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2010.07.28 (Wed)

笑顔の先にⅠ

「笑顔の先に」


昔のブログより。
少し長いのでⅠとⅡに分けています。

夕鈴の政務室通いの直前のお話しを想像して書きました。



ではどうぞ。









今日の私は少し不機嫌だった。


そばに控える優秀な側近も、政務室に出入りしている仕事の出来る補佐官たちも、朝から不穏なニュースばかり報告するから。

最近の政務といえば繁忙期のように忙しく、それに輪をかけたように不正官僚は後を絶たない。

今朝も、私欲の皮を被った古狸の不正が見つかり、厳しく処罰したところだ。


国を建て直し、粛正に粛正を重ね、ようやく安定の色を見せて来た最近の白陽国内で、私の信用する臣下は数少ない。

要するに人材不足なのだ。それが忙しさを際立たせている。


不眠不休で働く臣下が多い中、国王が働かないわけにはいかない。


朝から晩まで働き続け、唯一の楽しみである妃と過ごす時間を削ってでも政務をこなさなければならない毎日がひと月も続けば…誰でも機嫌が悪くなる。



今日も休憩が取れそうにないな…

私は後方で忌々しく鳴る午後の政務を告げる鐘の音を聴き、溜め息をついた。


ふと外に目をやれば、柔らかく光る魅力的な日差しが手招きしている。
外はあれほど穏やかなのに、私の心は雲がかったかのようにどんよりとしていた。


私は恨めしく一瞥し、手にあった書簡を広げた。


夕鈴は今頃何をしているだろうか…

今日も渡りがない私を思って寂しい思いをさせているかもしれぬ。

そんな思考が頭をよぎったが、私はすぐに考え直した。


夕鈴は私が知る普通の女性ではない。私の忙しさに見習い今頃は己の鍛錬に勤しんでいるかも。

そちらのほうがしっくりくる。

寂しい逢いたいなどと軟弱な考えは、彼女は持ち合わせていないような気がする。


私にばかり思わせてしまうなんてなんとズルいことか…

それが夕鈴の魅力のひとつなのだが。


私はひとつ苦笑した。


「……」

よほど甘ったるい顔をしていたのだろう…横顔に補佐官の当惑した視線を感じた。


彼女を思うと顔が緩んでしまうのは常であるが、補佐官に見られたのはまずかった。
冷酷非情の狼陛下が私の売りなのだから。


「方淵…午後からの会議資料をまとめておくように」

私は隣に立つ若い官吏を見上げた。先ほどの当惑顔は一転、緊張の面持ちで答える姿が窺える。

「御意」

官吏は私の差し出した書簡を手に取ると、私の冷たい視線に恐れをなしたのか足早に政務室を後にした。


私が優しく笑う顔など、夕鈴にしか見せぬ。
臣下の前での顔など、その背筋に寒気を感じるほど冷酷非情の方が良い。


私は深く息を吐いた。

なんだか無性に夕鈴に逢いたくてたまらない。

後宮まで行って帰ってくるぐらいならそれほど時間はかからないだろう。一目顔が見れたらそれで良い…などと考えていたら、ふいに聞き慣れた声がした。


この王宮ではおそらく聞こえないはずの声。だが聞き違えるはずのない声。

私は立ち上がり扉に近付く。陽光の指す屋外に身を晒して声の主を探した。

政務室にほど近い王宮の中庭に、声の主はいた。


「夕鈴…」

遠くで夕鈴の笑い声がした。どうやら誰かと楽しく談笑しているようだ。

私は気配を消して近付いた。




夕鈴の周りを数人の官吏が囲んでいた。

その見慣れぬ顔を一瞬で識別して、最近辺境地から来た者たちと知る。

特権階級、貴族主義の官吏雇用制度は私の即位と同時にきっぱりと廃止したため、辺境からも自由に学を学びたいと中央の地を踏む者も多い。

右も左も分からぬ王宮で、妃の助力を得たくて声を掛けたところか…

だが話し掛けてみると、妃には珍しく気さくで素直な性格が彼らの心を掴んだのかもしれない。


私は無邪気に笑う夕鈴の様子を眺めた。


頼られたら放っておけない面倒見のいい性格は、どこにいても、誰に対しても変わらぬらしい。


明るい日差しの中、その姿に清らかさをたたえて、幼子のように満面に浮かべた笑顔。
決して優美ではない仕草であったが、若い官吏たちの視線を釘付けにするには十分だった。


陰謀渦巻く不穏な王宮で、夕鈴のような人間は天然記念物に値する。

その所作や微笑みにいつの間にか惹かれ、彼女なしの生活など考えられないと思わしてしまうほど、私は彼女に溺れていた。


だから彼らの気持ちも分からぬでもない。

彼らに取っては何気ない会話でも、一生懸命に語る夕鈴。
これも妃修行!と内心意気込んでいるのが見て取れる。

よその国の妃ではこうもいかないだろう。気さくで素直で可愛らしく笑う夕鈴に、妃と分かっていながらも心許してしまうのは頷ける。



しかし…これでは先が思いやられるな。
私は肩を落とした。


時々、夕鈴の無防備さが心配で堪らなくなる。


だいたい後宮の奥深くにいるはずの王妃が、官吏たちの前に姿を現すこと自体普通でない。


あの手この手で雇用期間を伸ばし、いろいろ理由を付けては彼女の部屋で過ごす毎日。
どれほど苦労して今、彼女のそばにいるのか、叫べるものならば叫びたい。



もうよいだろう。夕鈴の魅力をこれ以上晒し、官吏たちの目の保養にするには私の心が保たぬ。


私はゆっくり足を踏み出した。





Ⅱへつづく。

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