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2011.01.24 (Mon)

揺れる心と君と僕とⅡ

Ⅰのつづきです。












肩で呼吸をする僕は、このときとても苦しかったのだと思う。
夕鈴を見つめる僕は、必死の形相であったとも思う。目の前で為す術もなく僕を見つめる夕鈴は、とても脅えおののいていたから。


「夕鈴…」

呼吸を落ち着けてから、僕は彼女の名前を丁寧に呼んだ。
夕鈴は小刻みに震える肩を抱きながら、はい…と答えた。
君を驚かせるつもりも、君を脅えさせるつもりも、ましてや君に嫌われるつもりもない。
君に愛して欲しいから、君が好きだから、僕は愚かな行為に及んでいる。

そこまで分かっていながらも、それでも自らの心に抗いきれずに今、君を抱きしめている。
本当に滑稽だな。


「陛下…」

抑えきれない笑いが口から漏れていたようだ。夕鈴は僕の表情に脅えたような…それでいて心配そうな瞳で見つめ返す。


「ごめん、夕鈴…このまま聞いて」

夕鈴は無言で頷くと、強張った体から力を抜いた。


「勝手に君の雇用期間を延ばしたこと、心から謝罪する」

「……」

「君と過ごす毎日が本当に楽しくて…君が居ないなんて考えられなくて…」

だから何だ。僕は何を言おうとしている。
僕の本当の気持ちを伝えたところで夕鈴には届かない。返って来る拒絶の言葉を受け入れる自信などないくせに、僕はそれでも伝えようとしているのか。そんな思いまでして伝えたところで、伝え終わった僕には一体何が残ると言うのだ。

僕は揺れる頭の中で熟考した。夕鈴の澄んだ瞳には、苦しむ僕の表情がくっきりと写っていた。


夕鈴…出来るならば、いつまでも僕のそばに。

乾いた声音は届かない。僕の内側から湧き出す焦燥感、それに付随して黒く濁った闇が足下から這い上がって来た。じわじわと蝕むように蠢くそれは、夕鈴の目には触れさせてはいけないものだ。あの清らかに輝く瞳には絶対に映してはいけない。

君と出逢ったことで感じる絶望感。ぬぐいきれない孤独の波。絶対の王であり続ける限り、君との間に引かれる線はどこまでも長く深い。

僕は、ただ君が好きなのに。ただ、君の笑顔を見ていたいだけなのに。



音もなく、視界が真っ暗になった。



















陛下。

陛下。

誰かが呼んでいるのか。僕の名を。
優しく甘いその響きは、君しか知らない。


「夕鈴…」

目覚めて一番初めに見るのは君であって欲しいと、夢でも現実でも願っていた。


「陛下…」

「夕鈴」

「陛下…大丈夫ですか?」

君がそばに居るから大丈夫だ。君がこの世に存在してくれている事実だけで、僕はこんなにも幸せを感じている。


「陛下…」

「夕鈴、呼んで」

「……何を」

「僕の名前を」

「……」

「夕鈴、呼んで」

「黎翔…さま」

「夕鈴」

「黎翔さま」

「夕鈴…」

好き。

大好き。


景色がぼやける。夕鈴、泣いているの。君の輪郭がぼやけている。

違う…僕が泣いているのか。
悲しいと泣いているのか。寂しいと泣いているのか。君の心が欲しいと泣いているのか。
溢れ出す思いがとどまりきれなくなったとき、人間は泣くのであろうか。

頬を伝わる滴は生暖かく、まるで君の体温のようだ。
息もつかずに僕を見つめ続ける夕鈴を、僕も同じように見つめ返した。

冷たい地面が、僕の足下の熱を奪っていく。


いつの間にか、伸ばされた夕鈴の手が僕の背中を抱いていた。優しく子どもをあやすように、夕鈴が僕の背中をゆっくりなでる。

「どこに居たって、私は陛下の味方ですよ」

か細い声が耳に入る。くすぐったくて目を閉じて、また開ける。


「陛下」

手から伝わるぬくもりに、僕の濁っていた感覚は戻る。目覚めた僕の目に、はっきりと周囲の情景が映った。


「夕鈴、僕は…」

気を失っていたのか。迫り来る闇に呑み込まれて身動き出来なくなった僕を、君が救ってくれたのか。
そして、涙を流して君の心を僕の元へ繋ぎ止めようとした愚かな僕に、優しい言葉をかけてくれたのか。


「大丈夫ですか?」

「大丈…夫」

こうしている僕は、まるでわがままを言う幼子のようだ。気恥ずかしくなって、僕は少しだけ夕鈴から体を離した。涙はすっかりと乾いているようだったが、網膜を覆う湿っぽさが、僕の心をかき立てる。

出来ることなら数刻前からやり直したいぐらい、僕は恥ずかしさを感じていた。
確かに僕の心は切羽詰まっていたが、涙は反則だろう。優しい彼女が、なびかないわけはない。

そうこう考えている僕のそばで、夕鈴はくすくすとおかしそうに笑った。


「……」

ますます恥ずかしくなる。本当にやり直せないだろうか。


「笑うな、夕鈴」

「ごめんなさい。だって陛下…ちょっと可愛くて…」

可愛いのは君の方だ。


「急に名前を呼んで…だなんて」

言いながら夕鈴は、そのときのことを思い出したのだろうか。朱く染めた頬を両手で押さえた。
やはり可愛いのは君だ。


「いつか…君に名前を呼んでもらいたいと思っていたから」

「名前を?」

「僕の本名を呼ぶ者は少ないから」

僕は頭を振る。どうやら高まりきった心は、夕鈴の優しさで収まったようだ。

僕はほっと息をつくと、素直で可愛い夕鈴を見つめた。




『どこに居たって、私は陛下の味方ですよ』

初めて君への気持ちを感づかされたときの言葉だ。別れ際のあの言葉で、どうしようもなく君が離れて行くのが耐えられなくなった。あのときも、そして今も、君の言葉が僕を救ってくれた。

