れ夕鈴と笑い合い…夕鈴と過ごす毎日が僕に王以外の感情を与えた。
王とは非情であるべし、冷酷であるべし、媚びへつらう人間を信用せざるべし。そんな理想の王としての帝王学も、夕鈴の前では通じない。そんな人間は夕鈴にとっては虚像だ。偶像だ。取るに足りない人間だ。夕鈴に出逢わなければ…僕という人間は、虚像であり偶像であった。

なんて恐ろしい。

夕鈴にとって、取るに足りない人間になるなんて冗談じゃない。
いつでもその愛らしい視線を独り占めして、こぼれるような花の笑顔を受けたいし、白く細い手を絡め、甘く囁くように僕の名前を呼んで欲しい。そんな行為、虚像である僕が出来るわけがない。

夕鈴…僕はもう君以外望まない。


勝手に雇用期間延長を決めた僕を、夕鈴は激怒した。真面目な彼女が怒らないわけないと思っていたが…どこかで笑い飛ばしてくれると思っていた僕は、やはり甘かった。

仕方ないですね…口を尖らせながらも、柔らかい笑顔を浮かべて許してくれると期待していたんだ。本当に愚か者だと思う。自らを激しく嘲笑うが、すべてが失敗に終わった今では何もかもが滑稽に響いた。


「やはり…夕鈴は難しいな」

だが攻略してみせる。諦めるつもりはない。手離すつもりもない。別れるなんてとんでもない。たとえ君が望まなくても、僕は君を離さない。もう…離せるわけない。

君以外に、どこに僕の妃が居るというのだ。


僕は勢い良く立ち上がる。向かう先はもちろんひとつ。
















進む回廊は、空の色を受けて茜色に照らされていた。僕の濃紺の衣装も朱く染める。
あの日、喧嘩して僕の元から逃げ去った夕鈴の背中も、朱く染まっていたっけ…。

あまりに深く彼女を切望しすぎていたせいで、僕の気持ちが茜の空に届いたのかもしれない。

耳慣れた声音が響いたかと思うと、回廊の先に夕鈴の姿を見つけた。久しぶりに見る姿に胸が跳ねるが、王である僕はけぶりにも出さない。僕はいつもの気配をそのままに、愛らしい彼女に近づいた。

夕鈴が気づく前に僕から声を掛けた。僕の突然の出現に驚いた彼女であったが、逃げることはなかった。大きな瞳をじっと見開いて、僕を探るように見つめている。
そばまで近づくとさっと脇に寄って、拝礼する。僕は夕鈴の傍らに立って、優しく声を掛けた。


「散歩か?」

夕鈴は無言で頷く。ここまで気まずい表情を浮かべられては、笑ってしまう。僕は込み上がる笑いを抑えて夕鈴の頬に触れた。


「妃よ…機嫌は直ったか?」

僕の問いかけに対してうんともすんとも答えない夕鈴。後方に佇む侍女たちが、心配そうに僕たちを盗み見ていた。


「久しぶりに今宵は一緒に夕餉をとろう。君と話したい」

夕鈴は困ったという表情で、見つめ返して来た。まだ怒っているけど、侍女の手前断ることは出来ないと思っているのか…それとも口も聞きたくないほど僕を嫌っているのか…それとも。
僕はぐるぐると思考を巡らせたが、一巡して考えるのをやめた。考えても仕方ない。僕が望む夕鈴がやっと目の前に居るというのに、心の中という狭い世界に居るのはもったいない。

僕は相変わらず強情な夕鈴に微笑みかけた。

夕鈴は一言、では自室にてお待ち申し上げております…と呟くと、さっと踵を返した。

今回も笑顔が見れなかったか…内心を覆う暗く灰色の思いに胸がよじれそうになる。夕鈴…いつになったら、君自身を、そして君の心を余すことなく手にすることが出来るのであろうか。

焦る心に抗いきれず、気づくと僕は駆け出していた。夕鈴の後ろ姿だけを瞳に捉えて、回廊を駆ける。

愚かであると知りつつこのような行為に及ぶ僕を、どうか許して欲しいと願う。
夕鈴の肩を掴んだとき、身の震えが鮮明に伝わったが、僕の心は止まらない。

僕は驚く夕鈴を抱き上げて、さらに回廊を駆けた。
腕の中で小さく叫び声を上げる夕鈴の声を肌に染みこませて、僕は懸命に彼女を抱きしめていた。



Ⅱにつづく。

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