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2011.02.28 (Mon)

そのままの君でいてⅠ

「そのままの君でいて」

夕鈴目線で長文です。
久しぶりにオリキャラ登場。妃翠(ひすい)とお呼びくださいませ。

ではどうぞ。












いつもの時間にいつもの日課。
今日も夕鈴は、ぞうきん片手に広い後宮の立ち入り禁止区域をくまなく掃除していた。途中邪魔する老師を軽くあしらい、西日の差し込む窓枠を丁寧に拭終わったときのことである。急に視界に現れた人物に、夕鈴は息が止まりそうなほど驚いた。


「夕鈴殿!」

とてつもない剣幕で室内に駆けずりこんで来る李順。夕鈴は無意識に後ずさると、彼の毒牙にかからない距離まで間合いを取る。


「な…なんでしょうか?」

また私何かしでかしたの?該当する事例が多すぎてピンとこない。それでも夕鈴は必死でなんでもない風を装って冷静に質問した。


「何の御用でしょう?」

「あなたは…一体どれだけお探ししたと…」

肩で息をつく李順の様子が物珍しく、夕鈴は思わず覗き込んだ。この優秀な側近が、慌てる姿を見せることなど稀である。


「何をぼんやり眺めてるんですか!さっさと自室に戻って着替えてください」

「掃除中ですが…」

今は掃除婦バイト真っ最中である。あらかじめ割り振られた時間に割り振られた仕事をしているだけなのに…李順の言い分は、いくらなんでも横暴すぎるだろう。
夕鈴は軽く憤慨する。


「掃除などいいんですよ。とにかくすぐに着替えて陛下のお部屋に行ってください」

「陛下の?どなかた来られているのですか?」

「感がいいですね…あなたもこのバイトに慣れて来た証拠ですね」

結構です…めがねのふちを持ち上げながら、満足そうに李順が呟く。夕鈴はそんな彼の様子を不思議そうに眺めた。丸い大きな目の視線を感じて、李順ははっとして口を開いた。


「とにかく、お急ぎください。陛下がお待ちです」

鬼上司の命令に刃向うなど出来ず、夕鈴はしぶしぶ中途半端なままの掃除を放り出し自室へと戻った。言われるがままに妃衣装に着替え、李順と共に陛下の元へと歩き出す。


「あの…一体どなたがお見えなんでしょうか?」

妃に逢わせるということは、それなりのお客様なのだろう。李順の必死の様子からも賓客であることは見てとれる。


「隣国の正妃です」

「!?」

李順の言葉に、夕鈴の足が止まった。少しびっくりして、なかなか言葉が出て来ない。夕鈴は胸を押さえて、言葉を紡いだ。


「正妃?お妃さまがお越しなのですか?」

「そうです。黄都国の正妃。まぎれもなく、あの噂に名高い妃翠さまがお見えですよ」

妃翠さま…。
夕鈴の脳裏に、自分が見聞きした隣国正妃、妃翠の噂が飛び交う。

聡明にして容姿端麗、眉目秀麗。名家出身で家柄も申し分なし。温厚で優しい性格ゆえ人から慕われ、後宮では多くの支持者を得て向かうところ敵なし。黄都国には正妃の他に三人のお妃がいるが、王の目にとまるのは妃翠以外はなく、すべての寵愛を一身に受けている。

そんなすごい人が白陽国に。しかも陛下のそばに居る…。夕鈴はなんとなく不安気に揺れる心に、顔を曇らせた。


「そんな方が一体何をしに…」

夕鈴がぼそり…を口を開きかけたとき、陛下の部屋の戸口が見えて、ふたりは歩みを止めた。


「夕鈴殿、いいですか。妃翠さまは誰が見ても完璧なお妃です」

「それが何か…」

「まったく…にぶいですね。私はあなたに学んで欲しいのですよ」

「学ぶ?」

「私ではあなたのお妃教育には限界があります。目の前の素晴らしいお妃像をじっくり観察し学び、ひいては実践してください」

「……」

観察って…妃を昆虫か何かかと思っているのかしら、失礼しちゃう。
それでも嫌とは言えず、夕鈴は渋顔で頷いた。
















「拝顔かないまして…恐悦至極に存じます。黄都国正妃、妃翠にございます。どうぞお見知りおきくだしませ」

う…迫力美人。
夕鈴は目の前で腰を折って優美にあいさつする、美しい人をまじまじと眺めた。


「夕鈴…そばへ」

夕鈴は言われるがまま陛下のそばに寄る。妃限定の柔らかい微笑みを浮かべて、陛下が夕鈴の肩を抱いた。


「我が妃の夕鈴だ」

「初めまして、妃翠さま。夕鈴にございます」

夕鈴は丁寧におじぎした。顔を上げたとき、妃翠とばっちり目があってドキッとした。女でも見惚れてしまうほどの美貌…夕鈴は波打つ胸を押さえながら、隣の陛下を見上げる。


「王の名代として隣国から来られた。君とは年も近いし…仲よくして欲しい」

「はい」

夕鈴は頷いた。
こんな見た目も身分も自分とはけた違いのお妃さまと、はたして仲よく出来るのだろうか…内心の不安はさておき、これも仕事。夕鈴はとにかく失礼のないように賓客をもてなすべく努力しようと心に決める。


