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2011.03.26 (Sat)

月光Ⅱ

Ⅰのつづきです。




陛下との相談の結果を伝えたときの祭祀の顔はとてもひどかった。
具体的な意見が得られなかったことに、ひどく衝撃を受けていたようで、夕鈴が声を掛けてもしばらく放心状態のままであった。
話しかけても気もそぞろの祭祀を残して、夕鈴は仕方なく次の間で侍女が用意してくれたお茶を淹れ出す。良い香りの醸す茶を運び祭祀の目の前に置いたとき、やっと気づいたかのように祭祀が夕鈴を見て口を開いた。


「残念です…」

祭祀の言葉に苦笑いで答えつつ、夕鈴はお茶を勧める。私が指さした場所に目をやると、祭祀は慌てて力の抜け切っていた体をきちんと起こした。


「これは…お手ずからすみません!」

「いいえ。勝手にお茶を淹れさせていただきましたわ。今回のこと、申し訳なく思っております…」

夕鈴は低姿勢を崩すことなく言う。祭祀の嘆きはもっともだが、それほどまで落ち込むことでもなかろうに…夕鈴は内心の思いは口に出さず熱いお茶を口に運んだ。


「また…振られてしまいましたか」

「え?」

「陛下は…祭りにはあまり関心がないようで。いつも儀式の際にはご意見をお聞き申し上げているのですが、何も答えられることはありません」

「そう…ですか」

昨日の口ぶりでは確かに、祭りに対してそれほど関心はなさそうだった。陛下の関心がないということは、祭祀の彼にとってはとても心痛いことだろう。


『僕ななんでもいいよ。君のしたいようにすればいい』

陛下の声が脳裏に浮かんで夕鈴は眉をしかめた。お前のしたいようにすればいい…きっとこの青年もそう言われ続けていたのだろう。陛下にとっては良かれと思って言った言葉でも、彼にとっては辛い言葉なのだ。


「お妃さまの責任では…」

また物思いに耽ようとし出した祭祀に、夕鈴は慌てて声を掛けた。


「祭祀さま、陛下のご関心が少しでもこの中秋祭に向くように、私も出来うる限りの努力をいたします」

「はい」

祭祀の落ち込みは直りそうになかったが、夕鈴は構わず話を続けた。


「ところで…祭りの最後の観劇のことですけど。下町にとても踊りの上手な劇団があるそうなんですが、その者に頼んでみるのはどうでしょうか?」

「下町?では…庶民に月の観劇を?」

祭祀の目が大きく見開かれる様子に、夕鈴はどきりとする。やっぱりまずかったかしら…。宮中のお祭りに庶民を引き入れるなんて…大貴族の祭祀さまにとっては驚愕のことかもしれない。
動揺する夕鈴の耳に、予想外に届いた祭祀の賛同する声に、夕鈴は驚いて見つめる。


「今何とおっしゃいました?」

「それは面白いと申し上げました。さすがお妃さま、良案を思いつきなさる」

さっきまで沈んでいた祭祀が喜び顔で返答する様子に、夕鈴は目をぱちくりさせた。まさか通るとは思わなかった提案、それでも一応は祭祀に伝えたいと思い言ってはみたが…思いがけず得た喜びの結果に、夕鈴は満足気に微笑む。


「民にも祭りに参加してもらうなど、初めての試みですね。私は賛成ですよ」

「ありがとうございます!」

夕鈴はお妃演技のために過度に喜ぶのを控えつつも、それでも内心から漏れる喜びを制することが出来ずに、花の笑顔で答えた。祭祀は一瞬だけ驚いた表情を見せて、すぐにいつもの澄まし顔を浮かべる。


「花の色は……移ろうごとにその表情を変える」

「え?」

「いえ。陛下にとって一番は…やはりお妃さまかと思いまして」

「……どういう意味ですの?」

一体何?突然。
夕鈴は思わず火照る頬を抑えて、急に語りだした祭祀を注意深く見つめた。じっと見つめていると、祭祀の瞳はどことなく吸い込まれそうで、夕鈴はいたたまれず目線を反らす。


