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2011.03.13 (Sun)

届けたいキモチ

届けたいキモチ

夕鈴目線です。
ちょっといつもとは違う感じに仕上げてみました。

ではどうぞ。












ぱたぱたぱた…
ハタキが軽快に鳴る音が、ほこりっぽい室内に響いていた。
一定のリズムでテンポ良く鳴っていた音がふいに止まったかと思うと、ぶつぶつと低い声が響く。


「食べ物は…やっぱり……あと、好きなものは………」

ここは後宮の立ち入り禁止区域。
まだまだ掃除の行き届いていない荒れ果てた区域の一画で、すっかりと掃除する手を止めた夕鈴が、思案顔で独り言を呟いていた。


「室内は…どうしようかしら……?あっでも、やっぱりあっちの方が…」

ぶつぶつぶつ…飽くことなく独り言は続く。あまりに集中していたため、夕鈴は、後宮の管理人の来訪に気づくことはなかった。


「よっお妃。ちゃんとやっておるかの」

ご自慢の長いひげを指先でもてあそびながら、老師が入室して来た。片手には今日のおやつである食べかけの揚げ饅頭を握りしめている。


「いや~今日の掃除も完璧じゃの…ふぉっふぉ」

得意顔の老師が、まるで見せつけるかのように饅頭をくわえて夕鈴に近づく。
だが…恒例の夕鈴の怒鳴り声は飛んで来ない。いつもとは違う展開に、老師は疑問に思い、はたと動きを止めた。