「陛下唯一のお妃さまにお逢い出来て光栄です。どうぞ仲よくしてくださいませね」

妃翠は柔らかい面差しを浮かべたまま、夕鈴に笑い掛ける。
その笑顔は決して作り物のようでなく、夕鈴はほっと息をついた。どうやら温厚で優しい性格という噂は本当のようだ…これなら仲よく出来そう。


「こちらこそ。どうぞよろしくお願いします」

夕鈴は少し緊張顔を浮かべつつ、笑顔で答えた。


















「白陽国庭園は本当に美しいですね…」

頬をほんのり染めて呟く妃翠の横顔を、夕鈴はぼうっと見つめていた。
庭園よりも美しいその横顔からなかなか目が離せない。目にばかり集中していたため、妃翠の質問は夕鈴の頭を通り過ぎてしまった。


「夕鈴さま?」

「は…はい!何でしょう?」

しまった…慌てて咳き込む夕鈴。妃翠はそんな夕鈴を見て、口元に笑みを浮かべた。


「美しい庭園ですね」

「そ、そうですわね…今が見頃と花々が咲き誇っております」

夕鈴は心を落ち着かせて答えた。
この美しい人に見惚れるのはこれで何度目か…姿形だけでなく、所作の優美さや、私のような身分の低い一介の妃妾に対するきめ細かい心配りなど、どこをとっても完璧なお妃さま。隣国王が愛してやまないというのも頷ける。

夕鈴の返答に、妃翠が抑えきれずに口元に手を当てて笑い出した。


「?」

「夕鈴さまは面白い方ですわね…とっても素敵ですわ」

「そんなことありませんわ」

おそらく社交辞令と分かっているけれど…夕鈴は照れ隠しに否定する。


「さすがに、あの狼陛下の氷の心を溶かしたお方。先ほどのことといい、仲睦まじくておうらやましいわ」

「そんな…それをいうなら妃翠さまこそ。王の寵愛を一身にお受けとか…初めてお逢いして思いましたけど、納得ですわ」

夕鈴は感心したように呟いた。これは社交辞令でもなんでもなく本心からの言葉だ。


「そのようなこと…王などいつ心変わりしてしまうのか分からないもの。このような栄華は続きませんもの…」

途端に憂い顔を見せて、妃翠が答えた。
あまりにも悲しげな表情に、夕鈴はどきりとする。


「あ…あの…」

「まぁ…変なことを申しました。申し訳もありませぬ」

はっと気づいたように妃翠が声を出した。元通り柔らかな笑顔を浮かべて、夕鈴に向き直る。


「どうぞお忘れくださいませね」

「……」

もしかして、妃翠は王と上手くいっていないのではないか…内心をかすかによぎる不安。それでもそんなことを聞き出すことなど出来るわけもなく、結局夕鈴はたわいのない会話をして、この日のもてなしは終了した。














『明日はどうぞ後宮を案内してくださいませ』


自室に戻った夕鈴は、去り際の妃翠の言葉と笑顔を思い出していた。
こういうときの夕鈴は変に勘が鋭い。自分のことになると…とくに恋愛面となると全くなのに。


「陛下がお見えです」

侍女の声で、夕鈴の思考は停止した。陛下の来訪を告げる声音にすばやく反応すると、腰掛けていた椅子から立ち上がり居間へと向かった。居間にはすっかりくつろいだ様子の陛下が居た。


「お帰りなさいませ」

「ただいま」

陛下は近づく夕鈴を抱きしめると、ぎゅっと腕に力を込めた。突然のことに、夕鈴は手も足も出ない。ついでに声も出なかった。


「半時ぶりに見る妃は、相変わらず愛らしいな…」

などと調子よく言うその口、塞ぐことが出来るものなら塞いでやりたい…。
侍女が退出したのを見計らって、夕鈴はやっと口を開いた。


「帰って来て早々、抱きしめるのはやめてくださいよ」

「なんで?夕鈴…君は僕の妃なのに?」

「臨時花嫁です!」

夕鈴の返答に、陛下がむう…っと口を尖らせた。


「つれないな…夕鈴。いい加減、僕傷つくよ?」

「もう!からかわないでくださいよ」

「からかってな…」

「知りません」

夕鈴は陛下の手が緩んだ一瞬の隙をつくと、するりと囲いから抜け出した。そのまま卓に用意されていたお茶を淹れる準備をし始める。
まったく…油断も隙もないわ。でも…妃翠も私たちのこんなやり取りを見たら、うらやましいなんて思わなくなるわね。