「詮なきことを申しました。お妃さまへのご執心ぶりが、少しでも祭りに向けば…と思っただけです」

「!?そ…それは、そうですわね」

にっこり、背中に冷や汗をかきながら夕鈴は微笑む。内心ではとても焦っていたが、こんなところで偽装夫婦だとバレるわけにはいかず、とにかく必死だった。

あぁ…もういたたまれないったら。
でも、どんなときでも夕鈴には報告という義務が待っている。さっそく陛下に報告しなくちゃ…。

とりあえずこの場をやりきった夕鈴は、最後まで気を抜かずに祭祀の部屋を後にした。


















それからの数日間、何かと忙しく過ごしていた夕鈴。だが陛下は、夕鈴にも勝るほどに忙しく過ごしているようだった。夜に後宮に来られなくなったし、たまに逢う政務室でもなかなか声が掛けづらい。そんな日々を過ごしていたら、祭りの相談をする暇もなく気づけば中秋祭の前日になっていた。


「陛下」

偶然にも回廊を行く陛下の姿を見つけた夕鈴は、慌てて駆け寄った。


「どうした?夕鈴」

「あの…お忙しいところすみません。明日の中秋祭のことで…」

「陛下。将軍がお呼びですが。至急軍部に来ていただきたいと」

「……」

訝し気に共の者に睨みかける陛下の様子に、夕鈴は驚いて口を開いた。


「で、では私は結構です。そんなに急いでおりませんので」

夕鈴はゆっくり会釈すると、その場を立ち去ろうと一歩後ずさる。その腕を陛下が捕らえた。


「すまない夕鈴。今宵は必ず後宮に戻る。ゆっくり話そう」

「はっはい」

狼陛下の甘い表情にぐらりと視界が反転しそうだが、夕鈴は膝に力を入れ直すとしっかりと立った。

そのまま颯爽と立ち去る陛下と別れ、夕鈴は自室へ戻った。
あぶないあぶない。ふいうち狼陛下は心臓に悪い。どきどきと鳴る続ける胸に手を重ねると、夕鈴はほっと息を吐いた。



















「…………お妃さま」

「…ん………」

「お妃さま。お目覚めくださいませ」

「え…?」

夕鈴が目を開けると、妃付きの侍女が覗き込んでいた。
何度かまばたきを繰り返し、ようやく体を起こすと、見慣れた調度品が目に入った。夕鈴は、妃の部屋の寝台に居た。

あれ?もしかして朝?
夕鈴は、妃の目覚めと同時に慌ただしく準備し出す侍女を横目に、昨夜の記憶を振り返る。
もしかして…眠っちゃったかもしれない。


「あの…陛下は?」

「早くにご政務へ向かわれました。祭儀には顔を出すとお妃さまへのご伝言を残されておいでですわ」

「そう…ですか」

やっぱり、睡魔に負けて眠っちゃったらしい。窓から見える回廊の灯りが消えたところまでは、起きていたんだけどな。さっと部屋に視線を寄越すと、陛下が泊まった形跡が確かに残っていた。
陛下、気を遣って起こさなかったのね。


「お早くお召替えなさいませ。今日は年に一度のお祭りでございます。さっそく祭祀さまがお呼びでしたわ」

「すぐに参ります」

夕鈴は素早く身支度を整えると、祭祀の待つ祭儀上へと向かう。胸が変に波打つのは、今日が年に一度のお祭りだからか…それとも昨日の回廊で出逢って以来、陛下の顔を見て話していないからか…。

夕鈴は徐々に色濃くなる不安にさいなまれながらも、足取りはしっかりと歩みを進めた。


















祭りの大太鼓が盛大に鳴り響く。
その祝い太鼓の合図で、さまざまに盛り付けられた料理の数々が卓に並べられた。

祭りに参列する貴族たちは、思い思いの話をしながら、見事な彩りの料理に歓喜の声を上げる。その歓喜の声を傍らで聞きながら、夕鈴はほっと安堵の息を吐いた。
その息が聞こえたのだろうか…そばに立って祭りを先導する祭祀が、夕鈴に微笑みかけた。稀な彼の笑顔に驚く一方で、夕鈴も嬉しくてつい笑顔を向ける。

祭り一色で飾り付けられた宮殿の中央では、美しい舞姫たちが踊る。

今夜の主役である月の神は、すでに姿を現している。
まだ明るい空の中に、白くぼんやり浮かんでいる月は、綺麗な満月だった。
この時期の満月は、1年でもっとも丸くもっとも美しい月と言われていた。
夕鈴は上空に視線を移し、満月をじっと見つめる。吸い込まれそうな丸い月から、なかなか目が離せない。


