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2011.02.21 (Mon)

君がそばに居るだけで

「君がそばに居るだけで」

久しぶりの夕鈴目線で少し長文です。
氾紅珠登場です。

ではどうぞ。














夜のとばりがすっかりと降りた妃の自室。
夕鈴は眠たい目をこすりながら、長椅子に腰掛けていた。
格子窓から差し込む月明かりは青白く、静寂に満ちた室内を囲うのはりんりんと奏でる虫の羽音だけ。
夕鈴がうとうとと船を漕ぎ出したとき、カタリ…と木の軋む音が小さく響いて、はっと目を開けた。戸口には陛下付の侍女が頭を下げて立っていた。


「お妃さま…」

夕鈴はまだはっきりしない頭を振り、戸口の侍女に視線を送る。


「どうしたの?」

「今宵はもうお休みくださいませ」

「……」

侍女の言葉で、夕鈴はまたか…と肩を落とした。
浅く息を吐き出すと、湯のみに手を伸ばしとうに冷め切ったお茶を飲み干す。
そんな夕鈴の様子に、侍女が悲しげに目を伏せたので、夕鈴は慌てて笑顔を見せた。


「遅くまでごめんなさいね、あなたももう休んでください」

「……はい」

侍女は控え目に答えると、再度頭を下げた。

夕鈴は一刻以上も暖め続けた長椅子から腰を上げると、寝室へとそろそろと進む。
途中、自分の湯のみとは別に用意された茶器が視界に入り、夕鈴の口からまたため息が出た。


「……」

今宵もまた、陛下は来られなかった。
もう幾日陛下に逢っていないだろうか…。政務室や回廊で見ることはあっても、ほんの短い刻なので逢ったとは言わない。ここ数日激務のため寸暇を問わず働き続ける彼と、まともに話すことすら出来ないのだから。

夕鈴はふとんにくるまった。冷たい寝台に身を縮める。
陛下付の侍女が来たと言うことはまだ陛下は政務中なのだろう。最近の彼の激務ぶりは火を見るよりも明らか。疲れたとか休みたいとか、そんな素振りは一切見せない王様なので、なかなか周囲の臣下たちは彼の心労に気付かない。夕鈴はそのことをとても心配していた。
いつもの彼のいつものこぼれるような眩しい笑顔を思い浮かべながら、夕鈴は目を閉じた。

一国を背負うという重責は夕鈴には想像出来ないけれど、それでも激務に追われる彼の心を癒やしてあげないと…夢の世界に入りかけた夕鈴の脳裏に浮かぶ陛下の顔は、とてもどんよりと曇っていた。

















