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2011.03.06 (Sun)

夜の花に抱かれて

夜の花に抱かれて

陛下目線です。
短文なので、すらすら読めるかと思います。

ではどうぞ。
















すっかりと日の沈んだ王宮。
僕は頬杖をついて、微睡む風景をぼんやりと眺めていた。朝から厚く垂れ込めていた雲は、予想通りに雨をもたらし、僕が見つめる先の景色を暗く染めていた。暗雲は外気を徐々に下げていき、深く吐いたため息を白く濁らせていく。
僕は、夜になっても終わる兆しの見せない政務に肩を落としつつ、渋顔で佇む側近を見上げた。


「次はこちらの案件です」

容赦なく目の前に広げられた書巻を手に取って、僕は文字を目で追う。すると、すぐに誤字が目に入った。僕はさもめんどくさそうに指摘しようと書巻をさらに広げる。広げた先から、また誤字が目に入った。書巻のひどい歪み方に、僕の機嫌はすぐに悪くなる。

僕は書巻を卓の上に投げた。途端に、バサリ…音を立てて、卓から固い床の上へと波紋を広げるかのように書巻が舞い落ちる。


「誤字脱字が多すぎる。これを作ったのは誰か?」

李順は、僕の質問に目を見開くと、僕の抱える書巻を食い入るように見つめた。


「申し訳ありません。すぐに訂正を。あの…どの箇所でしょうか?」

もう一度見つめた書巻は最初よりもひどい歪み方をしていて、僕は眉間にしわを寄せた。
こんなに分かりやすい落丁に気づかないとは…問いかけに答えるかのように、僕は指先を伸ばす。だが、思った距離にあった書巻に手が届かない。僕の手はひととおり空を描いたあと、元通り卓の上へと収まる。


「陛下?」

何だ…?なぜか浮遊感を感じて、足下を見た。僕の足はしっかりと地につけられていたが、つけられた地が歪んで見えた。不自然に歪んだ床に視線を落としもう一度確認しようとする僕は、突然の吐き気に襲われる。

平衡感覚を失った後のように、ぐるぐると目がまわった。僕は傾く体を、卓の端を握り締めることでなんとかふんばった。


「陛下!」

「っつ…」

揺れる景色に頭の奥がぼうっと霞む。この感覚は身に覚えがあったが、声には出せなかった。沈むように落ちていく僕の傍らで、李順が小さく叫ぶ声がいつまでも響いていた。














僕が闇なら、彼女は月。
この王宮で、漆黒の夜空を白く染めるのは彼女だけしか知らない。

夕鈴はいつも眩しさで輝いていた。清らかさを映す瞳に見つめられると、僕は彼女のとりこになる。目が反らせず…手放せない。僕の花は、僕が見てきたどの花よりも美しく、荘厳で、清らかで、芯の折れない花であった。闇に染まり、ときには血で染まる僕の心に射し込む一筋の光。長年に渡り心を濁らせる出来事も、夕鈴がそばに居る今では憂いることも稀だ。
彼女の笑顔を見るだけで、こんなにも簡単に僕の心は晴れるのだから。