「まこと美味じゃ。饅頭は揚げるに限るなぁ…」

期待して見上げた夕鈴は完全に老師を無視し、相変わらずぶつぶつと窓に向かって何かを呟いている。


「お…お妃よ……」

老師は今度は猫なで声を出して、夕鈴に話しかける。だが夕鈴は、一向に反応を返す気配は無かった。


「……」

「お妃……お、怒っておるのか?そんなに…」

老師は尋ねながら、手にした饅頭を口に入れて一気にほおばった。むせ返る声が小さく響く。


「い…今食べたぞ。すまぬ、お前さんに怒られると分かっていて饅頭を持って来ていたんじゃ」

素直に暴露&謝罪する老師にもかかわらず、夕鈴はなおも無視を決め込んでいる。


「……」

「お妃。無視はやめてくれ。わし…反省するから」

涙目で答える老師の傍らで、やっと夕鈴が何かの存在に気づいたかのように振り返った。


「お妃…」

「わっ!老師…居たんですか??」

夕鈴は心底驚いた表情を浮かべ、びっくりした…と胸を押さえた。


「……」

「いらっしゃてるなら声掛けてくださいよ。まったく…」

夕鈴は動きを止めていたハタキをもう一度持ち上げると、窓枠を丁寧にはたく。


「怒ってないのか?」

「はい?」

「いや……なんじゃ、びっくりさせおってのう」

「びっくりしたのはこっちですよ。掃除の邪魔するならあっち行ってください」

夕鈴のイライラを含んだ声に、老師がむう…と顔をしかめた。


「なんじゃお妃!心ここにあらずといった様子で掃除しておったくせに。どうせ陛下のことでも考えておったのじゃろう」

陛下と言われて、夕鈴の心臓がどきりと跳ねて手が止まった。しまったと思いすぐに掃除を再開したが、目ざとい老師に効果は無かった。


「図星かの…」

夕鈴の分かりやすい態度に、老師がにやりと顔を緩める。


「なんじゃなんじゃ?最近陛下と何か進展があったのかの?」

「いいえ、まったく」

「じゃあなぜそんなに動揺するんじゃ?」

「動揺なんて…」

答えながら夕鈴はごくり…と生唾を飲み込んで一歩後ずさった。こういう時だけ勘の鋭い老師を目の前にして、動揺が隠しきれない。


「お前さんは…本当に分かりやすいの。それじゃあ狼陛下のお妃にはなれんぞ」

「すみません」

なぜ私が謝っているのか。そもそも邪魔しに来たのは老師なのに…内心の思いは口に出さずに夕鈴は謝る。


「で…なんじゃ?」

しおらしくなった兎に対して、好都合とばかりに老師が詰め寄る。興味のある話題にはとことん突っ込んでくるから困る。


「何でもないですよ」

「つまらぬ」

つまるつまらないの問題ではない。夕鈴は深くため息をついて、小さな老師をぼんやり眺めた。
これで昔は、背も高くて凛々しかったというのだから(本人が言っていた)驚きだわ。


「今何か悪口を思ったじゃろう!」

「え…いいえ!」

なんて鋭いご老人。夕鈴はごほん…と咳払いすると、気を取り直して掃除を続行する。
背を向けた夕鈴に訝しそうに視線を送ると、老師は部屋にあった長椅子に腰掛けた。


「早く陛下との御子が見たいものじゃて」

「老師、うるさいですよ」

「さっさと陛下の本物の妃にしてもらわねば…気移りしてしまわれるぞ」

「……」

「あの方が昔よりは人間らしくなって来たのはお前さんの影響じゃ。これほど思われているのに本人にその気がないとは…いやはや、もったいない」

あ~もったいない!老師は声高らかに言った。


「ちょっと老師。うるさいですよ。掃除の邪魔するなら…」

夕鈴の開いた口がふいに閉じた。
老師の、昔からの陛下を知るような口ぶりに、夕鈴の心が傾く。不本意だが…老師に聞けば分かるかもしれない。夕鈴の心に、今抱えている問題がふつふつと浮かぶ。

