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2011.02.07 (Mon)

恋心に気づくまでⅡ

Ⅰのつづきです。









居間にはすっかりくつろいでいる子犬陛下の姿があった。


「あっ夕鈴、お帰りー」

などと我が家同然のように答える僕に、夕鈴ががっくりと肩を落とす姿が目に入った。
その反応は予想通りだけど…少しショックを感じながら、僕は夕鈴に笑い掛ける。


「へい…!じゃなくて…李翔さん、一体ここで何してるんですか?」

「たまたま君の家の近くを通りかかったんだよ。久しぶりだから元気かなって」

「おとついの夜、お逢いしたばかりですが…」

「あれ?そうだっけ」

ははは…僕は愉快気に笑う。微笑んだ表情のまま居間の長椅子から立ち上がると、ゆっくりと夕鈴に近づいた。


「ご存じの通り、私、今休暇中ですが」

「うん。そうだね。君の帰りがあまりに遅いから迎えに来たよ」

「は?からかってるんですか!」

赤面顔の夕鈴が尋ねる。僕は夕鈴の頬に手を添えた。


「夕鈴。なぜ手紙をくれない?」

「か…書く約束などしていませんが…」

「前はくれただろう?」

「前は前。今は今です。昨日の今日で何言ってるんですか」

“手紙”という言葉に動揺する夕鈴。分かりやすい彼女の態度に、僕は心の中で笑う。


「君の手紙を待っていたのに…」

「もう二度と書きませんから、ご期待には添えません!」

「なんで…どうして?」

僕は驚いて尋ねる。二度と書きたくないと思ったほど、夕鈴には耐えがたい思い出なのだろうか。
僕は不安になって夕鈴の瞳を覗き込む。


「夕鈴…手紙書くの嫌い?」

「嫌いじゃないけど…あんな恥ずかしい思いはもう二度としたくありません!」

夕鈴はそう叫ぶと、つんと顔を反らした。
僕に手紙を書くのが嫌なんじゃなくて、書くのが恥ずかしのか…僕はひとりでに納得すると、夕鈴の長い髪を一房手に取りそのまま薄い唇に当てた。


「相変わらずつれない妃だ…」

「な!休暇中なのに演技しないでください!」

「……」

これでは、話にならない。
僕は予想以上に怒っているらしい夕鈴の機嫌をなだめるために、素直に謝った。
少しだけ落ち着きを取り戻した夕鈴は、僕の顔を見て浅くため息をついた。


「明日の夜には帰りますので」

「じゃあ僕も一緒にいる」

「たいしたおもてなしも出来ませんので…お帰りください」

「えーー冷たい」

「冷たいって…だいたい勝手に来るへい…っと、李翔さんがいけないんですよ。今日は家族水いらずで過ごそうと思ってるんですから」

「じゃあ僕も一緒でいいじゃない」

僕は夕鈴に腕を回して、その細腰をすばやく捕らえた。すぐに僕の腕の中にすっぽりと納まる夕鈴。僕は口端に笑みを浮かべて愛らしい妃に囁く。


「だって君は可愛い私の妃なんだから…ね?」

「な!?」

夕鈴の鉄拳が飛んでくる前に、背後から何かが割れるような騒々しい音が響いて、僕たちは振り返った。


「せ…青慎…」

夕鈴の表情が固まる。戸口に立つ青慎は、真っ赤な顔で茫然とこちらを見ていた。手には空になったお盆が乗っていて、足元には粉々に砕けた茶器がばらまかれていた。


「ご…ごめんなさい」

夕鈴は瞬時に僕の腕から逃れると、青慎の元へ駆け寄る。


「誤解だからね!」

夕鈴の怒声が室内に鳴り響く。外の道にも聞こえそうなぐらいの大声に、僕は笑いそうになった。


「う…うん」

「怪我はない?」

「うん、大丈夫」

「服が濡れてる。ここはいいから着替えてきて」

「うん…」


壊れた茶器を片づけ始める夕鈴。僕も近づいて彼女を手伝った。


「陛下!いいですよ。そんなこと…あなたにさせるわけには」

こそこそと夕鈴が呟いていたが、僕は気にせず茶器の欠片を拾い集めた。
かちゃかちゃと冷たい陶器の音が耳に響く。夕鈴はなんとか僕の行為を止めようと、必死で手を出していた。


「陛下、やめてください。怪我でもしたらどうするんですか!?」

「君こそどうするの…?」

「え?」

大きな瞳を見開いて僕を見つめる夕鈴を、僕もじっくりと見つめ返す。
途端に彼女が視線を逸らした。きっと恥ずかしさにいたたまれなくなったのだろう。


「僕は君の夫だ。君が怪我するかもしれないのに…黙って見てろって言うの?」

「……」

「夕鈴、下がっていて。僕が片づけるよ」

「………はい」

夕鈴の視線はこそばくて心地よかった。僕は、彼女が見守るそばで黙々と片づける。


『そんなこと…あなたにさせるわけには』

夕鈴の言葉がこれほどショックだなんて…彼女はきっと何気なく呟いただけであろうに。
昔から、特別な存在である僕。小さい頃から、僕を称え、僕を敬い、僕を崇める人間はとかく多かった。そのたびに感じていた心の軋轢。
僕は皆とは違う。皆と同じように笑い、同じように泣き、同じように感じてはいけない。絶対の王という枷は、自然に皆と僕とを線引きしていた。だけど…自分が他とは違うということは、どれほど残酷なのであろうか。

