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2011.01.31 (Mon)

特別な言葉は胸のうちに

「特別な言葉は胸のうちに」

陛下目線で少し長いです。
前回が暗かったので、ちょっと明るめです!

ではどうぞ。
















「夕鈴、ほら!」

僕は喜々揚揚と言い放つ。目の前で真っ赤な顔して固まっている夕鈴に向かって。


「ほら、“す”だよ」

「………す…」

「“き”」

「……………き」

夕鈴は今にも消え入りそうな声を絞り出す。


「そうそう。“す”と“き”だよ。言ってみて」

「……す………す…すすす…」

夕鈴は“す”を連呼してから真っ赤に染まる顔を伏せた。そのまましなだれるように地面にかがみこむと、両手で顔を覆う。
夕鈴の手の隙間から、大きなため息が漏れる音が聞こえた。


「むり」

「無理なことないよー」

僕は、必死に笑いを抑えつつ夕鈴の腕を掴んで立ち上がらせた。


「これも仕事でしょ?」

にっこり子犬笑顔を浮かべて僕は言う。僕の軽い呟きに夕鈴の顔色が変わった。真面目な彼女に、仕事という二文字は刺激的だったようだ。


「そ…それはそうなんですけど、でもでも…」

「大丈夫だよ。ね、練習」

「う…」

夕鈴は真っ赤な顔を今度は青白く染めた。赤や青や忙しいことだ。僕は思わずにやつく顔にカツを入れて、無垢な微笑みを振りまく。




あぁ…こんな楽しいことはない。

僕は数刻前の出来事を思い返していた。



うず高く積まれた書類の山を掃くように片づけ、いつものように妃の部屋へと向かっていたときのこと。
今日は夕鈴とどんな話をしようか…と考えていた矢先、ふいに耳慣れた声が聞こえ、僕は歩みを止めた。

僕が歩みを止めたすぐ隣には、妃の部屋が覗ける格子窓があった。耳慣れた声は格子窓から届いている。
僕は少しだけかがみこんで、中の様子を確認する。
妃の部屋の居間、腰掛けた夕鈴に対面する形で、側近である李順の背中が見えた。

夫である僕よりも先に夕鈴の部屋に居るなんていい度胸だ…僕は少々訝し気に思いつつ、妃の部屋へ続く扉へと向かおうと、足を踏み出した。

だが、中から聞こえてくる魅力的な会話に僕の歩みは止まる。
室内は、夕鈴の動揺した声音が響いているようだった。その声は反響して、僕の立っている場所にも鮮明に届く。


「ぎ…ぎこちないですか?」

「えぇ」

「あの…どのあたりが?」

「具体的には申し上げられませんが…なんとなく。お妃演技もやっと板について来たかと思っていたのですが…最近のあなたの演技はどこかぎこちない。陛下と何かあったのですか?」

「いいえ」

なんの躊躇もなく、夕鈴は即答した。
答えるときになぜか慌てた様子で頬を高揚させていたが、そんな彼女の態度に僕の心が跳ねることはない。夕鈴がぎこちない理由が、僕には全く覚えがなかったから。
そもそも、夕鈴がぎこちないのは今に始まったことではないし。僕は苦笑いを浮かべ、夕鈴の態度を注意深く眺めた。


「ではなぜです?」

「あの…私そんなにぎこちないですか?」

「はい。とても」

李順はこれでもかと眉間にしわを寄せると、固めた渋い表情のまま夕鈴を軽く睨んでいるようだった。
そんな李順の様子に、夕鈴の顔色が悪くなったのは言うまでもない。


「とにかく、明日の臣下たちを招いての祝宴の席では、いつも以上の仲良しぶりを披露していただかなくてはなりません…くれぐれもよろしくお願いしますよ」

「は…はい」

夕鈴は青い顔で何度もうなずいていた。
そんなふたりのやりとりを、終始漏らさず見ていた僕の脳裏に浮かんだ名案。


「これは…好都合」

暗闇に、もうまもなく染まろうかという夕暮れ時。
小さく口から出た僕の呟きは、もちろん夕鈴の耳に届くことはなかった。

















「“好き”だと言えばいいんだよ」

「わ、分かっていますよ!」

「そんなに言いにくいかなぁ…」

「言いにくいっていうか、恥ずかしいんです!」

「ふうん」

ここで特訓うんぬんと言えば、夕鈴は火のように怒るだろう。もしくは絶望するか。どちらにしても機嫌をそこなわせるのはよろしくない。こんな楽しい企画なのに…夕鈴を怒らせてしまえば元も子もないから。


