10月≪ 2017年11月 ≫12月

123456789101112131415161718192021222324252627282930

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--:--  |  スポンサー広告  |  EDIT  |  Top↑

2011.05.22 (Sun)

傾国の妃

傾国の妃

久しぶりに、紅珠の登場です。
夕鈴目線です。

ではどうぞ。














「お妃さま。本日はこれをお持ちいたしました」

ふふふ…と魅惑的な笑みを浮かべて差し出された書巻。夕鈴は目の前に広げられた書巻に視線を落とした。


「これは…?」

目を丸くして尋ねる。尋ねられた少女は嬉しそうに口元を緩ませると、ごほんと咳払いした。


夕鈴と紅珠の間で定例になっている午後のお茶会。今日の会場は妃の部屋の前庭に面した四阿であった。

穏やかな風がさわさわと流れ、夕鈴は目を細めた。

紅珠の広げた書巻は、ずいぶんと古いようでところどころ端が切れて薄汚れていた。丁重に持って来たことは紅珠の態度ですぐに分かる。名家出身の紅珠が持って来た書巻、価値あるものかどうかは判別つかないが、きっとすごく貴重なものに違いない…夕鈴は若干ドキドキしながら、紅珠の次の言葉を待つ。


「やはりご存じないのですね?」

愛らしい微笑みを絶やすことなく、紅珠は確認する。夕鈴は無言のままこくりと頷いた。


「これは傾国の妃のことを描いた書巻ですわ」

「傾国の妃?」

「国を傾ける妃と書いて、傾国(けいこく)の妃ですわ。かの昔、実際に存在したと言われる国王陛下のお妃さまです」

「国を傾ける…?」

夕鈴は首をかしげる。


「何か悪いお妃さまなの?」

国を傾けるってことは…夕鈴の脳裏に悪いイメージが浮かぶ。


「悪い…?そうですわね。悪いと言うか、とっても美しいお妃さまですわ」

紅珠は書巻を指さしながら答えた。よく見ると、文字の中に挿絵が描いてある。どうやら物語書巻のようだった。
夕鈴は紅珠の指さした挿絵をじっくり眺めた。華美に飾り立てたひとりの貴婦人が、木陰に佇んでいる姿が描いてあった。


「きれい…」

古びた書巻ではあったが、細部まで丁寧に色づけされている。さすが氾家の書巻…夕鈴は挿絵を眺めながら、口元に自然と笑みを浮かべた。


「傾国の妃とは、美しさのあまり国をも傾けてしまう絶世の美女のことですわ」

「美しいと国が傾くのですか!?」

夕鈴は驚きの声を上げた。その声を聞いた紅珠はくすくすと笑うと、何度も頷いた。


「そうです。美しさに目が眩み夢中になった君主が政治を顧みず、国を滅ぼしてしまうことから名付けられたのですわ」

国を滅ぼす…?
言っていることはかなり物騒であったが、紅珠はなぜか嬉しそうに語った。書巻を次へ次へと綴って、昔の傾国の妃の話を語り出す。どの挿絵に描かれた女性もそれぞれに美しく、見ているだけで楽しくなる。

だが…。


「こんなに美しいお妃さまが、国を滅ぼすのですね…」

「美しさに目が眩んだ王の責任ですわね」

紅珠はくすっと魅惑的に笑うと、可愛らしい仕草で肩をすくめた。
その姿はさながら美しい貴婦人そのもので、夕鈴は書巻から飛び出して来たのではないか…と何度も見比べてしまった。


「お妃さま…?」

夕鈴の不思議な態度に紅珠は疑問の目を向ける。夕鈴は慌てて見比べをやめると、急須に手を伸ばし熱いお茶を注ぎ足した。
いけない、いけない。この美少女に見とれてしまうのは何度目であろうか。夕鈴はお茶を飲み気分を落ち着かせる。仲良くなった昨今では、気を許してしまうために何度もボロを出しかけている。夕鈴は改めて妃演技に熱を入れた。


