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2011.04.30 (Sat)

喜びも悲しみも僕の手にⅠ

喜びも悲しみも僕の手に

長らくのお休み失礼しました。
復活第1弾は夕鈴目線で、長文です。

ではどうぞ。













肌を纏う湿っぽさに気づくと、外は大雨だった。
激しい雨音と、次に葉に乗った雨粒が池に落ちる不規則な音が耳に流れていた。
内庭の池のすぐそばにある四阿の中、夕鈴はいつの間にか振り出した雨に囲まれ、どうしたものか…と考えていた。


「ちょっと居眠りしていただけなのに…」

今朝の澄んだ青空を見て今日は絶対に晴れると思っていたのに…夕鈴は予想が外れたことに悔しさを感じつつ、今自分が置かれている状況に小さな不安を感じていた。

散歩からなかなか戻らない妃を心配して、今頃後宮では捜索しているかもしれない。
ちょっと四阿まで行って池を見て、すぐに帰って来るつもりだったが…昨日の寝不足のせいか、佇む間もなくすぐに眠ってしまったようだ。ずっと下にしていた頬に軽く触れると、触れて分かるほど木目の痕がくっきりと残っていた。

こんな姿見られていたら、李順からお叱りを受けるところであった。比較的見晴らしの良い四阿であったが、雨のおかげで目につかなかったのね。夕鈴は雨に感謝する一方で、また最初のようにどうしたものか…と首をひねった。

濡れて帰るわけにもいかないし…そんな風にぼんやり考えていると、先ほどよりも雨音が激しくなって、夕鈴は本格的に焦り出す。


「どうしよう…」

夕鈴の不安に拍車をかけるかのように、頭上で何かが光った。

ガラガラガラガラ……!!!!

落ちた。
夕鈴は光った方角に目をやるが、激しすぎる雨軸が視界を遮っていて、落ちた場所を目視することは出来なかった。


「戻ろう!」

勢い良く立ち上がったまでは良かったが、四阿を飛び出す一歩が出なかった。
雨でずぶ濡れになったまま後宮に戻るのは、どうしても嫌だ。鬼上司の怒り顔が簡単に想像出来て、夕鈴の身が震える。でもそんなこと言ってられないし…。