最後の欠片を拾い上げた僕は、まだ陰りのとれない心で夕鈴を見上げた。
夕鈴は、いつもと変わらぬ愛らしい顔で、僕を真っ直ぐ見つめていた。


「夕鈴…」

「陛下、ありがとうございました」

ふわりと笑う夕鈴。僕は思わず手を伸ばして抱きしめたい衝動にかられる。だが必死に抑え、いつもと変わらぬ子犬の笑顔で彼女に答えた。


「お礼といってはなんですが…」

「?」

「今夜は一緒に弟を祝ってください」

「いいの?」

「今日は特別ですよ~」

夕鈴の言葉にすっかり機嫌を直す僕。やっぱり君はどこまでも可愛くて優しい。


「君が妃で良かった……」

居間から立ち去る夕鈴に向かって囁いた言葉は、きっと彼女の耳には届かない。
でも…満足感いっぱいの僕に、これ以上の幸せもわがままも必要ない。

僕は思いっきり笑顔を浮かべると、夕鈴の後を追って居間を退出した。
















迎えた次の朝、夕鈴の実家の客間で一晩を過ごした僕は、誰かの話し声で目が覚めた。
ひっそりとした室内に細かく伝わる声音。まさか…この僕が寝坊?疑問を込めて覗いた格子窓からは、すっかり高くなった太陽が顔を出していた。

今までどこにいたって熟睡を許さない僕が、初めて寝泊りした家で寝坊するなんて…僕は軽く頭を振り、寝台から起き上がる。見渡した客間からは、僕の好きな香りがした。これは夕鈴の香りだ。

この香りに包まれて眠ったから熟睡出来たのかもしれない。やっぱり僕が安心出来る場所は彼女の元でしかないようだ。
夕鈴には少しうっとおしがられたかもしれないが、ここに来て良かった。こうなったら彼女の休暇が終わるまで、彼女のそばに居ようではないか。
僕は堅く決意する。その意志を夕鈴に伝えるのは早い方がいい。僕は上衣を手に取るとふわりと纏う。上衣からも夕鈴の香りが漂って来て、心地よさで顔が緩んだ。
王宮であれば、朝からくしゃりと破顔する王様を不気味に思うかもしれない。僕はふっと湧いた思いにクスリ…と笑いながら、上衣の紐を堅く結んだ。

ふと気づくと、また話し声が耳に届いた。どうやら話し声の主は外の庭にいるようだ。
このか細い声を、この僕が聞き違えるわけがない。目的の人物の場所を知った僕は、足取りも軽やかに客間を後にした。










「青慎…夕べは楽しかった?」

「うん、姉さん。ありがとう。僕、嬉しかったよ」

青慎のあどけない笑顔に、夕鈴の顔がほころぶ。
早朝というには遅く、それでもまだ朝の早い時刻、ふたりは箒片手に庭の落ち葉を掃いているところであった。

ふんふんと鼻歌交じりに掃き掃除を進める夕鈴に、青慎が遠慮がちに声を掛ける。


「あの…ね。姉さん」

「なあに?」

掃除の手を緩めることなく夕鈴は尋ねた。


「李翔さんのことなんだけど…」

「李…翔…?だれ…あっ李翔さんね!」

夕鈴は慌てて答える。偽名をすっかり忘れてしまっていた。
そんな夕鈴の様子に、青慎が口をつぐんだ。突然口を閉じた弟を不審に思い、さらにはバイト先の上司もとい、この国の王様の話題であったため、夕鈴は必要以上に動揺する。


「ど…どうしたの?」

「あの人…本当に姉さんの恋人じゃないの?」

「!?」

夕鈴はほっと胸を撫で下ろす。どうやら正体がバレてはいないようだけど、もっとやっかいな展開に夕鈴はまた動揺した。


「違うわよ。前もそう言ったわよね?あの人はただのバイト先の上司」

「ただのバイト先の上司が後輩の家にまで来るの?しかも仲良さげだったし」


ぎくり…夕鈴は今にも跳ねそうな鼓動を抑え、目の前で鋭く問いただす弟の姿を捉えた。
弟はこういうところには鋭い…夕鈴は墓穴を掘らないように気を付けながら、慎重に返答する。


