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2011.05.07 (Sat)

恋文(こいぶみ)

恋文(こいぶみ)

陛下目線で短文です。

ではどうぞ。












「夕鈴って今何が一番欲しい?」

穏やかな昼下がり。中庭に面した四阿でお茶を片手に一服していた頃、僕は傍らに座る妃に尋ねた。僕の問いかけにきょとんと目を丸くして見上げる夕鈴。その上目遣いの彼女が壮絶に可愛らしくて、昼間っからついつい顔がにやけてしまう。
僕は硬派の己を呼び起こすように渋顔を固め、大きな瞳の彼女に再度質問した。


「今一番欲しいもの。何?」

「一番欲しいものですか?突然…どうされました?」

「妃が一番望むものを知っておきたくて…」

君は僕の最愛の妃だからね…にっこり笑うと夕鈴はすぐに赤く顔を染めた。

そんな様子の彼女に僕の心がゆっくりと満たされる。やっぱり…夕鈴っていいなぁと改めて思いつつ、熟考する彼女をやんわり見つめた。
僕の突然の質問に対して夕鈴は深く考え込んでいるようだった。

早く答えを聞きたいのはやまやまだが、夕鈴の悩ましげな姿を少しでも長く見つめていたくて、急かすようなことはしなかった。

うんうんと悩む傍らで、僕はお茶を飲みながら穏やかに微睡む昼下がりの景色を眺めていた。


「いい天気だねぇ」

こんな日は外に出て馬で駆けたくなる。草の香りをいっぱいに吸い込んで体中に太陽の恵みを受けて風を受ける僕。想像するだけで気分が良くなった。もちろん君が後ろに乗っていたらなおのこと良い。

僕が遥か思いを馳せている間も、夕鈴の延々と続く思考が終わる兆しを見せなかった。
さすがに心配になって僕は声を掛けた。


「夕鈴。そんなに難しく考えなくてもいいんだよ。今欲しい物を言ってくれれば…」

夕鈴の欲しい物って何だろう?ふと疑問に思ったささいなことがついには聞かずには居られなくなって、こうして尋ねている僕。
相変わらず彼女には調子を狂わされっぱなしだ。夕鈴のことを何ひとつとして漏らさず知りたいと切望するのは、やはり僕のわがままだろうか…?こんな風に考えている自らを愚かとも思うし、愚かな自らもまた良しと思う。
自分でもよく分からない。

ただ知りたいのだ。
夕鈴のことが。
僕を惑わし狂わし、心ごと体ごと奪ってしまおうとする彼女のことが。

知りたくて堪らない。

時々、その甘美な輝きを放つ姿にどうしようもなくなって、ついつい手を伸ばして触れたくなる。誰の目にも手にも届かない場所に閉じ込めて、カゴの中の鳥のように僕だけの彼女にしてしまいたくなる。

僕がそんな風に思ってると知ったら、夕鈴は軽蔑するだろうか…?
いっそ軽蔑されてもいいから気持ちを伝えようとする意志と、それを許さないもうひとりの僕とか混在し入り乱れ、訳が分からなくなる。
今はその思いの狭間で揺れ動くだけで、あと一歩が踏み出せない。
あと一歩、僕が夕鈴へ歩みを進めるには、彼女の気持ちが定かでないから。だから…結局はまだまだなのだ。

今はまだ、この関係に手を打つしかないということか…。この関係もなかなかに気に入っているから仕方ないな。

僕は深く息を吐いて、立ち上がった。
椅子がきしむ音が室内に響いて、夕鈴は顔を上げた。


「夕鈴…」

突然立ち上がった僕に驚く夕鈴の名前を呼んで、彼女に手を伸ばす。夕鈴は一瞬身をすくめたが、拒むことはなかった。


「その艶やかな髪を飾るかんざしか…」

言いながら、僕は夕鈴の髪をゆっくりと撫でる。いつものように一房指に絡めると、唇にあてた。夕鈴の顔がとっくに真っ赤に染まっていたのは言うまでもない。


「それとも華奢な身を包む薄絹か…」

僕は次に夕鈴の頬に触れて、滑らすように首筋をなぞった。
夕鈴の身の震えが鮮明に伝わったが、僕の手が止まることはない。


「それとも甘い君よりもさらに甘い砂糖菓子か…」

夕鈴の唇に指先を押し当てる。途端に僕の心に熱いものが流れて来た。吸い付くように僕の指を離さない唇。上唇をなぞると、夕鈴の首筋が朱色に染まった。

このままでは全身を赤く染めることになるかもしれない。
これ以上はダメだ、歯止めが効かなくなる。きちんと分かっていながらも…恐ろしいほど甘美な時に正常な思考が回復しない。

真っ直ぐ僕をとらえる夕鈴の視線。僕は答えるかのように、じっくりと見返した。


「欲しいものは何?」

口角を上げて僕はにやりと笑う。


「……」

今まで殊勝に僕をとらえていた彼女の目が、ぐるぐると回り出した。どうやら限界を迎えていたのは彼女も同じ。これは好都合…僕は固まった夕鈴の腰を瞬時に引き寄せると、髪に口づけた。そこで夕鈴ははっとしたかのように全身を震わせて、渾身の力で僕を押し退けた。