「滋養強壮に効く薬…ですか?」

夕鈴は、紅珠の甲高い問いかけにこくり…と頷いた。


「それはどなたに?」

「最近お疲れ気味の陛下に差し上げたくて…」

夕鈴は少しだけ気恥ずかしさを感じながら呟いた。


「まぁ…」

途端に紅珠の顔が輝く。


「仲睦まじくてうらやましい…」

ほんのり桜色に染めた美顔を隠すことなく、紅珠はほぅ…と息を吐いた。
夕鈴は咳払いすると、慌てて口を開く。


「あの、別に私が心配して用意しなくてもいいのですが…」

「なぜですの?」

「だって…陛下には優秀な側近もいらっしゃいますし、頭の切れる臣下たちも多数…」

「お妃さま。いくら切れ者でもなかなか陛下のご心労には気付きませんものよ。お妃さまは陛下の唯一のお妃さま。もちろんのことながらお妃さまのご心配は当然のことですわ」

紅珠はきっぱりと言い放つ。
意志の堅さや妃に臆することなく意見を述べるさまはさすがに、名家のお嬢様だ。夕鈴は感心しつつ、素直にそうですね…と頷いた。


「お妃さま。滋養強壮に効果的なのは、お薬だけではありませんものよ」

紅珠はくすり…と笑うと、愉快そうに口元を緩めた。


「?」

「陛下…お疲れなのでございましょう?だったらお妃さまが癒やしてあげてくださいませ」

「私が?私など…何も出来ませんわ」

「お妃さま。お妃さまでしか出来ないこともあるものですわ」

ふふふ…なぜか魅惑的な笑顔を浮かべて迫る紅珠に、夕鈴はたじろいだ。


「な…なんですか?」

「私にすべてお任せくださいませ」




今宵、お薬を届けさせます…結局そう言い残し、紅珠は去って行った。




















「陛下がお呼びにございます…」

夕餉を済まし、すっかりと居間でくつろぐ夕鈴に突然現れた陛下付の侍女が告げる。


「陛下が?」

自分は忙しくて来れないから、私を召し出したのだろうか…夕鈴は苦笑する。


「どうぞお召し替えなさいませ」

「お召し替え?」

夕鈴は首を傾げる。今の服を着替える必要があるのだろうか。


「あの…」

夕鈴が疑問の声を出す前に、侍女たちが着替えの用意をし出す。
ばたばたと忙しく動き出す侍女の傍らで、夕鈴はふと思い付いた。

そういえば…。


「氾家から何か届いておりませんか?」

「もちろん届いております」

夕鈴の質問に、侍女たちがクスクスと笑い出す。


「?」

一体何?


「どこにあります?」

「今ここに…」

「え?」

「お妃さまが身につけられておいでです」

「……え?」

キュッと腰紐が締められる感触。次に、香油が肌にまぶされたのか、鼻孔をほのかに花香が刺す。


「身につけてるって…」

「ご用意整いました」

「この夜着のこと?」

「よくお似合いにございます」

「これは…」

まさか紅珠の届け物ってこの夜着?

どことなく光沢の輝く薄い夜着。全身鏡がないので全貌を窺い知ることは出来ないが、これはちょっと露出が多いのではないか…。


「き…着替えます」

「お妃さま。陛下がお待ちにございます」

「着替え…」

「お急ぎください!」

「でも…」

「お妃さま」

結局、あれやこれやと化粧までされてすっかりと夜着に着替え直した夕鈴は、侍女たちに押され押され、気付くと陛下の部屋の戸口に立っていた。
妃の部屋を出る間際にかろうじて掴んだ羽織を身に纏い、夕鈴は室内に進み出る。