あの日の記憶が蘇る。僕はいつでも君に、いつでも君の言葉に癒され、慰められている。


「突然ごめん、夕鈴」

僕は懸命に笑い声を喉から漏らす。

君との喧嘩に動揺して、君と離れたくないなんてわがままを言って、あまつさえ子どものように泣いて、本当に馬鹿みたいだ。
君への気持ちに気づいてから、その気持ちをずるずると今日まで引き摺っている。こんな僕のそばに、君を引き留めても、君を困らせるだけだ。


「夕鈴。君の借金は完済した。君の自由にしていい」

僕は無理矢理言葉を絞り出して、片膝をついた。

もう一度夕鈴の笑顔を見てしまうと、きっと止められなくなる。君の優しさに付け込んで、僕は君を連れ去ってしまうだろう。それがどんなに罪深くても、僕は僕が制御出来なくなる。
だから…早くこの場から去らなければ。早く君を自由にして、僕の目の届かないところまで離さなければ。
伝わらない思いに悩まされる日々も、これで終わる…きっとこの方がいい。


袂が風に翻る。
ふたりの間を通り抜ける風は、どこまでも冷たい。温められた背中もすっかりと冷え切るほどに。

もっと冷たくなればいい。君のぬくもりを忘れられるように…。






「残ります!」

「え……」

叫び声に振り返ると、夕鈴が泣きそうな顔で僕を見ていた。


「ゆう…」

「私の自由にしていいんですよね?じゃあ、もう一度雇ってください。陛下の臨時花嫁として…」

夕鈴が90度に頭を下げた。
突然の行為に驚く。まさか夕鈴は、今僕が手放そうとしているものを繋ぎ止めようとしている…のか。


「君の借金は終わったんだよ」

「分かってます。でも…これからお金が入り用なんです。弟も官吏になるため勉強中で、塾代も馬鹿にならないし、それに父親もまたどこかで借金を作って帰って来てるみたいだし…それに」

夕鈴の顔が真っ赤に染まる。茜色の空よりも朱く…熱く。


「要するに!まだまだ働き足りないんです」

「ぷ……」

僕は口元を押さえた。必死な夕鈴を見てると、不可抗力で湧き出す笑い。笑ってる場合じゃないんだけど…でも抑えきれない。


「そんなに笑わなくてもいいじゃないですか!」

君の言うとおりだ。
君が怒ると分かっていて、それでも僕の笑いは簡単には止まってくれない。だからどうしようもない。


「嬉しくて笑ってるんだ」

「……」

「君とまた一緒に居られるから」

夕鈴は開きかけた口を閉じると、視線を泳がせた。朱い顔を隠すかのように、長い袂で口元を覆うと、ごにょごにょと何かを呟いている。


「本当に…残るの?」

「残るって言ったでしょう!まさか…残るなって言いたいんですか?」

「そんなわけ…ないじゃない」

僕は笑う。
お腹の底から笑うと、気分が良くなった。さっきまで足下を覆っていた闇も、今はどこにも見当たらない。


「ありがとう」

君の居ない毎日を過ごすこれからの日々に、絶望していたのは本当。
だから君が残ってくれると言ってくれて、嬉しくて堪らない。許されるなら、君を抱いて飛び跳ねたいほどに。

もう少し、僕のわがままは許されるだろうか。君を好きでいていいのだろうか。


「ありがとう…夕鈴」

僕は、君を諦めようとした。
大好きなのに、本当の気持ちを隠して君を忘れようとした。

でも。

「諦められないし、忘れられないか…」

僕はあごをさすりながら答えた。そして、不思議そうに眺める夕鈴に、にっこりと笑顔を向けた。
目が何を?と語っていたが、可愛い夕鈴についつい意地悪したくなって、僕はわざと視線を反らす。


「何です?一体…」

渋顔の夕鈴が尋ねる。


「やっぱり、君が好きだよ、夕鈴」

「!?かっからかわないでくださいよ!」

「ふふ…」

からかってなどいない。僕の本当の気持ちだ。
今は冗談っぽく言うぐらいしか出来ないけれど、いつかは君に。ほころぶような笑顔の君に言いたい。




君が好きだ。










二次小説第41弾完
ちょっと長々と重くてすみません。陛下の気持ちを書こうと思ったら、想像以上に長く…長く。
最近明るめだったんですが、久しぶりのシリアスです。

ミケの中では、陛下の片思い期間も可愛そうなぐらい長くなっております。書き上げたとき、これではあまりにも可愛そうなので、陛下の名前を呼ぶ夕鈴のくだりを付け足しました。(良かったね!陛下)
思わず泣いてしまった自分を恥ずかしがる陛下が、とても可愛らしいと思ってしまいました。原作ではありえませんね…ずっと黒陛下だったので、たまには可愛い彼もいいかなぁ。お気に召されましたら幸いです☆
次回は明るく行きます!最後までお付き合いありがとうございました


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