「でも夕鈴…李順からぎこちないって言われたんでしょう?明日のためにも練習しないと」

僕は恥ずかしがる夕鈴を見つめた。

本当は、李順の言葉は僕には寝耳に水なんだが…あの優秀な側近が、己の判断を誤るようなことはないと思うし。きっと僕には見えない何かを敏感に感じ取って、夕鈴に注意したんだろう。

普段彼女をいじめる行為は断じて許さないわけなのだが、今回ばかりは大目に見るか。内容が内容だしね。

僕は喜びを顔に出さぬように気をつけて、夕鈴と会話を進める。


「さあ、夕鈴」

「……っつ…」

夕鈴は戸惑うように目を伏せた。
彼女には少し酷だが、こんなチャンス二度とない。僕の野望を達成するためにも、夕鈴にはがんばってもらわないと。

僕は柔らかい笑顔を浮かべて、夕鈴に練習を再開するように促す。
相変わらず赤い顔の夕鈴が、纏わりつくような視線でまるで懇願するようにこちらを見ていたが、僕はわざと気づかないふりをした。


「たった一言、好きだと言えばいいんだよ」

「べ…別の言葉にしませんか?」

「別?」

「はい。その…あんまりストレートすぎるというか、恥ずかしすぎて…演技どころではなくなりそうですし」

「別ね…」

別の言葉を用意したところで、恥ずかしさから逃れられるとは思わないが…。
僕は、目の前でうつむく夕鈴を見下ろした。

僕の妃は初々しくて、かなりの恥ずかしがりだ。
恋心に芽生える経験も持たず、まだ愛を知らない純粋な彼女。

夕鈴にとって“好き”という言葉はとても特別なんじゃないんだろうか。演技で言っていいほど、そんな軽い気持ちで言っていい言葉じゃないから、こんなに嫌がるんじゃないだろうか。僕は夕鈴とのやりとりを思い出しながら、そんな風に考えていた。


夕鈴にとって“好き”と言う相手は僕ではない…か。
そんなこと前々から分かっていたし、今更ショックを受けることもないんだけど…。

僕は心の中で、ため息を吐く。

胸を囲む暗く灰色の気持ち。
それはどんどん増殖していって、僕の堅く閉ざした心の隙間を埋めようとする。まだまだ染め足りない…と嵐のように押し寄せるその思いに、つぶされるのが先が心を閉ざすのが先か。

僕はそこまで考えて、はっと気づいたように目線を上げた。
僕のそばには、相変わらず赤面顔の夕鈴が居る。僕はほっと安堵の息を漏らすと、夕鈴の顔を真正面から見つめた。

空のように澄んだ瞳。白い肌に染まる朱色の頬。形のいい甘い唇。柔らかく揺れるうす茶色の髪…。
僕が愛する彼女は、出逢ったときと変わらずに、ここに居る。
彼女の初々しさも、恥ずかしがり屋なところもすべて、すべて大好きで、僕は今夕鈴と向き合っている。

僕は、夕鈴の手を握りしめた。


君の前でまで闇の世界に取り込まれることはない。
僕は軽く頭を振ると、胸の濁りをさっさと追い出した。



「別の言葉かぁ」

「はい。す……す………っていうのはかなり恥ずかしいです!」

夕鈴は甲高い声で抗議する。


「じゃあ…恋しくて堪らないとか?」

「!?」

「もしくは愛しい人…とかかな?」

「!?」

「どっちにする?」

「…………やっぱり最初ので」

夕鈴は肩を落とすと、再度目を伏せた。
僕はくすり…と笑うと、夕鈴の手に指をからめる。


「まだまだ慣れないねぇ…」

「すみません」

いつまでも初々しい君。それが君のいいところであり、もどかしいところかな。
僕は謝る夕鈴に優しく笑い掛ける。


「大丈夫だよ」

とは言っても…さっきからまったく上達していないし、やっぱり君にとって酷だったかもしれないね。
せっかくのチャンスだったんだけど…仕方ないか。

僕は、残念がる気持ちに蓋をする。
夕鈴からの愛の告白、ものすごく聞きたかったんだけど、君を困らせるのは本望ではないから。
だから今回は諦めるか。


「夕鈴、困らせてごめんね」

「……」

「今回は仕方ない…明日はいつも通りの演技でがんばろう」

口では紳士的に言ってるが、なかなか握りしめた夕鈴の手が離せないのは、まだ僕の心が未練がましく思っている証拠だ。
しつこい男は嫌われるぞ…僕は懸命に己の心と戦い夕鈴から手を離そうとした。