夕鈴は、胸に抱える疑問を老師に打ち明けることにした。


「どうした?お妃」

「あの…聞きたいことがあります」

急に手を止めて向き直る夕鈴に、老師が目をぱちくりさせた。


「な…なんじゃ」

「実は……」





















夕鈴はほっと息を吐いた。
色とりどりに皿に並べられた料理を目の前にして。


「これ…全部でしょうか?」

「はい」

「あの…」

「少し多いけれど…全部運んでください!」

夕鈴の命に、数人の侍女がせわしなく動き出す。
大皿に盛られた料理の数々が、妃の部屋にすべて運び終わったとき、陛下の来訪を告げる女官の声が聞こえた。


「茶器のセットはすべて揃っているし…料理も万全。花は…」

夕鈴は室内を見渡す。一周をぐるりと見渡した後、戸口より陛下が入室してきた。


「妃よ…今帰った」

「おかえりなさいませ」

笑顔を浮かべて夕鈴の元へ近づこうとする陛下は、数歩進んでその歩みを止めた。


「これは…睡蓮か?」

陛下の目に花瓶が映る。
芳しい香りを放っているのは、摘み立ての睡蓮の花であった。


「いい香りだ…」

陛下の嬉しそうな横顔を見て、夕鈴の胸が躍る。良かった…花は、喜んでいただけたみたい。睡蓮は陛下の好きな花だ。今朝方、夕鈴が内庭で摘んで来たものだった。


「お食事はまだですよね?」

「あぁ…腹ペコだ」

「どうぞ…」

夕鈴は椅子に案内すると、傍らに用意されていたお茶を用意し出す。すでに卓に並べられていた膳を見て、陛下が目を見開く。


「これって…もしかして手料理?」

「はい!」

夕鈴は少し照れくさい顔を隠しながら、頷く。


「手料理なんて、どうしたの?」

「ダメ…でした?」

「ううん、嬉しい。君の手料理なんて…久しぶりだね」

陛下は実に嬉しそうに笑うと、すぐに箸を取り料理を口に運んだ。


「あの…どうですか?」

「とってもおいしいよ」

「良かった!」

「でも…どうしたの?君が手料理なんて…珍しいね」

「はい!今日はお祝いなので」

「お祝い?」

「あっ…」

夕鈴は慌てて口をふさいだが、もちろん陛下が見て見ぬふりなどするわけはなく、目をすうっと細める姿が目に入った。纏わりつくような視線に、夕鈴の鼓動が跳ねる。


「夕鈴。僕に隠し事?」

「違いますよ!えっと……もう仕方ないですね」

夕鈴は浅く息を吐くと、バタバタと駆け出し居間から寝室へ向かう。


「夕鈴?」

しばらくして戻って来た夕鈴は、手に何かを握りしめていた。


「へ…陛下。これを」

「?」

夕鈴の震える手から、陛下が受け取った物は、小さな守り袋であった。
浅葱色の布地に金で龍の刺繍がほどこしてあるその守り袋は、どう見ても市販のものではなく、夕鈴の手作りであることは明確だった。


「まさか…夕鈴が作ったの?」

夕鈴は無言で頷く。朱く染まった夕鈴の顔と、手の中にある守り袋を交互に見て、陛下の表情が輝く。


「僕…に?」

「はい」

「……」

「あ…あの。全快祝いですよ。ほら、この間過労で倒れられたでしょう?すっかりと元気になられたので、そのお祝いです」

夕鈴の言葉に対して、陛下は押し黙ったまま。

あれ?なんで何も言わないの?夕鈴の心に小さな不安が芽生える。も…もしかして気に入らない?でも、さっきちょっと顔が輝いていたような…え、気のせいなの?
いつまでも何も答えず守り袋を見つめていた陛下に、夕鈴は再度声を掛ける。


「あの…陛下。もし気に入らなければ…お返しいただいて結構ですから!」

言いながら、夕鈴は赤面する。よくよく考えると、陛下に贈り物なんて…しかも決して上手でない刺繍の守り袋なんてもらっても嬉しくないんじゃ…いや、そんなことよりも臨時花嫁が陛下へ何かあげること自体おかしいんじゃ。
老師にアドバイスを受けて守り袋にしたんだけど…やっぱり失敗だったかもしれない。
ぐるぐるぐる…夕鈴の頭が回る。ほんの数刻の沈黙が、夕鈴にはとてつもなく長く感じた。


「やっぱり!返してください!」

伸ばされた夕鈴の手は、守り袋に到達する前に陛下に掴まれた。そのまま力強く引っ張られると、すっぽりと陛下の広い胸に抱き締められる。


「!?…な、何」

急に迎えた事態に、夕鈴は慌てて手足を動かして陛下の囲いから逃れようとしたが、強固な囲いは全く解かれることはない。
ぎゃー離してください!いつもなら大声を挙げて逃げ出しているところだが、なぜか体に力が入らなかった。


「夕鈴…」

耳元の甘い囁きに、夕鈴の背中が震える。
あまりにも力強く抱き締められていたので、夕鈴の体が熱く火照って来た。


「は…離して」

「ダメ」

陛下ははぁ…とため息を吐くと、夕鈴の顔を上から覗き込む。真っ赤に染まるその顔を見て、陛下が苦笑した。


「ゆでたこみたい」

「な!」

何ですって!失礼な。口を尖らせる夕鈴の様子に、陛下が声を上げて笑う。


「ははは…」

笑いごとじゃない!夕鈴はますます顔を朱く染めて、陛下の体を突っぱねるべく両腕を伸ばそうとしたが、やっぱり無理だった。いつもより強固な拘束に、夕鈴は激しく動揺する。髪にかかる陛下の吐息に、夕鈴は鳥肌を立てた。


「陛下…もう」

離して。


「君は…なんて」

「?」

「いや…。僕…嬉しくて堪らない」

「…そ、そうですか」

夕鈴はいたたまれず目線を反らす。何はともあれ喜んでくれて良かったけど、この状態で言われるのは恥ずかしすぎる。


「夕鈴。僕を見て」

「み…」

見ています…今にも消え入りそうな声で呟いたが、陛下は眉根を寄せて訝しい表情を作っていた。至近距離で見る顔に、夕鈴の赤面度合がますます濃くなる。
近い近い近い…こんなに近いと心臓の音色さえも聞こえてしまいそうだ。