満を持して、陛下が現れた。祭り用のいつもとは違う衣装に身を包む彼の姿を見て、夕鈴は息を飲む。
最近気づいたことだが…もしかしたら彼はとても美男子かもしれない。後宮の女官たちの黄色い声援をよく聞いたことがあるが、その意味が今はっきりと分かった気がした。
思わず見とれる夕鈴に、陛下は笑顔で近づくとすぐに頬に触れた。その感触で意識がはっきりと戻る。


「妃よ…遅くなったな、すまない」

「いいえ。陛下、祭りの準備はとどこおりなく終了しております」

夕鈴のそばに控えていた祭祀も侍女たちも拝礼し、主君の次の言葉を聞き漏らすまいと固唾を飲んで見守っていた。一緒に準備してきた夕鈴も、ごくりと生唾を飲み込んで、陛下の口元を凝視する。

陛下はゆっくりとした動作でぐるりと周囲を見渡すと、最後に夕鈴の顔を見つめる。


「素晴らしい祭りだ。よく準備してくれたな。祭祀よ…お前もご苦労であった」

「はい…」

祭祀の声が夕鈴の耳に届く。そのくぐもった声音には、はっきりと喜びが感じられた。
夕鈴はほっと胸を撫で下ろすと、陛下に微笑む。


「今宵はぞんぶんに、祭りをお楽しみくださいませ」

「夕鈴。今宵の君は夜空の月よりも眩しい。月よりも…むしろ君を愛でたいものだ」

「……」

薄暗闇に朱い顔が浮かぶ。火照る頬を両手で冷やしながら、夕鈴は陛下を軽く睨んだ。
音もなく立ち去る侍女たちや祭祀の姿を確認して、夕鈴はそっと抗議の声を漏らした。


「やめてくださいよ…」

抗議を受けた陛下は、肩をすくめて笑っていた。
















夜空に輝く月の兎。
遠くで観劇の音色が耳に届いていた。
白熱の灯篭に照らされた夕鈴の横顔。その横顔にかかる長い髪にするりと手を絡めるのは、隣に居る陛下だった。


「なかなかに面白い観劇だ」

極上の笑顔を浮かべて陛下が呟く。


「…ありがとうございます」

ならばもっと観ればいいのに…夕鈴はいつもより執拗にスキンシップしようとする陛下を止める術もなく、ただなすがままに受け入れていた。
拒否することも逃げ出すことも出来ないと分かっていて、やっているんだから…本当に性質が悪いわ。


「最近は…忙しく君の所へ行くことも出来ずに悪かった」

「いいえ。お仕事ですから…」

「演技でも、寂しかったと言って欲しいものだな」

ぼそり…陛下が憂い顔で呟く。小さく頭を振る夕鈴の様子に、まるで不満だとでも言いたげだ。

え、演技なんて、な…何言っちゃってるのよ!?今はそばに誰も居ないからって、心臓に悪いわ。
夕鈴は慌てて周囲を見渡す。だが、誰もかれも観劇に夢中になっていて、夕鈴の心配は杞憂に終わった。


「口うるさい側近も、祭祀も、侍女も…邪魔者は今は誰も居ない。素晴らしい祭りだな」

陛下はにやりと口角を上げて笑うと、夕鈴の手を取る。そのまま自然に唇を寄せると、手の甲に口づけた。
あまりの早技ぶりに、夕鈴は驚いて目をぱちくりさせた。


「な…ななななな何を」

もー怒った!悔し涙を目に溜めて、夕鈴は掴まれた手を引っ込める。


「いい加減に……」

「今宵は一年に一度の月の祭り。今日という良き日を君と迎えられたこと、幸せに思う」

急に真面目な表情を浮かべて言葉を投げる陛下に、夕鈴は口をつぐんだ。本当は声を荒げて陛下を諌めたかったんだけど…どうやら怒っている場合ではない状況のようだ。
国王の仕事として演技を続行する陛下に、夕鈴も答える。妃用の澄ました表情を作ると、私も幸せです…と頭を垂れた。一瞬の沈黙の後、見上げた陛下の顔はなぜか切なく揺れていて、夕鈴の胸がどきりと跳ねた。

なんでそんなに悲しそう…なの?