「お待たせをいたしました」

「夕鈴…来たか」

陛下は笑顔で妃を迎え入れるとすぐに左手を上げて侍女たちを下げた。
いつもの展開を心得た侍女たちは無言で拝礼すると、陛下の部屋を後にした。


「夕鈴…」

子犬陛下に顔を戻した陛下は、嬉しそうに手を差し出す。
久しぶりに見た陛下の笑顔は、いつもより眩しく感じて軽く鼓動が跳ねた。


「来てくれて嬉しいよ。こんな夜にごめんね」

「いいえ…」

夕鈴は柔らかい笑顔にほっと息をつく。思ったほどお疲れではないようだ。


「ここ数日、ずっと待っててくれたみたいだね。忙しくて行けなくてごめんね」

「いえ!お仕事ですから。今日はもう大丈夫なんですか?」

「まだ終わってないけど、もう限界。夕鈴と何日まともに話せてないか李順にしつこく言ったんだけど…聞く耳なしだからなぁ」

陛下は一瞬だけ訝し気に顔を崩す。


「私…お仕事の邪魔をしていませんか?」

「邪魔なんて…何言ってるの、夕鈴…」

陛下は苦笑すると、夕鈴の手首を掴んだ。


「切りのいいところまで終わったから大丈夫だよ。それより夕鈴、珍しいお茶が手に入ったんだ。淹れてくれる?」

「はい」

「おいで、夕鈴」

陛下に導かれ、夕鈴は居間でお茶を出す用意をする。ルンルン顔で待つ陛下をちらっと見て、夕鈴は心の底から安心した。


「夕鈴、嬉しそうだね」

「そうですか?」

頬を隠しながら、夕鈴は答える。茶器にお湯を注ぎ淹れると、芳しい香りが室内を満たした。


「それほど私に逢いたかったのか?我が妃は…」

「………はい?」

茶器から視線を外して陛下を見ると、魅惑的な表情で夕鈴を見つめていた。急に変貌した狼陛下に、夕鈴はたじろぐ。


「いつもとは違う香油か…」

いつの間にか伸ばされた手が、夕鈴の長い髪を梳く。さらさらと耳元で流れる音に、夕鈴はぞくり…と身震いした。


「それに…」

陛下が立ち上がる。目線が近すぎて後ずさるしようとする夕鈴の腰を、陛下の腕が捕らえる。

「!?」

「今宵の夜着はいつもと違うな…」

「こ、これは…紅…」

紅珠の名前を出すと機嫌が悪くなることが想像出来て、夕鈴は口をつぐむ。


「どうした?」

「いえ、なんでもありません」

「ふうん」

狼の目が一瞬鋭く光ったような気がしたが、夕鈴は気づかないふりをした。


「……妃よ、そんなに分厚い羽織を纏って、暑くないのか?」

「……」

あ…暑いけど、暑いのは陛下のせいでしょう!…と声を大にして叫びたかったが、陛下の顔が近すぎて上手く声が出せなかった。


「脱いでも構わないが…」

私は構います!
肩に手をかけようとする陛下の手を軽く払いのけて、夕鈴は陛下を睨んだ。いつもより大胆な行為に及ぼうとする狼に、夕鈴は必死で対抗しようと体を動かす。力を入れて体を動かしたが、思った以上に頑丈な陛下の囲いからは逃れることは出来なかった。


「妃よ…久しぶりの逢瀬だ。そう堅くなるな」

「……ちょっ」

抱きしめる腕に力が込められる。ぎゅっと体に絡みつく陛下の腕。陛下の香りがそば近くに流れて、軽く眩暈を起こしそうになる。
夕鈴は苦しくて咳き込んだ。そんな夕鈴の様子に、陛下が少しだけ腕を解いた。


「な…何を…」

「夕鈴、この夜着はどうした?誰からだ?」

「…だれも」

耳元で囁かれて、声が上擦った。
意地悪な狼の行為に振り回されるのはこれで何度目か。心に悔しさが込みあがる反面、なぜか心地良い感覚に頭がぼうっとする。
ふわふわと頭を覆うかすみに腰を抜かしかけた夕鈴を、陛下がすばやく支えた。

目を開けたとき、すっかり子犬に戻った陛下の笑顔が目の前にあって夕鈴はほっと胸を撫で下ろす。


「な…何するんですか!」

夕鈴は憤然と抗議する。陛下は肩をすくめて、ごめんね…と舌を出した。


「こんな意地悪するなんて…」

「だって夕鈴、頑なに言わないから。おおかた氾家の娘からの贈り物かと思うが…」

「な、何のことでしょう…」

犯家と言われてドキッとする。
必死でごまかそうとする夕鈴の羽織の腰紐を、陛下がするりと解いた。夕鈴は慌てて陛下の腕を掴んだが、遅かった。すっかり露になった紅珠からの贈り物の夜着は、夕鈴の想像以上に露出度が高く卒倒しそうになる。

何この衣装…信じられない。いっそ夢であったらいいのに。


「夕鈴…きれい」

「見ないでください!」

夕鈴は手を伸ばして陛下の両目を覆う。だが、そんな夕鈴の行為もすぐに陛下に制される。


「なんで?良く似合ってるよ」

「見ないでくださいってば」

夕鈴は何も纏っていない自らの肩を抱くと、陛下の胸の中に飛び込む。これで陛下の視界に入ることはないはずだ。陛下の胸の中、相変わらずうるさいくらい鼓動は跳ねているが、こんな私を見られるよりはマシだ。
恥ずかしい!夕鈴は、陛下の胸に額をくっつけて、少しでも視界に入らないように身を縮める。