「それにしても…素敵な書巻ですね」

「はい。書庫を整理しておりましたら見つけまして。この書巻はすでに絶版となっておりますのよ。ぜひお妃さまに見ていただきたくて…」

「傾国の妃を…ですか?」

「はい。だってまるでお妃さまのようですもの」

紅珠は目をきらきらと輝かせると声高らかに言い放った。ぱあっと周囲が明るくなり、夕鈴は眩しさにまばたきを繰り返す。


「私?」

むしろ紅珠のようではないか。私には国を傾けてしまうほどの美貌も器量も持ち合わせていない。


「傾国の妃は国王陛下に愛され過ぎたお妃さまですわ。陛下を夢中にして、とりこにさせてしまうほどに魅力的な方。まるでお妃さまのように」

「……そ、そんなことありません!」

真っ赤に頬を染めて、夕鈴は首を振って不定した。なんて恥ずかしい発言…紅珠の言いぶりに困惑する。


「あら?そんなことありますわ。だってお妃さまは陛下の唯一のお妃さま。他の女人など目端に入る隙もないほどの寵姫ですもの」

「な……」

なんて恥ずかしい…夕鈴はいたたまれず顔を伏せる。紅珠の真っ直ぐな視線が、夕鈴の心をぎゅっと締め付けていた。
確かに私は狼陛下の唯一の妃であるが、それはあくまでも演技。偽りだらけの寵愛を披露しているだけの事実を知っている立場からいえば、とても心苦しい。真っ直ぐで素直な紅珠の発言が、夕鈴の心を余計に苦しめていた。


「もちろん陛下はとても立派な王様ですから、国が傾くことなどありませんが…」

紅珠はいたずらっぽく笑うと、ね、お妃さま…と夕鈴に同意を求めた。くるくると変わる可愛らしい表情に引き込まれてしまいそうになるが、夕鈴ははっとして口を開いた。


「そ、そうですわね。そのようなことはありえません…」

紅珠につられて笑う。まるで姉のように慕ってくるこの可愛らしい少女の前での演技はいつも気が引けるが、この笑顔を見ていると、そんな心苦しさも忘れてしまう。
夕鈴は書巻の中で美しく笑う傾国の妃の姿を見つめながら、ほっと息を吐いた。


















「夕鈴、それ何?」

突然上から降って来た声と共に背後から誰かに抱きすくめられ、夕鈴は驚いて飛び上がった。背後の人物を確認すると、すぐに強張った体から力を抜いた。


「何なさるんですか!?」

夕鈴はきいっと金切り声を上げると、背後の陛下を睨む。


「ただいまの挨拶」

「人前でもないのに演技しないでくださいよ!私はすぐに対処できません」

「……対処してよ」

陛下は独り言のようにか細く呟くと、まるで怒られた子どものようにしゅんと目を伏せて腕を解いた。

なんだこの罪悪感。私は間違ったことは言ってないはず。
日を追うごとに過剰になる演技に文句いっぱいであったが、なんとなく寂しげな表情を見てしまうと何も言えない夕鈴であった。


「お、お帰りなさいませ。今日は随分と早いお越しでしたね」

「最近忙しくなかなか逢えない君に逢いたくて、飛んで帰って来たんだよ」

「……そ、それはどうも」

真っ赤な顔して口ごもる夕鈴を、嬉しそうに陛下がまた抱きしめた。


「!?」

「いつ見ても、何度逢っても、君は本当に魅力的だね」

「ちょっと…冗談はやめてくださいよ」

片手を扇のようにして火照る顔を仰ぎながら、夕鈴が笑う。


「冗談じゃないよ」

陛下は夕鈴の言葉に一瞬むっと声を荒げると、抱きしめる腕に力を込めた。息苦しさにじたばたと手足を動かし抵抗する夕鈴であったが、力強い腕が解かれることはなかった。


「妃逢いさに急いで帰って来た夫に対して、君は冷たすぎる」

「普通です。ふ・つ・う!」

「冷たいよ。僕、君のために仕事頑張ったんだよ」

と言うと、腕の拘束を少しだけ緩めて、陛下は夕鈴の顔を見降ろした。


「なのに…どんなに冷たくされても愛さずにはいれない」

陛下は狼陛下の笑顔でにっと笑うと、夕鈴の髪を一房すくって薄い唇に当てた。
すでに真っ赤に染めあがった顔をさらに赤くして、口をぱくぱくと乾いた声を押し出す夕鈴の姿に、耐えきれなくなった陛下が笑い声を上げた。