「夕鈴…」

手に力強い感触を感じ、僕は眉根を寄せる。まだ夢の狭間に居る僕に、遠くから声が掛かる。


「陛下…」

「……」

「陛下」

甘く途切れるような声音。僕が好きな音色だ…いつまでも聞いていたいような、それでいてもったいないような…。


「陛下…起きて」

「……ゆう…りん?」

目を開けてやっと声を出した瞬間、僕を取り囲む者たちが一斉に立ち上がる様子が目に入った。そのことで、やっと現実の世界に戻って来たことを知る。


「陛下がお目覚めに!」

「大臣さまにお知らせを!」

「侍医をお早く!」

さまざまに流れる声音が、僕の頭を通り過ぎる間、僕は右手に触れたままの柔らかい手をぎゅっと握り締めていた。


「夕鈴…」

「はい!ここに居ます」

今にも泣きそうなか細い声を出すと、夕鈴は握った手に力を込めた。

あぁ…やっぱり君だった。僕はほっと息を吐くと、まだ揺れる頭を振って、寝台から起き上がろうとした。僕の背を傍らの夕鈴と李順が支える。


「ご気分は…?」

「良い」

侍医に答えると、僕よりも顔色の悪い李順を見た。彼は、いつものポーカーフェイスを崩して、僕のそばに子どものようにすがりついていた。


「大丈夫だ…」

「はい」

李順は深く拝礼すると、慌てて右往左往している臣下たちや侍女たちの元へ向かい指示を出していた。僕はそれをゆっくり確認した後、傍らの妃の顔を見つめた。
夕鈴は、見事な泣き顔を作って、肩を小刻みに震わせていた。その態度を見ただけで、かなりの心配を掛けてしまったことは見てとれた。


「夕鈴…大丈夫?」

僕は囁くように尋ねる。夕鈴はひくり…と喉を震わせたあとに、何度も頷いた。


「陛下…無事で良かった」

「うん…」

寝台に顔を伏せて泣く彼女のそばで、僕は心底安堵する。原因は何であれ、倒れた僕のそばで寂しい思いをさせてしまったことを深く反省しながら。














原因は過労。
後の報告で分かったことだ。
もう少し若い頃、僕は今より体力がなく何度か倒れていたが、最近になってからは初めてだった。一国の王がそう頻繁に倒れていては国が傾く…僕は王であるということを再自覚する。ただでさえ日頃から危険に危ぶまれている今、体調を崩してなどいられない。
そんな風に言うと、夕鈴は人間ですから…と柔らかく笑った。


「王とて人間です。体調を崩すこともあれば、気分が悪いこともあります」

「そうだね」

夕鈴の笑顔を見ていたら、どんな病気にでも勝てそうだ。僕は花の笑顔を目に焼き付ける。
途端に視線を感じた赤面兎が、なんですか…?と頬を両手で隠した。


「そんなに見ないでください」

「いいじゃない」

僕はクスクス笑う。夕鈴は怒ったようにぷいっと顔を背けた。


「心配かけて、ごめんね。夕鈴」

「……私、倒れられたって聞いたとき、心臓が止まるかと思いました」

夕鈴は胸に手を当てて、本当に良かったと囁く。そんな様子が愛らしくて溜まらなくて…手を伸ばそうとしたが、僕ははたと止まる。
これではいつもと同じ。

僕は椅子から腰を上げると、夕鈴のそばへ近づいた。


「陛下…?いかがされました?」

「王の妃とは……そういうものだよ」

「え?」

「王の妃になるということは、いつも夫の身の危険を感じていなければならない。僕が倒れたぐらいで、動揺してしまってはいけないんだ」

「!?でも!私…とっても心配しました。動揺して当然だと思います!」

「でも我慢しなければならない。妃とはそういうものだよ」

悲しげに眉間にしわを寄せる夕鈴に、僕は微笑む。


「君にその覚悟はある?」

「……それは…」

夕鈴の瞳が揺れている。映る僕の姿も揺れ惑う。
どういう意味であるのか判別しかねているのか…夕鈴は戸惑う表情のまま、僕の動向を窺っていた。


「夕鈴?」

「あの……」

目の前で佇む愛らしい兎に我慢出来ずに、僕は腰に腕をまわして彼女を抱いた。
適度に柔らかい感触に心がぎゅっとなる。君が本当の妃になってくれたら、過労などで絶対に倒れることなどないのに。


「夕鈴。どうなんだ?」

「……」

肌を通して彼女の激しい動揺が伝わる。どう答えたらいいのか熟考するより以前に、パニックを起こしているのだろう。

これ以上は…やっぱりダメか。いつもと違う展開を期待して、言ってはみたが…まだまだか。
僕は浅く息を吐くと、腕の中の夕鈴を見下ろす。

小さな彼女がいっそう小さく見えた。戸惑っているというよりも脅えているのかも。堅く身を縮めて、僕と必死で目が合わないようにしている。まるで次の僕の行為を予想して、体が自然に拒否しているかのようだった。