「……夕鈴……それ逆効果」

頭上で陛下が何か呟いていたが、夕鈴の耳には届かなかった。



「わ、私は陛下がお疲れかと思って、薬をお願いしたのに!」

ぼそり…陛下の胸の中、夕鈴が小さく呟く。


「夕鈴?」

「な…なのになんで」

こんな夜着を届けるのよ!夕鈴は心の中で叫ぶ。こんなので陛下の心が癒されるとは思えない。せっかく陛下に元気を出してもらおうと思ったのに、これじゃあ迷惑をかけているだけだわ。
心の葛藤を繰り返す夕鈴の傍らで、何かを納得した陛下がうん…と頷いた。


「なるほど」

「?」

「夕鈴、ありがとう」

「?なんで…私何も役立っていません。陛下がお忙しく働いてるのにお手伝いも出来ずに…」

しーっと陛下が人差し指を夕鈴の唇に当てた。


「大丈夫だよ、夕鈴。そんなこと気にしなくていいのに」

君らしいなぁ…苦笑する陛下を、夕鈴はぽかんと見つめた。


「君がそばに居るだけで…」

「え?」

「いや、氾紅珠も良く分かってるね。あの娘に対する認識を改めないといけないかなぁ」

「?」

「今回はいい仕事したよね」

「はい?」

何を言っているのか全く分からない。
夕鈴は疑問の視線で陛下を見上げた。見上げた陛下の表情は本当に嬉しそうで、夕鈴の胸がぎゅっとなった。














後日。

「お妃さま。陛下、すっかりとお元気になられたようで良かったですわね」

「え、えぇ…。あの、紅珠」

「はい?」

「滋養強壮のお薬ではなく、夜着が届きましたが…」

「あら?間違いなく滋養強壮のお薬ですわ」

「?」

「お妃さま。私、申し上げましたわ。滋養強壮に効果的なのは、お薬だけではありません…と」

夕鈴は大きな瞳をぱちくりとさせる。目の前のあどけない娘が何を言っているのかが、理解出来なかった。
夕鈴が首をかしげる様子を見て、紅珠が声を上げて笑い出した。


「お妃さま!なんて演技がお上手なの…」

ぽんっと手を打って喜ぶ紅珠。夕鈴の頭にはまだまだ分からないことばかり。
演技が上手いのは私ではなく、あの意地悪陛下の方だわ…夕鈴の脳裏に夕べの陛下の行為が浮かび、思わず赤面する。


「本当に…睦まじくておうらやましい!」

な、なんなの一体…。陛下といい紅珠といい…意味分かんない。
結局最後まで、夕鈴は陛下の言葉の意味にも、紅珠の言葉の意味にも気づくことは無かった。










二次小説44弾完
久しぶりのアップです~お待たせしてすみません
今回は、激務の陛下を気遣う夕鈴のお話。久しぶりに紅珠が出てきてやっぱり何か仕出かしてくれます!
このお話を書いてて思ったんですが、うぶで一生懸命な子ってホント可愛いですよね~。陛下はもう夕鈴を手放せないでしょう。悩殺夕鈴の夜着姿にノックダウン寸前でしたしね(笑)陛下の気持ちを総合的に判断しますと、「氾紅珠グッドジョブ!」って感じでしょうか。あ~原作に近いもっとクールな彼を書きたいんですが、ついつい脱線してしまいます。
こんな陛下でもお気に召されましたら幸いです☆



17:39  |  夕鈴片思い編  |  TB(0)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

ヤバいですね!
紅珠ナイス!!!!!!

明日LALA発売ですね☆
続きが楽しみです~
黒い騎士 |  2011.02.23(水) 14:15 | URL | 【編集】

●コメントありがとうございます!

紅珠ナイスですよね!
年下だけど恋愛経験は夕鈴より確実に多いので、今後の彼女の働きに期待大です☆
今月号楽しみですね~もう待ちきれません!
ミケ |  2011.02.23(水) 16:00 | URL | 【編集】

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