「痛いよ、夕鈴…」

「な、ななな何するんですか!?」

「君がいつまでも欲しいものを言わないから…」

僕はしゅんと耳をたたむと、子犬の姿でうなだれた。
すぐに夕鈴の戦闘モードが解かれたことを確認した僕は、甘い笑顔で彼女に笑い掛ける。


「夕鈴の欲しいもの、知りたいなぁ」

「そんなの知ってどうするんですか?面白くもなんともありませんよ」

「分かってるよ。でも知りたいんだから仕方ない」

開き直った僕の様子に、夕鈴が思わず噴き出した。


「変な王様…」

夕鈴はクスクスと口元を手で覆いながら笑う。可愛らしい仕草に、僕の顔はすぐに緩む。それ以上可愛くなられると困るな…今すぐ君をさらって、誰の目にも触れない世界に連れ去ってしまいたくなる。腕の中堅く閉じ込めて柔らかく微笑む君の笑顔を独り占めしたくなる。
そこまで考えて、僕は愚かな妄想に終止符を打った。夢と現実を履き違えるなんて僕らしくない。でも……そんな幻想を抱かせてしまうほどに清らかなで美しく可愛らしい夕鈴の姿。出逢った時そのままに、素直で愛くるしい彼女に恋焦がれずにはいられない。

僕は濁った空気を吐き出すと、新鮮な空気を思いきり吸い込んだ。

君に出会ってから、色を持ち始めた世界。
極彩色の美がこれほどに美しく、これほどに違って見えるのを気づかせてくれたのは君。

とても愛しく、とても大切な君。

だから…君の欲しいもの、君が望むものすべて叶えたいと思うのは当然の気持ちだよ。


僕の視線に気づいた夕鈴が、困ったように肩をすくめた。なんて答えようか…どうやら彼女の答えはまだ定まっていないようだ。


「夕鈴ってとことん無欲だよね」

「違いますよ。ただ…一番って言われると悩んじゃいます」

「……」

そんなものかな。
何気なく尋ねたつもりだが、難しい質問だったのかな…僕は悩む彼女の横顔を頬杖をついて眺めた。すっかりと冷めきったお茶に手を伸ばすと、ぐいと飲み干す。湯のみを卓に置いた僕を、茶色の瞳が見つめていた。


「陛下は…?」

「ん?」

「陛下は何ですか?今一番欲しいもの」

「……」

今一番欲しいもの。
僕の欲しいものはとうの昔に決まっている。

ごほんと咳払いをする僕の様子に、夕鈴は興味深く覗き込んできた。大きな瞳に僕の姿がくっきりと浮かぶ。僕の顔は自分でも見たことがないくらい晴れ晴れとしていた。

くすり…と笑うと、目を丸くする夕鈴に極上の笑顔を向けた。


僕の答えは決まりきっている。
それ以外、欲しいものが見当たらなくて困っているぐらいだ。


「夕鈴」

「はい」

「だから、夕鈴」

「はい。なんでしょう?」

「……」

僕は抑えきれずに笑った。目の前で盛大に笑う王様の姿を、夕鈴は困惑顔で見つめていた。


「はは、君の鈍感さは筋金入りだね」

「はい?」

不満気に曇らす可愛い顔。口を尖らせて怒る愛らしい君。

どうしてだろう…幾度となく見慣れた君の表情に飽きるどころか、もっと見たいと願ってしまうのは。



やはり、僕の欲しいものは夕鈴、君だ。







二次小説51弾完了です
タイトル通り、陛下の恋文のような小説になりました。
結局夕鈴の欲しいもの、聞けずじまいでしたね~。おそらく質素倹約心とか、つつましやかな生活とか、健康グッズとか…etc。ついつい所帯染みたものばかりが浮かびます(笑)
陛下が一番欲しいものは、もちろん夕鈴でした。冒頭でだいたい想像出来たんじゃないでしょうか?予想通りの答えですみません
昔の王様って強欲で利己的で、欲しい物でも人でも無理やり自分のものにしてしまうイメージですが、陛下は夕鈴の心をとても大事にしていますね。嫌われたくないとか、怖がられたくないとか、作中でそんな陛下の優しさを見ることが出来ます。狼陛下の花嫁が大好きなのは、陛下の優しさと不器用さ、夕鈴の鈍感さとかたくなさ、そんなふたりが作る関係がとても魅力的で、そしてお互いに思いやってるふたりが好きだからだな…と改めて感じています☆

ところで、ミケは思わず笑ってしまったんですが…最初の方の陛下の言葉「硬派な己を呼び起こすように」って。どこが硬派なんじゃ!と突っ込んでしまいました。皆さまはいかがでしたでしょうか(笑)



13:39  |  日常編  |  TB(0)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

やっとの事で、今日は休みなのですが、アップされていて早速読ませてもらいました。
あーこんなに自分のことを思ってくれる人がほしい!!
陛下みたいな人が現れたらなぁ、と妄想は進むばかり……。
ミケ様の小説を読めば読むほど妄想は膨らむ一方です。
これからも、更新されるのを日々楽しみにしています。
本当に大変でしょうけど、がんばってくださいね。
あち |  2011.05.11(水) 18:04 | URL | 【編集】

●コメありがとうございます!

こんばんは~あちさま。
今日はお休みなんですね…しっかりリフレッシュしてくださいませ☆

ミケも常に、陛下のような男性が現れないかなぁって思っていますよ。もう夕鈴がうらやましくてなりません!ふたりの関係が好きすぎて鼻血出しそうですよ(笑)すでに出てるかもしれませんが。。。王様と庶民の少女との恋なんてホント素敵ですよね!しかも王様に思われてるなんて…かなり萌えます。
少女マンガであるからこそのシチュエーションに妄想を膨らませて、小説更新がんばりますね♪
ありがとうございました♪
ミケ |  2011.05.11(水) 21:57 | URL | 【編集】

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