夕鈴は陛下にお茶を差し出しながら、くすり…と笑った。


「楽しそうだね、夕鈴。そんなに隣国正妃は良い人だった?」

「はい!素晴らしく綺麗でお優しく…私は終始ドキドキしっぱなしでした」

拳を握りしめて揚揚と語る夕鈴に対して、陛下はなぜか渋顔だった。


「それは…良くないね」

「え?なぜです?」

「たまには僕にもドキドキしてよ」

「はい?」

「妃翠ばっかりズルいなぁ…」

ぶつぶつと独り言のように囁き出す陛下。夕鈴は珍しい陛下の姿を食い入るように見つめた。
なんか…よく分からないけれど、拗ねている陛下って可愛い。夕鈴はふつふつと湧き出す笑いが止められずに、ついには声を上げて笑っていた。


「笑い事じゃないよ、夕鈴」

「だって陛下…面白くって。私に妬いていらっしゃるのでしょう?」

夕鈴はなんとなく拗ねた様子の陛下がおかしくて尋ねた。


「妬く?」

「妃翠は誰の目から見ても本当に綺麗で美しい方ですものね…陛下もきっと仲よくなれますよ」

「……」

陛下はしばらく黙した後、なぜかがっくりと肩を落とした。


「?」

「夕鈴…どうして僕が君に妬くのさ。むしろ逆だ」

「え?」

「我が妃は…どれほど私が君を愛しているか、一向に分かっていないらしい…」

ぼそり…狼陛下が呟く。突然どことなく現れた冷気に、夕鈴はぞくりと身震いした。どこも窓は開いていないのに、この寒さは一体何か…?

一通り周囲を見渡した後、もう一度見つめた陛下の顔は、完全な狼陛下の顔だった。


「あ、あの…」

怒りのオーラを醸しゆらりと立ち上がる陛下に、夕鈴は一歩後ずさる。
な…何?なんで狼陛下?なんで…怒ってるの?


「私が心に思うのは君だけだというのに…」

動揺しすぎて、陛下の声は届いていたが意味を悟ることは出来ない。夕鈴は大きな瞳を見開いて、変貌した狼の姿を目を反らさず見つめていた。

私…なにかまずいことでも言った?さっきまで楽しく談笑していたはずなのに。
ゆっくりと近づく狼から逃げ切れるはずもなく、夕鈴はすぐに壁際まで追い詰められた。

迫りくる狼の手。夕鈴はもう間もなく到達しようかという手前で堅く目を閉じた。

頬に生暖かさを感じ、夕鈴が体をくゆらせる。見覚えのある感触に、それはすぐに陛下の手の平であることが分かった。

目を開けると、陛下の顔が近くにあった。至近距離で揺れる黒髪に、夕鈴は激しく動揺する。
気づくと、頬に添えられた手が這うようにして耳元へ伸びていた。耳たぶに触れられたとき、夕鈴の全身を鳥肌が覆った。


「夕鈴…」

「っつ…離してください!!!」

無意識に、狼陛下の胸に衝撃をくらわせていた。夕鈴によって押し退けられた陛下は、あっという間に遠くへ離れていく。


「あ…」

しまった、またやっちゃった…。
夕鈴は突然のことにぽかんと驚く陛下の傍らで、全身から血の気が引くような感覚の中にいた。
もし李順が見ていたら、懲罰ものかも、いや確実に死罪にされる…。天下の国王陛下への狼藉、謝って許されるものではないだろう。夕鈴への死刑敢行をすんなり容認する李順の姿が容易に想像できて、夕鈴はひとつ身震いした。いや、今は身震いしているときではない。


「ごめんなさい!陛下」

夕鈴はすぐに謝ると、相変わらず呆気にとられる陛下のそばまで行って頭を下げた。


「私…なんて失礼を」

「……夕鈴。僕怒ってないよ。顔上げて」

今にも泣きじゃくりそうな顔を上げると、すっかり子犬に戻った陛下がにっこり笑顔を浮かべていた。


「私…陛下を……」

「妃の抵抗ならば、むしろ嬉しいくらいだ」

陛下は愉快気に笑うと、戸惑う夕鈴の頭をぽんぽん叩いた。


「僕こそごめん。君があまりひどいことを言うものだから…ついつい意地悪したくなった」

「え?」

「鈍感な妃を持つと苦労する」

「それ、私のことですか?」

「さぁ…誰のことかな」

陛下がごまかすように視線を反らした。なんて分かりやすい態度…鈍感妃って何よ。私はこれでもしっかり者で通っていますよー。心の叫びを出せるはずもなく、夕鈴は目を伏せる。


「そんな顔するな。それでも僕は君がいい」

陛下の言葉に、夕鈴の頬が朱に染まる。
赤い顔を隠しながら見上げた陛下は、満足そうに笑っていた。




Ⅱへつづく。

22:46  |  オリジナルキャラ編  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

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