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2011.02.28 (Mon)

そのままの君でいてⅡ

Ⅰのつづきです。













短期間の間に、夕鈴はすっかり妃翠と打ち解けていた。
妃翠は、夕鈴が他人から聞くよりも美しく聡明で、また優しく心配りに長けた女性であった。他の妃との覇権争いの渦中にあると噂される本人であったが、そんな様子などみじんも感じられない。むしろ争いことなど苦手で、ひたすら平穏な暮らしを望んでいるような…そんな方であった。

人の上げ足取りにばかり躍起になっている宮中において、妃翠のこの温和な性格が、王に気に入られ、王の寵妃たるゆえんかもしれない。夕鈴はひとりでに納得すると、目の前に佇む美しい人に話しかけた。


「黄都国の王様ってどんな方なんですか?」

「陛下でしょうか?とても立派な方ですわ。武と勇を併せ持ち、すべての民に味方され正しく国を統治する素晴らしい方です」

国王の武勇を語る妃翠は、ほうっと息を吐いた。その様子は本当に心から慕っているようで、夕鈴はほっと安堵する。先週ふいに漏らした妃翠の言葉に、国王と妃翠の仲があまり良くないのでは…と疑ったが、どうやら杞憂だったようだ。


「あの…国王とはいつもどんなお話をされるのですか?」

隣国の国王夫妻は一体どんな会話をしているのだろうか…常日頃から感じていたことを、夕鈴は質問する。


「どんなって…そうですわね。例えば季節の草花のことや宮中の祭りのこと。あとは国政についてでしょうか」

「国政?」

妃翠は国王と気軽に国政の話が出来るのか…さすがは正妃。夕鈴は自分との違いに、少し肩を落とした。


「陛下はなんでも私に相談なさいますので…私など何の役にも立ちませんが、一国を統治する重荷が少しでも軽くなるのであれば、本当に嬉しいことですわ」

「……」

なんでも相談する…か。一般的な夫婦の間では当たり前のこと。取り立ててうらやましがることではないが…心苦しいのはなぜか。


「…夕鈴さま?」

「私…。私は相談されたことなどありません」

「……」

「いつも何かお力になりたくて、陛下の重責を少しでも取り除いてあげたくて…でも、何もお話してはくれません」

「……」

いつも心に思い浮かべていたこと。言葉にするとなぜか…涙が出そうになる。夕鈴は軽く深呼吸すると、頭を振った。

こんな話、隣国の正妃にするべきことではないが…声に出したらすっきりした。自分の想像以上に溜め込んでいたのかもしれない…夕鈴は無理やり笑顔を作ると、妃翠に向き直る。


「すみません…こんな話」

「もしかして心配をかけたくないのではないでしょうか?」

「え?」

「今お話しをお聞きして私自身思うことなんですが…。きっと心配をかけたくなくて、だから何も相談しないのだと思いますわ」

「……」

そうかもしれない…。確かに妃翠の言うことにも一理ある。でも…なかなか納得出来ないのは、陛下のそばに長く居すぎたせいか。臨時でも妃であるという事実に、心が貪欲になったのかもしれない。


「夕鈴さま。もっと自分から聞いてみてはいかがでしょうか?」

「聞く?」

「きっと相談され辛いのでしょう。でも夕鈴さまから聞けば、お話してくださるはずですわ」

「そう…でしょうか?」

そういうものかな?妃翠が言うと、そうかもしれないと思ってしまうのが不思議だ。


「そうですよ。次にお逢いするときに、お聞きになられては?」

「……そうですね」

夕鈴は悩みを吹き飛ばすかのように笑った。妃翠もそれにつられて笑う。
確かに自分から聞いてみたことはあまり無いかもしれない…夕鈴は目を伏せる。例え仮の妃でも、陛下を思う気持ちは同じ。

妃翠の言う通りね。うじうじ悩んでいるよりも、聞いてみよう。




















「なにをぐずぐずしている!この案件は至急処理せよと申し渡したはずだ」

政務室に狼陛下の怒声が響く。


「申し訳ありません…」

怒られた臣下は、体をこれでもかと小さく縮めて、刃物のような鋭い叱責にひたすら耐えていた。


夕鈴は怒る狼陛下と、青白く染まる臣下の顔色を交互に見て、目を反らした。
やっぱり…狼陛下は恐ろしい。自分が怒られているわけではないのに、あの臣下の心の震えが手に取るように伝わって来て、とても直視出来ない。