夕鈴を一心に見つめる瞳には、まるで悲しみや切なさや寂しさが蔓延しているようで…吸い込まれそうな陛下の瞳に、夕鈴は言葉を忘れて息を飲んだ。

仕事モードとも子犬モードとも違う陛下の表情に、夕鈴は戸惑う。


「陛下…?」

一体何?
眉根を深く寄せて、苦しそうな視線を送り続ける陛下。夕鈴の胸に、形容しがたい圧迫感が波のように押し寄せる。何も答えようとしない陛下の様子がさらに、胸の痛みを助長させていた。

苦しい。どうか、そんな風に見ないで。


「願わくは、次の年も、また次の年も…君とこうして祭りを楽しみたい」

「……」

それは…本心からの言葉であろうか。あまりにも率直に意見を述べる陛下に対して、夕鈴は判別しかねていた。
考えても仕方のないことだと良く分かっているが…どうしてもその言葉の意味を考えずにはいられない。


『君とずっと一緒に』

いつかどこかで呟いた陛下の低い声音が浮かぶ。
その言葉の本当の意味には、きっと気づいてはいけない。頑なに目を反らさなければ…必死に心を制さなければ…与えられる幻想に傷つくのは私ひとりなのだから。


でも…。

陛下…聞いてもいいのだろうか。
次の年も、また次の年も…私と一緒に居たいと言ってくれているのだろうか。


「へ…いか…」


ばーーーーん!
と頭上で音が弾けた。その音に促されるように、人々の歓喜の大声が耳に届く。

夕鈴は大声にはっとして、夜空を見上げた。
漆黒の夜空を彩るのは無数の閃光。色とりどりに染められた光が付いては光り、光っては瞬く間に消え去る。


『君とずっと一緒に』

それはまるで、うたかたの恋。


「夕鈴。今、何て言ったの?」

「何も。花火…綺麗ですね」

陛下の顔を見ずに答えた。見ることが出来なかったから。それでも笑顔だけは忘れずに。

うたかたの恋であるならば、最初から気づかなければいい。

消え去った花火は、まるで最初からそこには無かったかのよう。夜空を飾る極彩色の光点も、今は見えなかった。
大きく弾けて一瞬で消え去って行く花火と共に、解けてゆく魔法。


「陛下」

「……」

「陛下」

どうした…?髪にするりと伸ばされた手の感触で、夕鈴はやっと顔を見ることが出来た。

「手をつないでもいいですか?」

「……」

やっぱりダメかな?確認した陛下の表情は、暗闇のせいで良く見えない。


「陛下」

「手だけでいいの?」

「はい…」

それ以外に何をつなぐ…というのか。つなぐのは手だけであって、決して結ばない気持ちではない。

ふいに右手に触れる手。陛下の手は暖かくて優しくて、広くて…なぜか涙が出そうになった。
つながれた右手ごと私の心もさらわれてしまいそうな、無限の優しさ。

でも気づかない。
気づいてはいけない。


「夕鈴」

「陛下」

いつまで…あなたの隣に居ることが許されるのだろうか。
次の年、また次の年に、隣に居るのは私でない誰かかもしれないのに…。

それでもズルいあなたは、残酷な視線を私に浴びせ続けるのね。


「……」

勘違いなどしない、決して。
その甘い切ない視線に、心揺れたりはしない。決して。


だけど。
分かっている。分かっているから。

今は、この一瞬だけは。私を呼ぶ低い声音も。風になびく漆黒の髪も。整った横顔も。私を見つめるその優しい瞳も。つないだ手のぬくもりも。



今は、この一瞬だけは。




私だけのもの。















二次小説第49弾完
最初の予定と違いしんみりとした終わりです。
も~ちょっと!誰か気づかせてあげてよ!夕鈴の恋心!!と必死で叫んでおりましたが…結局こんな展開に。でもミケ好みの切ない終わり方に、自分で自分にグッドサインを出してました(笑)どうぞお許しください。

今回は季節はずれのお話です。3月なのに寒い毎日に嫌気がさして…ついつい手を出してしまいました。中秋祭は今でいう8月15日(十五夜)に執り行われていたそうです。あまり表現出来ませんでしたが、宮中のお祭りはそれはそれは派手で雅だったと言われています。一年に一度の大事なお祭りですので、普通は一介の妃妾が任されるのはありえないんですが、相変わらずの特別扱いです。夕鈴に任せた背景にはもちろん陛下の気持ちが大きく左右していますが、態度に表すばかりではっきりと言葉には出来ずにいます。この辺りの微妙な心の揺れを書きたかったんですが…う~ん、力不足ですね。ミケにしてはがんばりました(笑)
長いお話に最後までお付き合いありがとうございました♪



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