10月≪ 2017年11月 ≫12月

123456789101112131415161718192021222324252627282930

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--:--  |  スポンサー広告  |  EDIT  |  Top↑

2011.04.30 (Sat)

喜びも悲しみも僕の手にⅡ

Ⅰのつづきです。









「はぁ…」

肩で大きく息をついた夕鈴は、せわしなく動かしていた手を止めた。
ぼんやりと考え込むその横顔に、ぼそり…と声が掛かる。


「なんじゃ。恋煩いか?」

「!?わっ老師??居たんですか?」

夕鈴は突然ぬっと現れた髭顔に心底驚く。びっくりしすぎて転びそうになったが、必死で窓枠を掴んで尻餅をつくことはまぬがれた。


「失礼な娘。わしの顔はそれほど怖いか」

「突然だったもので…」

夕鈴はまだドキドキと刻む胸に手を当てて、軽く深呼吸した。
そんな夕鈴の様子に老師は訝しそうに視線を送ると、懐から菓子袋を取り出しておもむろに食べ出した。


「ここは飲食禁止!」

夕鈴は勢い良く立ち上がると、伊達めがねの奥から丸顔の老師を睨む。


「ふん、やっとそれらしくなったの。昨日の落ち込みぶりでは…まだ立ち直っていないかと思ったが、やはり図太いようじゃのう」

けらけらと笑いながら、老師は今日のお菓子であるせんべいをかじりだした。盛大な音が室内を彩る。


「ちょっと、人の話聞いてるんですか?」

ダメだこの老人…夕鈴はなかば諦めた様子で、掃除を続行する。
現れてそうそう失言を連発する老師を無視し、掃除に集中しようとするがなかなか意識が定まらない。


もー集中出来ない。どうして。
ふと手を止めると、昨日の陛下の顔が脳裏に浮かぶ。切なくて悲しくて、ぎゅっと胸がしめつけられた。ひとりで深々と考え込む夕鈴の顔を、また老師が覗き込んだ。


「お妃…」

ビクッと肩をすくめて、夕鈴ははい…と答えた。老師は無言でお菓子を差し出すと、夕鈴の手の平に置いた。


「あの…」

「お前さんはお前さんらしく…な。そんな浮かない顔では陛下も悲しまれよう」

「老師…」

「昨日のことは気にするでない。人間誰しも失態はつきものじゃ。お前さんも数ある失敗のうちのひとつであろう。早く忘れることだ」

「はい」

夕鈴はコクリ…と頷く。
軽く深呼吸を繰り返し、空を描いていた手を落ち着かせた。まだ心にチカチカと浮かぶ陛下の顔に、胸を痛めながら。












激しい雨音に導かれて、夕鈴は格子窓から外を覗いた。空を見上げると、暗い暗雲が後宮全体を取り囲んでいた。湿っぽい空気に眉をしかめつつ、今日も帰りが遅い陛下をじっと待つ。
妃の部屋には気分を明るくするためにジャスミンの香が焚かれていた。いつもよりきつめに焚いた香が鼻をつく。こんな夜はひとりで待つのが辛くて、気を紛らわせようと強めに焚いていたものであった。


「陛下…早く帰って来ないかな」

暗い空に呟くと、途端に彼方で閃光が上がった。がらがらと地響く不気味な音に、夕鈴は身をすくめる。

怖い!!!

あの日から、あの四阿に孤立したあの日から、嵐の空が怖くて仕方ない。夕鈴は慌てて格子窓から離れると、灯火で明るく照らされた寝室へ飛び込む。そのまま寝台に駆けずりこむと、ふとんを上からすっぽりかぶった。
嵐など早く去ってしまえばいいのに…恐怖が身を包み、夕鈴の目頭が熱くなる。鼻の奥がつんと刺激を受けたかと思うと、涙が溢れていた。声を殺して泣きながら、ひたすらに雷の音が聞こえなくなるまで耐えようと身を縮めた。