だが。


「!?」

突然衝撃を受けたかと思ったら、夕鈴が僕の胸に顔を埋めていた。
柔らかく甘い香が鼻孔をかすめて、僕の意識は簡単に遠のく。


「夕…鈴?」

夕鈴は無言のまま僕の胸にすがりついていた。
普段初々しい彼女がこのような行為に及ぶとは考えにくい。僕はしばらくの思案の後、不安になって夕鈴の頬に手を添えたその時、夕鈴が顔を上げた。
顔を上げた夕鈴は、僕をじっと見つめていた。その視線があまりにも真っ直ぐだったので、思わず僕はドキッとする。


「夕鈴?」

「………き……」

「え?」

「……き……です」

「何…」

聞こえない。僕は耳を澄ませて、夕鈴の口元に視線を落とす。
夕鈴は大きく深呼吸をして、再度僕を真っ直ぐ見つめた。


「好き」

「……」

「好き…です」

「……好き………陛下」

「!?」

息が止まる。
夕鈴の衝撃の言葉に、頭がくらくらと揺れる。宙に浮くように視界が反転し、僕はめまいを起こす。

気づくと、僕は地面にしゃがみこんでいた。さらには両手で顔を覆い、彼女の視線から隠れるように身を縮めた。まるで冒頭の夕鈴と同じように。


「陛下!?」

「……」

「陛下!陛下!大丈夫ですか?」

夕鈴の声が耳に飛び込んでくる。
僕の心臓は破裂しそうだった。どくどくと高鳴る鼓動を悟られないように、なんとか夕鈴から遠ざかる。


「陛下!」

「だ…大丈夫」

僕は片手を上げて、もう一方の手は堅く顔を隠して、近づく夕鈴を制する。


「陛下…」

「た…ただの立ちくらみだから」

我ながら下手な言い訳に噴き出しそうになるが、ここは我慢。
僕は顔を覆っていた手を離すと、懸命に苦い表情を浮かべる。


「陛下…顔色が悪いです。すぐに侍医を…」

「もう平気」

僕は溜まっていた空気を肺からすべて吐き出すと、新鮮な空気を取り入れる。
血管が浮きそうなほど固めた顔の筋肉を解くと、いつもの表情でいつものように夕鈴に笑い掛けた。

夕鈴はほっと息を吐くと、安心したかのように胸に手を置いていた。


「大丈夫だよ。ごめんね」

無理やり整えた呼吸を繰り返し、僕は謝る。


「お…驚かせないでください」

「………それは僕のセリフ」

「え?」

「いや、こっちの話」


僕は、まだかすかに波打つ鼓動に耳を傾ける。
この作戦は失敗。思った以上に、夕鈴の愛の告白は衝撃的だった。

兎をオトすつもりが、逆にオトされてしまった。


「……」

僕は、愛らしい夕鈴の顔を眺める。




まだしばらくは…初々しくて、ぎこちない彼女でいいかな。













二次小説第42弾完了です
サブタイトルは、「狼、兎にオトされる」です(笑)完璧に夕鈴にやられちゃってます…陛下。
今回は、李順の注意を受け、臣下の前での仲良しぶりを披露するために練習をするふたりを書きました。仲良し演技のために、妃からの告白を強要する陛下って…かなりマニアックですね。こんな陛下ってどうなんだろう…と書いていて思いましたが、気にせずアップしてしまいました。
いろいろ突っ込みどころがたくさんあったかと思いますが、どうぞご容赦くださいませ☆

またまた悪巧みを計画する陛下。ですがそんな悪巧みも純粋な夕鈴の前では効果なし…。上手くいかないのが恋愛ですよね~まだまだ初々しくってぎこちない夕鈴が大好きです☆


22:39  |  日常編  |  TB(0)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

はじめまして、深見と申します。最近狼陛下にはまって、こちらまでたどりつきました。
もお、夕鈴がかわいくって最高です!!夕鈴大好きな私にはたまりません!
黒い小犬陛下がいいですね~。
深見 |  2011.08.17(水) 18:44 | URL | 【編集】

●コメントありがとうございます!

はじめまして、深見さま。
狼陛下が好きで遊びにいらしたんですね~コメント嬉しいです☆
好きすぎて読むだけじゃ飽き足らず、二次小説にまで手を出してしまいました(笑)夕鈴好きでしたか!夕鈴の可愛さに、深見さまと同じくミケもめろめろノックダウンです。彼女の可愛さが際立つ小説を書きたい!と常に思ってます♪これからも良かったら覗いてくださいませ!
ミケ |  2011.08.17(水) 20:18 | URL | 【編集】

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