あれで演技だからすごいわ…今更ながら感じた思いに夕鈴は感嘆する一方で、恐ろしい主君を演じ続けなければならない彼の気苦労を思い、胸が痛くなった。

王であるかぎり…彼は、偽りの自分を演じ続けなければならないのだろうか…。
ぼんやりと考える夕鈴。そんな夕鈴に徐々に近づいてくる気配に、気づくことはなかった。


「妃よ…どうした?ぼんやりして」

「!?えっ?」

ぱっと顔を上げると、陛下が不思議そうに覗き込んでいた。


「陛下?」

「そうだ。君の夫だ」

周囲を見渡すと、いつの間にか臣下は退出していて陛下以外誰も居なかった。


「政務は…?」

「とっくに終わった。君は僕の呼びかけにも上の空だったようだね。一体何を考えていたのか…」

するりと頬に伸ばされた手を、夕鈴は慌てて払いのける。


「国政を…」

「国政?」

「はい。陛下!私に何か相談はありませんか?」

夕鈴の問いかけに、陛下はぽかんと口を開けた。


「相談って…」

「はい!何でも言ってください。私…力にはなれないかもしれませんが、こんな私でも言っていただけたら心が軽くなります!」

拳を握りしめて一生懸命に語る夕鈴。陛下はしばらくの沈黙の後、何でも?と呟いた。


「はい!何でも…」

「じゃあ夕鈴。ひざまくらして」

「はい??」

「お嫁さんのひざまくら。僕、あこがれてたんだ」

「……」

それは相談ではなくお願いでは?
夕鈴は沈んでいく心を懸命に奮い起こして、もう一度始めから語った。語り終えた夕鈴のそばで、陛下はまた同じお願いを繰り返す。


「長椅子に移動しよっか、夕鈴」

「だ、だから私は相談を…」

「いいから、いいから」

結局なんだかんだと言いくるめられ、夕鈴は長椅子の上に腰掛けていた。ひざには子犬陛下の頭がちょこんと乗っている。

なんで…こんな展開に?

陛下からは、溢れんばかりの機嫌の良さが伝わって来た。鼻歌でも聞こえてきそうだ。
陛下は片膝を立ててすっかり寛いだ様子で、夕鈴のひざに頭を預けて目を閉じていた。

本当に気持ち良さそうな様子なので、眠ってしまいそうだ…夕鈴は陛下が眠る前に、再度質問する。


「陛下…相談ないですか?」

「ないねぇ」

「悩み事でもいいんですよ!本当に何でも聞きますので…」

話してください…必死に尋ねる夕鈴の手を陛下が握りしめる。


「夕鈴…今、僕はとても幸せ。悩み事なんてないよ~」

にこにこと無垢な笑みを浮かべて、陛下が答える。

嘘…ばっかり。夕鈴はなんだか情けなくなって、それ以上は何も言わなかった。
やっぱり私は、どこまでいっても臨時花嫁。妃翠のようにはなれない…ただのバイトに、大事な国政の相談など出来るはずないものね。

夕鈴は深くため息を吐いた。


「夕鈴…何を考えてるの?」

「何も。陛下が何もお話することがないのなら、それで結構です。その方がいいんです」

「どういう意味だ?」

「……申した通りの意味です」

夕鈴は顔をぷいっとそむけた。本当は今すぐにでもこの場から立ち去りたい…少しでも陛下の役に立ちたい、相談に乗りたい…などと考えていた欲深い自分をやり直したい。


「!?」

ふいに手に痛みを感じて、夕鈴は小さく叫んだ。痛みの発する手は陛下が掴んでいた手だった。


「いた!何する…」

「君は…勝手に質問して勝手に終わらせるのか?」

低い声音に、夕鈴の鼓動が跳ねる。さきほど、臣下を叱責していたときの氷のような冷酷な気配を感じ、肩をすくめる。


何よ…勝手に終わらせるって。終わらせたのはあなたでしょう。
夕鈴は涙でかすむ目で、陛下を睨む。陛下はすっかりと目を開けて、じっと夕鈴を見上げていた。


「言いたいことがあるのならば口に出せ」

「もう言いました。もう結構です」

「ではなぜ…そんなに辛い顔をしている?」

辛い顔?私…辛い顔をしてるの?
陛下から頼ってもらえない、陛下から相談してもらえない悲しさを顔に出していたというの?自分の意志とは無関係に曇る表情。夕鈴は、心にカツを入れて懸命に笑顔を作る。