そうして、一体どのくらいの時が過ぎたのか…。
泣き疲れた夕鈴は深い眠りの世界に居た。















「夕鈴」

「……」

「夕鈴」

はっと意識を取り戻すと、目の前に陛下の顔があって驚いた。慌てて起き上がろうとする夕鈴を、陛下の手が制する。陛下は夕鈴の肩に手を置いて、ゆっくりと押し戻した。


「急に起き上がったらダメだよ」

「陛下…」

どうやら夕鈴は、陛下に膝枕される形で眠っていたようだった。


「私…」

「寝台の中で丸くなって眠っている君を見つけて…なんだか可愛いからここに連れて来ちゃった」

来ちゃったって…。陛下のにこにこ顔を複雑に見つめ返す。
夕鈴はゆっくりとした動作で周囲を見渡すと、遠い位置に薄いベールに覆われた天蓋が見えた。どうやら寝台から長椅子に移動しているようだ。


「今日お越しになるって聞いていたのに、眠ってしまってごめんなさい」

「ううん。僕こそ遅くなってごめんね」

陛下は柔らかく微笑むと、夕鈴の頬にそっと触れた。そのまま指を滑らせまぶたに手を伸ばす。なんだかくすぐったくて、夕鈴はまばたきを繰り返した。


「陛下?」

「涙の跡」

まぶたを指先で何度も撫でながら、陛下が呟く。


「どうして泣いていたの?」

「……」

どうして分かるのか。相変わらずなんでもお見通しの陛下に、夕鈴は愛想笑いで答えた。


「ちょっと眠たくってあくびをしたら涙が…」

「嘘は言わないで」

「!?」

嘘じゃない…なんて、陛下の目を見つめては言えなかった。


「君の涙の理由、教えてくれとは言わないけど…僕の知らないところで悲しむ君を見るのは辛い。君の悲しみを取り除くにはどうしたらいい?」

「……」

また、泣きそうになった。陛下の言葉のひとつひとつが…心に、体に染み渡る。


「君はいつでも、どんなときでも自分で抱えこんでしまって僕には頼らない。僕の知らないところで傷つき涙を流し、そうやって僕から離れようとしないで」

「……」

溢れ出す思いを内側に留まりきれずに、夕鈴は大粒の涙を流していた。肩を小刻みに震わせて、声にならない声を漏らす。
灯火の明かりがぼんやりと、陛下の横顔を照らしている。陛下は口元に優しげな笑みを浮かべると、夕鈴に笑いかけた。


「夕鈴…君は僕の大切な妃。僕は君が心配で堪らない…」

「……っつ」

陛下の優しい顔が直視出来ずに、夕鈴は両手で瞳を覆った。手の隙間からこぼれる涙は、頬を伝い陛下の着物を濡らしてゆく。


「ごめんなさい」

「なぜ謝る?」

「ごめんなさい」

謝ることしか出来ない。どうして私はこんなに悲しいのか…。陛下の気持ちが波紋のように広がって、涙が止まらない。止まらないの。
肩を抱きかかえられて、夕鈴はゆっくり起き上がった。そのまま力強い腕に抱きしめられる。


「……」

きっと涙を止めたくて陛下は私を抱きしめている。分かっているけど、それでも止まらない。溢れる気持ちがとめどない涙となって夕鈴の視界を遮る。


「泣かないで、夕鈴」

ごめんなさい、陛下。
本当は笑いたいの。優しいあなたへ、心からの笑顔で答えたい。私への暖かくて真っ直ぐな気持ち、嬉しくて仕方なくて…本当は笑っていたいの。

夕鈴が無遠慮に泣き続ける間、陛下はずっと抱きしめたままであった。
いつの間にかまぶたを降ろした夕鈴に、陛下がそっと囁く。


「君の喜びも悲しみも僕に還る。どうか…いつも笑顔で笑っていて欲しい」














翌朝、驚くほどに真っ赤に晴れ上がった目を見て、夕鈴は心底落ち込んだ。
すっかりと泣きはらした顔。そんな夕鈴に気を遣ってか、侍女はそのことには触れなかったが、いつもよりも入念に化粧をする様子を見て、心が熱くなった。


「お妃さま。次の間で朝食を準備しておりますが。いかがいたしましょう…か?」

遠慮がちにかかる声に、夕鈴はほっと息を吐いた。


「ありがとう。もちろんいただきます。陛下をお呼びいたしましょう」

夕鈴はにっこり微笑む。
不覚にも昨日は落ち込んで、こともあろうに陛下になぐさめさせてしまったけれど…いつまでもくよくよしているのは私らしくないわ!夕鈴は意気込む。
おおげさな妃笑顔を顔に張り付けて、朝食へと臨んだが、いざ陛下を目の前にすると気恥ずかしさでいっぱいになった。


「お…おはようございます」

「妃、おはよう。今日はなんだか目が赤いな」

などと言いながら頬に触れる陛下。いきなり核心に触れられて夕鈴は動揺した。

な…まさか、新手の意地悪…とか!?