「さぁ…それは分からないけど。もしかしたら査定とか…?」

「査定されているの?」

「物のたとえよ。たまたま通りかかって泊まる場所が無かったってのもありえるわよ」

「ありえない…」

青慎は夕鈴に聞こえないように小さく呟く。


「何?」

「姉さん、僕いいんだよ…」

「な、何がよ…」

やだ、何か変な展開。


「僕、フリーダムなお兄さんでも構わないよ。時々はっとするぐらい怖い顔してるけど、とってもいい人だし…」

怖い顔してる…バレてるじゃん、狼陛下。夕鈴は苦笑する。いや、そんなことよりも。


「違うって。本当にただのバイトの上司」

「本当?だって姉さんもなんだか楽しそうだし…」

「た…」

楽しそう?私が?
違う…楽しいんじゃない。いっつもあの人には振り回されて、私だけが慌てて動揺して、私だけが勘違いして…私だけが苦しい思いばかり…。

でも。


「……」

「姉さん?」

「確かに…あの方と一緒に居ると楽しい。それは認めるわ、青慎」

「うん。姉さん、あの人と一緒に居ると楽しそう。前よりも笑顔が多くなった気がする」

「笑顔?」

「うん。だから…早く仲を認めなよ」

「だから違うわよ!」

「はは…相変わらず姉さんも強情だね」

「だって…違うもの」

「姉さん?」


夕鈴は視線を落とす。
心に浮かぶのは陛下の姿。


「確かに私は、あの人と一緒にいると楽しいけれど…それ以上に心が苦しい」

「……」

「ときどき…そばに居ると、ぎゅっと胸が締め付けられて苦しくなるの…」

「姉さん。それって…」




「夕鈴……」

がさがさと草木をわける音に続いて、夕鈴の名を呼ぶ声音が響き、はっとして振り返った。


「あっおはようございます」

目覚めた僕に、夕鈴は腰を折って挨拶した。
突然現れた僕の姿に少し驚きながらも、夕鈴は笑顔を浮かべた。いつも後宮で僕を出迎えるときの笑顔さながらに。


「夕鈴。今日は……」

「あっ今日は、私ちょっと用事がありまして…でも、青慎にまた街を案内させますので」

「いや、大丈夫だ」

「?」

「今日はこのまま帰るよ」

「帰る?王宮へですか?」

「うん」

「突然…どうかされました?」

あんなに駄々をこねて一緒に居たいとわがままを言っていた僕だ。君が不思議がるのもおかしくない。


「あの…王宮で何か?」

「ううん」

僕は不安気に揺れる夕鈴の瞳を見つめる。夕鈴の瞳に映し出された僕の姿が晴れ晴れとしていた。


「何にもないよ。ただ君を大人しく待ってようかなぁっと思って」

「そ…そうですか」

「早く帰って来てね」

僕はにっこり笑うと、夕鈴の顔へ自らの顔を近づけた。夕鈴はビクッと肩をすくめると、無意識に体を引いた。
まだまだ初々しい僕の妃。でも先ほどの夕鈴の言葉を思い出す僕の胸には女々しい悲壮感はなく、ただ嬉しさのみが湧き出していた。



『ときどき…そばに居ると、ぎゅっと胸が締め付けられて苦しくなるの…』

夕鈴。それはきっと恋だ。
でも君がその意味に気づくのは、まだまだ先のこと。だけど今は…僕にはこの言葉だけで十分だ。


仕方ない…今はまだ、初々しくて鈍感な君を気長に待つかな。




「君が居ないと悲しくて寂しい…だから早く帰っておいで」

「……」

夕鈴は赤く熟れた顔を袂で隠すと、こくりと頷いた。










二次小説第43弾完です
夕鈴が恋心を自覚(?)するお話。嘘です…。まったく自覚してないです。
陛下といると心が締め付けられて苦しいって、完璧に恋です!恋!!でもまだ気づいていません。書いていて本当にもどかしいかったのですが、ミケはこういう展開が好きなのでどうぞお許しください。
夕鈴の宿下がりに付いて行く陛下(どこかで聞いたような…)と、それを勘ぐる弟。青慎初登場です!初登場記念に模試で一番を取らせてあげました(笑)実際に頭が良いかは分かりませんが、夕鈴の弟ならばお金の計算とか早そうですね~前々から登場させたいと思っていたので、書けて満足です
長文にもかかわらず、最後までお付き合いありがとうございました☆




19:31  |  夕鈴帰省編  |  TB(0)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

こんにちは、黒い騎士です!
私も「狼陛下の花嫁」大好きです!!

PCで小説探してたら、ミケさんのサイトを見つけましたww
作品全部読みました!
どれもきゅんきゅんきました!!!!!!!!!!!!!!!

次の作品も楽しみにしています!
黒い騎士 |  2011.02.09(水) 20:09 | URL | 【編集】

●コメントありがとうございます!

初めまして、黒い騎士さま。
小説を全部読んでいただけたようで、本当に嬉しいです~☆
きゅんきゅんする作品を常に目指して書いて、書き終わった後にミケもきゅんきゅんしております。
本当に夕鈴はピュアですよね~大好きです。
暖かいコメありがとうございました。これからもどうぞ遊びにいらしてくださいませ♪
ミケ |  2011.02.14(月) 18:15 | URL | 【編集】

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