「もっと見てよ」

「見てますって!」

夕鈴は答える。なかば叫ぶようなその声に、陛下が愉快そうに笑った。


「もー!なんでそんなに笑うんですか?」

「だって嬉しいから。僕のお嫁さんが僕のために料理を作ってくれて、睡蓮を飾ってくれて、そして極め付けは僕に手作りの守り袋をくれた。こんな幸せなことはないよ」

「……」

ストレートな答えに、夕鈴の顔からぼっと火が出た。朱い顔で固まる夕鈴を、陛下が嬉しそうに抱き上げた。


「きゃっ!!」

突然の浮遊感に夕鈴は慌てて陛下にしがみついた。


「今宵は…離せそうにないな」

ぞくり…さっきよりも低い声音に、夕鈴は身震いした。
これはもしかして…いや、もしかしなくても狼陛下??なんで?陛下の表情まで窺い知ることは出来なかったが、直観的に悟った狼の気配に、夕鈴は身の危険を感じた。


「へ!陛下」

ずんずんと暗い寝室に向かおうとする陛下に、夕鈴は本格的に焦り出す。


「夕鈴。お礼をしよう」

「い…」

要りません…そんなこと言ったら、ますます狼の気配が濃くなりそうで、夕鈴は声に出せない。
声にならない声を押し出す夕鈴に、陛下が言う。


「大丈夫。僕、なんにもしないよ?」

「!?」

どの口が言うのか。まったく信用ならない…陛下の腕に抱えられ、夕鈴は深く深くため息を吐いた。




かくして、後宮の夜は更ける。














後日。


「お妃よ。どうじゃった?陛下、すこぶる喜んでいただけたじゃろう?」

ぷるぷると…ハタキを握りしめる夕鈴の手が小さく震える。


「なんじゃ?嬉しさで泣いておるのか?」

「怒っているんです!!!!」

「???」

暴れ兎に、逃げ惑う小さな老師。
後宮の立ち入り禁止区域の一画で、しばらくこのデットヒートは続いたという。









二次小説47弾完了
怪しい展開で終わってますが…もちろん何にもなしですよ。寝室へ連れ込んで、何もせず一緒に眠るのがオチでしょう(笑)それ以上は夕鈴が失神しますので。

今回は健気で女の子らしい夕鈴を書いてみたくて、なぜかこんなお話になってしまいました。手料理&手縫いの守り袋までは良かったんですが、陛下がとっくに限界を迎えてしまいましたね(笑)好きな女の子からの手作りのプレゼントをもらって、平然としている男なんて居ませんよね~。
最後は老師にやつあたりする図ですね。よっぽど恥ずかしくて堪らなかったのでしょう。本当に可愛いです、夕鈴ちょっとかわいそうなことしちゃいました。
際どいお話でしたが、面白かった!と言っていただけますと嬉しいです☆


17:52  |  日常編  |  TB(0)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

いつもと違う夕鈴がみられて、とても楽しかったです。
陛下の甘さもこっちまでドキドキするような感じで。
何だかとても幸せな気分になれました。
小説をアップするのは、とても大変なことだと思いますけど、
応援してますので、頑張って下さい!!
あち |  2011.03.13(日) 22:33 | URL | 【編集】

●コメントありがとうございます!

あちさま。
続けてコメありがとうございます!
陛下が喜ぶような展開に仕上げてみました☆夕鈴の可愛さに陛下同様にくらくらしてました(笑)
応援ありがとうございます!お話を考えるのはとっても楽しいので、これからもあま~い感じでがんばりたいと思います♪
ミケ |  2011.03.14(月) 10:15 | URL | 【編集】

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