「あ、あの…昨日は」

「まるで本物の兎のようだ。なんと愛らしい」

「………は?」

「朝から君の愛らしい顔を見れるとは、なんと幸せか」

顔を合わせて早々、朝から極甘夫婦演技を始めた陛下に対し、夕鈴は状況が飲み込めずぽかんと口を開いた。ひとり唖然とする夕鈴に手を伸ばすと、陛下はするりと腰を引き寄せ顔を近づけた。


「!?」

「昨日は君の元へ行けずにすまなかった。よっぽどひとり寝が寂しかったのであろうな」

などと訳の分からないことを呟き、陛下がまぶたに口づけを落とす。あまりの早技ぶりに、もちろん手も足も出ない。

ぎゃーーーーー!!!!!
朝っぱらからなんてことを!!!!!

真っ赤に染まる顔で夕鈴は陛下を睨む。


「兎の顔は赤くはないぞ」

「な……何を」

「目だけで十分だ、な」

陛下はクスリ…と笑うと、もう一度まぶたに唇を押し当てた。


もうやめてーーーーーー!!!!!!!!
夕鈴はふらつく足を必死に立たせ、陛下の胸をぐいぐい押し返した。


「も、もうやめてくださいよ。やりすぎです」

夕鈴はこそこそ呟いたが、陛下の声音にかき消された。


「恥ずかしいなんて、今更だろう」

「そんなこと言ってません!!」

ねつ造するな、バカ!
そもそも私が陛下が来なくて寂しくて泣いただなんて、どこまでわがままな妃なの。ってゆうか、まったくの虚言でしょうが。いらいらいと募る思いにもかかわらず、夕鈴は終始口をつぐんだまま。反撃出来ないのは、昨日の失態が響いている。


「ははは」

悔しさいっぱいの夕鈴の傍らで、狼陛下の笑い声が室内に広く響き渡った。

笑い事じゃないわよ!
喉元まで出かかったが、夕鈴はなんとか口を閉じる。悔しいけど…言い返せないわ。がくりと脱力して、陛下のなすがままに身を任せる。大人しくなった兎へ、艶っぽい微笑を浮かべて陛下が言い放った。


「すっかりと元気になったな……」

「……?」

波が引くように妃の部屋から侍女が退出した。見ると、陛下が左手を上げて退出を促していた。急に侍女を下げる陛下を疑問に思いながらも、演技終了の合図に夕鈴は自然と息をついた。