「どうしよう…」

「何をどうする」

「!?」

反射的に夕鈴は振り返った。突如目に入った姿に、夕鈴は息を呑む。


「へいか…」

夕鈴の目の前には、雨のせいでぐっしょり濡れた陛下の姿があった。
















「ごめんなさい!!!」

夕鈴は久しぶりに本気で謝った。もちろん謝るときはいつも本気なのだが、心苦しさがいつもより激しく押し寄せる。深く下げた頭上から、陛下の囁き声が響いた。


「良かった…」

「ごめんなさい」

言い訳なんてするつもりは毛頭ない。夕鈴は涙で曇る目を伏せて、しょんぼりとしなだれた。


「君が無事で良かった。雨に降られたね…」

「……」

いつまでも顔を上げない夕鈴を見かねて、陛下が手を差し伸べる。


「夕鈴、帰ろう」

「本当にすみません」

「もういいよ、夕鈴。もっと激しくなる前に後宮に帰ろう」

「……っつ……そんなに優しくしないでください」

夕鈴はか細い声で答える。陛下の伸ばされた手を取らずに、濡れた袂を掴んだ。


「陛下、濡れてまで探して…っごめ…なさい」

「君は、僕に怒って欲しいの?」

陛下の問いかけに、夕鈴は無言で頷いた。


「謝るのは僕じゃないよね?怒られる相手も僕じゃない」

陛下の言葉で夕鈴はやっと頭を上げた。涙で霞む目で見上げた陛下の顔は、怒っているような…それでいてどこか悲しげで、夕鈴の心はますます痛くなるばかり。


「……はい」

陛下の言うとおりだ。
謝るのは何よりもまず心配をかけた侍女たち。そして…私を捜索したすべての人たちだ。
夕鈴の目頭が熱さで曇った。


「……迎えだ」

陛下の呟きの後すぐに、ざわざわと人々の騒ぎ声が耳に届いた。


「陛下!お妃さまは……ご無事でしたか」

多数の傘が目の前で交錯する。そして口々に見つかったと安堵する人の声が聞こえる。


「お妃さま!ご無事で良かった」

嬉しそうに駆け寄ってくる妃付の侍女の姿を見て、夕鈴は大粒の涙を流した。

















「大丈夫?夕鈴」

「は、はい」

なんとか…青白い顔をした夕鈴が、ゆっくりと陛下のそばへと寄る。


「李順にこってり絞られたようだね」

なだめるように陛下が笑いながら言った。その苦笑する声が鳴り止んだとき、夕鈴は口を開いた。


「しっかりとお説教されました。本当に…反省しています」

「うん」

「侍女たちにも、そして護衛兵の方々にも申し訳なくて」

「君は心から謝ったよ」

陛下は出されたお茶を飲み干すと、ゆっくり立ち上がった。


「上に立つ者は常に下に気を配らなければならない。もし君が帰って来なければ誰かが責任を取るところだった」

「はい」

夕鈴は真剣に語る陛下をじっと見つめた。
陛下は常に上に立つという責任を感じていらっしゃる…夕鈴の目に映る陛下がとても大きな存在に感じ、夕鈴は目を伏せる。


「以後、気をつけます」

「うん。じゃあこの話は終わり。夕鈴…もう一杯お茶淹れてよ」

「はい!」

「茶菓もあると嬉しいなぁ」

「もちろん。用意しております!」

「うん、完璧だね」

にこにこと、陛下が満足そうに答えた。
完璧…?そんなわけない。陛下は誉めてくれるけれど…やっぱりそうは思えない。

狼陛下の花嫁を始めてもう半年以上。いつまで経ってもこのバイトは慣れないが、それでも自分なりに一生懸命やってきた。自覚が甘い…と言われればそれで終わりだが、花嫁にふさわしくない行為をとった自分をどうしても許せないのは、このバイトに親しんだ結果か。
勘違いするつもりはないが、自負せずにはいられない。このバイトは私のバイトなのだと。私に与えられたバイト。陛下と私をつなぐ唯一の関係。だから…他の人には演じさせたくはない。


「夕鈴」

「……」

「夕鈴」

「……はい!」

「こぼれてる」

「え?……あっ」

夕鈴ははっと気づいたように、急須を傾ける手を止めた。湯飲みからあふれ出したお茶が卓に広がっている。


「すみません!」

慌てて卓を拭く夕鈴の傍らで、どこか思案顔の陛下が首をかしげた。苦虫を噛みつぶしたかのような表情で、黒い瞳が夕鈴を捕らえる。


「夕鈴」

「すみません」

「夕鈴」

「ごめんなさい」

あぁ…情けない。妃仕事もろくに出来ないなんて…涙出そう。今は他の雑念に囚われている場合ではないのに…夕鈴はふきんを握りしめる手に力を込めた。
ごしごしと卓を懸命に拭く夕鈴の手に何かがそっと触れた。その途端、夕鈴の意識ははっと戻った。


「へいか…」

見ると、陛下が手を握り締めていた。柔らかく暖かい感触に、また涙があふれ出しそうになる。


「夕鈴。何を焦ってる?」

「……」

焦ってる…ように見えたのだろうか。焦ってないと言えば嘘になるが。


「君は妃としてよくやっているよ」

「私…何も」

夕鈴の目からまた、大粒の涙がこぼれた。その涙は頬をゆっくりと伝い、卓の上に落ちた。


「僕は…君の存在にどれだけ救われたか、君は知っているだろうか…」

「……」

「君が僕の妃としてこの後宮に来てくれてから、僕のからっぽの心はいつも満たされている」

「……」

からっぽの心。それはまだ即位したての頃の話だろうか。ぼんやり思う夕鈴の頬に流れる涙を、陛下が着物の袂で優しくぬぐった。


「泣くことないよ。でも…僕、君が居ないって聞いて本当に心配しちゃった」

陛下はそこまで言って、ふいに頭を振った。


「心配か…違うな。言葉では表せないな。心配よりももっと深い気持ち。君が居なくなるなんて…考えられなかったから」

急に視線を落とし語る陛下の表情を、夕鈴はじっと見つめる。寂しげな表情から目が離せない。


「夕鈴、居なくならないでね」

僕のそばから…。
陛下の表情は、今まで見たどの表情よりも悲しく映って、夕鈴の頬にまた涙が流れた。とめどなくあふれ出す涙を見て、陛下が困ったように笑顔を浮かべた。

泣かないで…陛下が夕鈴の頭を優しく撫でる。
その大きくて暖かい手のひらに、無限のような優しさを感じる。陛下は、どうしてこんなに切なくて悲しくて、今にも泣きそうな目で見つめ返すのだろうか。


『居なくならないで』

その弱々しい声は、夕鈴の脳裏からいつまでも離れることはなかった。










Ⅱへつづく。

00:14  |  日常編  |  TB(0)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

●はじめまして

先日から読ませて頂いてます☆

最近、原作を初めて読みました。
こちらにお邪魔しまして、寝不足になりながら読んでます!!

とっても素敵な話ばかりで、毎日楽しんでます♪

まだ、全部読んでいませんが、終わらないで欲しいです!!

更新楽しみにしています♪ヽ(´▽`)/
ゆう |  2014.05.30(金) 19:22 | URL | 【編集】

●Re: はじめまして

ゆうさま。
初めまして、ミント日和へようこそいらっしゃいました。コメントありがとうございます^ ^夢中でアップした作品、全て読んでいただけると嬉しいです。更新は創作意欲によりけりですが、頑張ります。最近原作と出会われたようですので、ぜひぜひ全て堪能してください。
ミケ |  2014.06.03(火) 02:38 | URL | 【編集】

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