「夕鈴…面白い」

「……っ!?」

またからかわれた!夕鈴はわなわなと肩を震わせて、陛下の胸に両手を当てて突っぱねた。


「離してください!」

「ごめん、今のは面白いじゃなくて可愛いだった」

「もう結構です!」

「そんなに怒るな、可愛い顔が台無しだ」

怒らせてるのはあなたでしょーが。またしても陛下のペースに巻き込まれていることに憤りを感じる一方で、変に居心地の良さを感じてしまう自らに赤面した。

これは演技演技…勘違いするな、夕鈴。

ひとり心の中で格闘し続ける夕鈴をよそに、陛下は夕鈴が先ほどまで手に取って眺めていた書巻に目を移した。



「傾国の妃図か…」

陛下の呟きに夕鈴はあっと小さく声を上げる。紅珠から借りた書巻が、無残にも床に落ちている様子を見て慌てて拾い上げた。いけないいけない。高価な書巻なのに、ぞんざいに扱うわけにはいかない。


「それどうしたの?」

背後から覗き込んでくる鋭い視線に委縮しそうになるが、夕鈴はぐっとこらえる。そのまま書巻についた埃をはたきながら答えた。


「紅珠から借り受けました」

「ふうん」

陛下はなんとなく気に入らないオーラを出しながら、訝しそうに夕鈴の手から書巻を取り上げた。ぱらぱらとめくり流し読みする陛下の表情を見ると、不機嫌そのものであった。
氾家の話題を出すといつも不機嫌になる。それを知っていた夕鈴であったが、紅珠に罪はない。陛下の態度に臆することなく、夕鈴は話を続ける。


「書庫から見つけたものだそうで、私のために持って来てくれました」

「……君のため?それは…」

なんて似合わない…陛下は小さく呟くと、長い書巻を閉じた。


「似合わない?」

耳ざとく聞きつけた夕鈴は、陛下の言葉を繰り返す。


「なんとなく、君には似合わないかなって思っただけ」

「……どうしてですか…?」

「君は、傾国の妃ではないでしょ?」

「……」

確かに私は傾国の妃のように美しくも賢くもないけれど…なぜか陛下の言葉にちくりと心が痛む。


「夕鈴?」

はっとして見上げると、陛下の顔が目の前にあって驚いた。端正な顔立ちは見慣れているようでなかなか見慣れない。


「そ、そうですね。確かに私には似合いませんね」

慌てて飛び退く。
確かに私は、この書巻の貴婦人のように美しくはなれない。国王をとりこにさせてしまうほどの美貌は持ち合わせていないし、そもそも偽物の妃にそんなこと出来ない。
夕鈴は苦笑いで答えると、陛下の手から書巻を抜き取った。さっさと紅珠に返そう。