「落ち込む君も愛らしかったけど、やはりいつもの君でないとダメだよ」

「ちょっと、わざと怒らせてませんよね?」

「なんのこと?」

とぼけたふりをして、陛下が首をかしげた。


「朝っぱらから演技はやめてくださいよ。さっきの……あれは、あんまりです!もう恥ずかしすぎますよ!!」

夕鈴はこれでもかと文句を並べた。聞き入る陛下は何食わぬ顔でしれっとしている。そんな陛下の様子に夕鈴はますます怒った。


「ちょっと聞いてるんですか!?だいたいあんな演技しなくてっても、あんな…。とにかくやりすぎです!セクハラ反対!!!」

真っ赤な顔で抗議を続ける夕鈴。笑ってはいけないと思いつつ、いつの間にか陛下の顔が緩んでいた。


「何笑ってるんですか!!!!???」

「ごめんごめん」

肩を震わせながら、陛下が謝った。口元を片手で押さえて、今にも噴き出しそうになるのを必死で耐えている様子がありありと伝わる。


「笑うなんて…失礼ですよ。それに、泣きじゃくった話題を夫婦演技のネタにするなんて、ひどすぎます!」

「だって可愛くて…」

「真っ赤な目が可愛いなんて、意味わかりません!!」

「君には分かるまい」

「は?」

「君の泣いた顔は最強なんだよ。あっもちろん笑顔が一番可愛いけどね」

「……」

意味分からん。常日頃思っていたことだけど、やっぱり陛下っておかしい。いや、独特と言う方が正しいのか。


「いいじゃない、口づけぐらい」

「まったく良くありません!」

「僕たちは夫婦なんだからね」

「偽装夫婦です!偽装、偽装」

「そんなつれないことを言うなら……」

陛下がするりと頬に手を伸ばす。急に目の前が暗くなったと思ったら、陛下がじっと目を覗き込んでいた。迫る陛下にたじろぐ夕鈴。


「な…何か?」

「今度は口をふさいでも構わないけど?」

「!?」

「はははは…」

耳まで真っ赤に染まった夕鈴。まるで茹でたタコのように赤く映る顔に、陛下が盛大に笑う。


信じられない!
目を三角にしてきいっと睨む夕鈴に、陛下が息を整えて呟いた。


「怒ったり、笑ったり、やっぱり夕鈴は今の方がいいよ」

「激怒しています!」

「落ち込んだ顔よりもいいってこと。夕鈴にはいつも元気で居てもらわないとね」

「……」

まさか…なぐさめているの?なんて分かりにくい。
夕鈴は深くため息を吐いた。ころころと子犬のように笑う陛下を、複雑に見つめ返す。


「ん?」

無垢な笑顔を見ていたら、結局は何も言い返せない…。子犬陛下にはとことん弱い夕鈴。というか陛下全般に弱いのだが。


「なんでもないです。朝食…食べましょうか?」

「うん!」

見慣れた陛下の笑顔を不覚にも可愛らしいと思ってしまう。
最近こんなんばっか…いっつも陛下のペースに飲まれて身動きできなくなってしまう。本当に悔しい。


でも……。


『君の喜びも悲しみも僕に還る。どうか…いつも笑顔で笑っていて欲しい』


夢の世界に誘われる直前の陛下の言葉が、ふわふわと脳裏に浮かぶ。



「……」


悔しいし、まだ怒ってるんだけど…。



まぁ、いいかな。









二次小説第50弾完了です
陛下のセリフ「君の喜びも悲しみも僕も還る」というのは、雑誌最新号の陛下の言葉をちょっとアレンジしていただきました。あの言葉ステキ!と胸をときめかせているうちに、どーしても使いたくなって使っちゃいました(笑)
まぁ、いいかな。っていう流れも雑誌と同じですね☆怒ってたんだけどまぁいいかって、呟く夕鈴がとても可愛らしかったです。(←詳細は雑誌をご覧ください)
今回のネタは落ち込む夕鈴。と、それをなぐさめているつもりの陛下(笑)です。彼のなぐさめ方っていまいちよく分からん。王様スタイルって独特です。独特さに加え、伝わりにくさも含め、すべてが彼の愛すべきところですね~。まぁ夕鈴もときどき分からないところがあるんで、分かりにくい者同士ぴったりなのではないでしょうか。

お詫び遅れましたが、長期お休みありがとうございました♪
すっかり仕事も落ち着き、生活のリズムを取り戻しつつありますが、今までのように頻繁(?)に更新は出来にくそうです。でもなるべく頑張りますので、これからも応援お願いします



00:19  |  日常編  |  TB(0)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

久々のミント日和最高でした!!
仕事の合間をぬって、パソコンでチェックしていたら更新されていることを
発見!!!
早速読ませていただきました。
会社のパソコンで一人顔がニヤけまくりでした。
このG・W私はずっと仕事なのですが、ちょこちょこと和みにお邪魔させていただきます!!
あち |  2011.05.01(日) 22:53 | URL | 【編集】

●コメありがとうございます!

あちさま、お久しぶりです~復帰早々、コメありがとうございます!
今回もPCの前でニヤニヤしていただいたみたいで…光栄です(笑)
最近の原作陛下のかっこ良さに、ミケもついつい小説に熱を込めてしまいます。今回は、夕鈴をなぐさめる陛下を書いて男っぷりを上げてみました!夕鈴にはなかなか伝わらないところが悩みの種です。ですがそんなふたりを書いていて楽しいです☆
GWも休まずお仕事…大変ですが、がんばってください!いつでも癒し&和みを求めていらしてくださいませ♪お待ちしています。

ミケ |  2011.05.02(月) 00:22 | URL | 【編集】

コメントを投稿する

URL
COMMENT
PASS  編集・削除するのに必要
SECRET  管理者だけにコメントを表示  (非公開コメント投稿可能)
 

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://mike3aoi.blog134.fc2.com/tb.php/86-45266ecc
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | HOME | 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。