ショックを感じるのは初めてではない。でも、このままは悔しい。
近づいて逃げられて…手を伸ばして避けられて…いつまでこの関係を続ければ、僕の望み通りの展開が訪れるのか…。


「夕鈴。僕の本物の妃になってみる?」

「!?」

「君がちゃんと自覚出来るように…」

僕の妃であること。僕がこんなにも思っているということ。本当は自分で気づいて欲しかったが、どうしても言わずにはいられない。
だが…夕鈴は無言のまま、時が過ぎ去るのをひたすら待ち焦がれているようだった。


「……」

どうしたって…君は君か。それも分かっていたことじゃないか。

久しぶりに過労などで倒れた自分が情けなくて、君に当たっていたのかもしれないね。
僕はスイッチを切り替えて、緩めた顔を作る。くしゃりと破顔する様子を見て、やっと夕鈴が目を合わせてくれた。


「ごめん。また意地悪しちゃった」

照れ笑いを浮かべる僕にもかかわらず、夕鈴は切なく視線を漂わせるだけ。


「どうしたの?」

「私…覚悟も自覚もありませんが、でも…」


でも…何だ。
僕のことを少しでも好き?僕の気持ち、少しでも君に届いているの?


「でも…心配させてください。陛下は…大事な方です。急に倒れられても平気でいろだなんて…私には無理です。たとえ…」

「本物の妃になったとしても?」

「は、はい…」

夕鈴は朱い顔で目を伏せた。これ以上は恥ずかしすぎて言葉が出て来ないのだろう。
夕鈴はとっくに迎えていたであろう限界に耐えて、僕へ言葉をくれたのだ。

今はそれで十分か。


「そうだね。わがまま言ってごめんね」

「いいえ。きっと倒れられて心細くなったのでしょう。青慎も…病気になったとき、心細さに弱音を吐いていましたし…あっ、別に陛下が弱音を吐いているわけではなくて!」

「うん、分かってる。ありがとう」


なんて心優しい君。
そんな可愛いことを言われたら、今すぐにでも本物の妃にしたくなる。でもそんなこと言ったら…きっと君は火のように怒るんだろうなぁ。

僕は込み上がる笑いに刃向うことなく、盛大に笑った。お腹の底から。
笑う僕に、口を尖らせて怒る君。

妃の部屋ではいつもの日常が訪れていた。
厚い雲間から、いつの間にか顔を出した明るい月明かりに囲まれながら。













二次小説第46弾完了
少ししんみり…です。陛下目線にすると、どうしてもしんみり路線になりますね。
過労で倒れる陛下のお話です。原作の陛下も朝から晩までずっとお仕事していますが、ミケの中でもいつも激務です。激務すぎて妃に逢いにいけないのが、陛下の大きな悩みのひとつです。
お気に入りのセリフは(よく言えたものだと思いましたが)、「夕鈴。僕の本物の妃になってみる?」です。キャー!キャー(笑)ドキドキしながら書いてました本物の妃って素敵~こんなこと言われたら普通の女子なら頷いてますよね。頷かないのが夕鈴ですが…。



00:19  |  日常編  |  TB(0)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

●最高です!

毎日新しい記事アップされてないかチェックを欠かさずしてます!!
最高におもしろいです(*^▽^*)
仕事中もヒマさえあれば、ミント日和へなごみに行ってます(^o^)
大変そうですけど、楽しみにしてますので、頑張って下さい(^^)/
あち |  2011.03.07(月) 23:45 | URL | 【編集】

●コメントありがとうございます!

毎日遊びに来ていただいているなんて…嬉しくて涙です(><)
これからもどしどし遊びに来てください!
出来れば毎日でも更新したい勢いと情熱はあるんですが、なかなかですね(笑)でもがんばります!
どうぞ応援お願いします♪
ミケ |  2011.03.08(火) 09:16 | URL | 【編集】

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