たとえ偽りでも、紅珠からの賞賛の声に、あの狼陛下の唯一の寵姫だと言われたことに少し嬉しさを感じた自らを情けなく思う。

してはいけないと思いながらも、どこか勘違いをしていた自分が嫌になる。


「失礼しました…えっと、お茶でもお淹れしましょうか?」

夕鈴は半端な笑顔のままさっと踵を返すと、お茶の準備のため次の間に向かおうとした。

だが、ふいに手を掴まれて、夕鈴の足が止まる。


「?」

見ると、陛下が手を掴んでいた。振り返って見上げた陛下の顔は、どことなく真剣な面差しで胸が跳ねた。


「あの…」

「口に出して言わないと伝わらないか…」

「え?」

「君が気づかせてくれたこと」

「?」

一体何か。謎の言葉を繰り返す陛下に射竦められて、夕鈴はそのまま固まってしまった。まるで蛇に睨まれたカエル状態…もとい、狼に睨まれた兎であった。

突如現れた狼陛下に、夕鈴はただ為すすべもなく見つめ続けているだけ。


「傾国の妃に魅了された君主はみな、妃に首ったけで政治よりも食事よりも何より妃のことが一番だったそうだ。その点は私にも当てはまる」

「……は?」

何?当てはまるって。何ひとつ当てはまってないと思う。


「確かに私は妃が一番好きだが、政治をおろそかにする愚か者ではない。よって国は滅びはしない」

「……」

一体何が言いたいのだろう…訳の分からない発言に混乱する頭を抱えつつ、夕鈴はそろりと陛下を見上げた。その表情は自信たっぷりで、発言したことすべて嘘偽りのない事実だと思わせてしまうほどに、声には迫力があった。


「あの…」

「だから君には似合わない。傾国の妃じゃなくて、最愛の妃だからね」

「……」

意味分かんない。
ぼんやり空虚な視線を向ける夕鈴に対して、陛下がにっこり微笑んだ。


「分かった?夕鈴」

「まったく」

即答する夕鈴の言葉を聞いて、陛下が噴き出す。お腹を抱えて一通り笑い終えた陛下は、瞳にうっすらと涙を溜めて夕鈴から書巻を奪った。


「こんな書巻、さっさと返してしまおう。君の憂いのもとだ」

「!?」

別に私…憂いてないし。的確に心を当ててくる陛下に、夕鈴は心底焦る。


「わ、私読みたくてお借りしたんですよ」

「だから君には似合わないよ」

「似合うかどうかは自分で決めます!」

「ダメだよ。夕鈴には似合わない。夕鈴には…そうだなぁ、傾国の妃よりもお花畑の妃の方が似合うかも」

くすりと笑って陛下が言う。


「な……っ」

お花畑!?バカにしてるわ!!!!
夕鈴は目を吊り上げて真っ赤な顔で応戦する。


「それとも砂糖菓子の妃かな」

「なんですか!!!それ!」

私は食べ物じゃない。
失礼発言を連発する陛下に、とうとう夕鈴の堪忍袋の緒が切れた。


妃の部屋に響く笑い声と怒り声。

真っ赤な顔で突進してくる夕鈴の手首を握りしめて、陛下が呟く。


「覚悟しておいてね、夕鈴…」

「何をです!」

夕鈴の頬に手を伸ばす陛下。怒りが昇って熱くなった頬よりも熱い陛下の手に、夕鈴の鼓動がどくんと跳ねた。


「僕は貪欲だから…」


だからすべて手に入れる。


国も政治も、もちろんお花畑の妃もね。












二次小説第52弾完了です
今回は「傾国の妃」話。よく絶世の美女のことを傾国の美女と言いますよね。国を滅ぼしてしまうほどに美しい人のことです。昔実在した傾国の美女は、ほとんどが王をたぶらかす悪い女として有名です。悪女と夕鈴はまったく結びつかないですが、たまには悪女になって陛下をたぶらかして欲しいなぁ…とミケは思います。
まぁ天然夕鈴には無理ですよね!むしろ陛下の方が適役ではないかと…(笑)最後の方では、いつかは妃を手に入れてやると貪欲さをアピールしてますし、傾国の美女よりも陛下の方がよっぽど黒いんじゃないか…と思ってしまいます☆
傾国の妃<黒陛下<お花畑の妃(←ミケの中での力関係図です 笑)もちろん夕鈴が最強♪
お花畑の妃……我ながらアホっぽいネーミングでした、どうぞお許しください





22:06  |  日常編  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する

URL
COMMENT
PASS  編集・削除するのに必要
SECRET  管理者だけにコメントを表示  (非公開コメント投稿可能)
 

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://mike3aoi.blog134.fc2.com/tb.php/88-7a934720
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | HOME | 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。