「無理するな」

ひざから重みがなくなったかと思うと、陛下が体を起こしていた。
そば近くに揺れる漆黒の髪に、夕鈴の鼓動は激しさを増す。


「べ、別に…無理など」

「ではなぜ私の目を見ない?」

「……」

目を見てしまうと、きっと声を出して泣いてしまうから。でもそんなこと言えない、言えるわけがない。


「私は…君に相談事に乗ってもらいたくて、君の元へ来ているわけではない」

分かっている。表向き、妃を溺愛する陛下を演じているだけ…。そんなことは誰よりも分かっている。


「分かっています」

「分かっていない」

陛下はずっと掴んでいた夕鈴の手を引っ張ると、自らに引き寄せた。夕鈴の体は簡単に体勢を崩し、陛下の胸に抱きとめられた。


「君は何も分かっていない」

「どうせ…何も分かってません!役立たずの妃です!」

あなたから頼りになどされない…あなたが抱える問題の何ひとつ分かってあげられない…こんなの。


「君は、自分のことを役立たずの妃だと思ってるのか?」

「……っつ」


陛下から言われると、余計に言葉の重みが心にのしかかる。息苦しさにめまいを起こしそうだ。


『私ではあなたのお妃教育には限界があります。目の前の素晴らしいお妃像をじっくり観察し学び、ひいては実践してください』

李順の言葉が脳裏に浮かぶ。
そんなこと無理。私は…どんなにがんばっても妃翠にはなれない。


「夕鈴。言葉に出せ」

訝しい表情の陛下が視界に入って、夕鈴の心はまた震えた。


「夕鈴」

「……」

「夕鈴。君の言葉が聞きたい」

「……って」

「何?」

「頼ってください。もっと…」

私に頼って…夕鈴は目を伏せた。大きな瞳から涙のつぶがひとつ、陛下の手の甲に落ちる。
とめどなく溢れる涙、自ら制御することは出来なかった。陛下はしばらく黙したあと、夕鈴の涙を手でぬぐった。


「頼ってるよ」

「……嘘」

「私は君に頼っている、君にいつも助けられている」

「……でも、相談してくれません」

「君の前で仕事の話をしたくない。せっかく妃とふたりきりなのに…なぜ国政の話をしなければならない?」

「でも…」

「君には君のままでいて欲しい」

「私は私です」

「闇夜に染まるのは私だけでよい」

「……」

闇夜…陛下にとって仕事は闇の世界のことなのか。


「君の純粋さが、私は好きだ。だから…そのままの君でいて欲しい。別に他国の妃の真似をする必要はない」

「!?」

陛下の言葉に夕鈴は動揺する。妃翠のアドバイス通りに陛下へ質問を投げかけたこと、どうやらバレてしまっているようだ。


「確かに…見習うべき点の多い妃だ。でも…君は君だろう?」

「私は私…ですか?」

「そうだ。妃翠は妃翠、君は君」

僕はやっぱり、君がいいなぁ…くしゃりと破顔して、陛下が呟いた。どこまでも優しく柔らかい笑顔に、夕鈴の心はなだめられていく。

でも。


「闇夜も、私にお話しくだされば…月夜に変わるかも…」

「え?」

「月の出ている夜ならば、少し明るいはずです」

「………そうだね。君の言うとおりだ」

陛下が笑う、とても嬉しそうに。
あまりに嬉しそうで、夕鈴の胸が熱く高鳴った。


「だから…気にせずお話ください。私は聞きたい」

どんなことでも。たとえ心が、暗く深い闇の世界に取り込まれてしまっても。あなたが感じることを、共に感じたい。あなたが感じることを、共にわかちたい。

嬉しさも喜びも、苦しさも悲しみも、すべて。



私はあなたの妃だから。












二次小説第45弾完了
久しぶりのオリキャラです!隣国正妃、妃翠さま。この方はもうホント完璧なんですよ。李順もひっそりファンなくらい(笑)彼女と王の夫婦仲は良いような悪いような……まぁ想像にお任せします。

えー前置きはさておき…。
45弾は、陛下から相談されない、頼ってもらえない悲しさに心悩む夕鈴の姿を書きました。雑誌最新号でも、陛下に線引きされて落ち込む夕鈴を書いてましたね。ミケが思うに、陛下は誰かに頼れない不器用な方なんだと思います。夕鈴には、そんな陛下の心をほぐす唯一の人物になって欲しいと願っています

ふたりが本物の夫婦になっちゃえば、何でも話し合う良い夫婦になりそうなんですがねぇ…今はまだ微妙な関係ですね。でも、この微妙で曖昧な関係がミケにはたまらなく萌えます(笑)




22:48  |  オリジナルキャラ編  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

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