07月≪ 2017年08月 ≫09月

12345678910111213141516171819202122232425262728293031

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--:--  |  スポンサー広告  |  EDIT  |  Top↑

2011.05.30 (Mon)

隣で眠るキミを見てⅠ

「隣で眠るキミを見て」

ラブ度少し上げ気味の夕鈴目線です。
長文なので、休憩しながらお読みください。

ではどうぞ。












薄目を開けて見つめた景色は、いつもと同じ見慣れた寝台であった。
片方の頬をシーツにぴったり付けたまま、夕鈴はまばたきを繰り返す。
格子窓からは朝日とともに、清々しい香りが差し込んでいた。夕鈴はひとつ大きな欠伸をすると、浅く息を吐く。

あぁ…朝だわ。起きないと。

まだはっきりとしない頭を軽く振ると、夕鈴は起き上がろうと寝台に手をついた。
だが思いとは裏腹に、居心地の良い寝台からなかなか身が起こせない。

なんだか体が鉛のように重いみたいだ…まるで寝台に吸い付いたかのように起き上がらない体に、夕鈴は訝しさを感じながら再度力を入れた。


窓から差し込む斜光は、穏やかに寝室を照らしていた。
眩しい光に目がくらみ周囲の様子は分からないが、なにやらいつもより寝台が狭く感じる。

仮の妃に与えられた寝室は、夕鈴にはもったいないほど広く、寝台はふかふかで寝心地は最高だった。ひとりでは持て余すほど広い寝台を毎夜惜しげもなく使っているのだが…今朝はやはり狭いような気がした。それというもの夕鈴の体は寝台の中央ではなく端近にあったからだ。
寝相は決して良いとは言えない。いつの間にか寝台の端に寝返りを打っていたのだろう…夕鈴は気にすることなく起き上がろうとまた手を付いたが、やっぱり起き上がらない。

何かが邪魔しているとしか思われない。


「……何?」

目覚めを邪魔する存在を確認しようと、夕鈴は何気なく振り返る。
最初は寝ぼけていて全く気づかなかったが、よく見れば腰に腕が巻きついている。しっかりと捕らえて離さないかのように絡みつく腕に、夕鈴はぞくりと身震いした。

一瞬叫び声を上げそうになったが、慌てて押しとどまる。確認した腕の持ち主は、この国の王様であったからだ。


「!?」

夕鈴は口元を押さえながら、寝入る王様をまじまじと眺めた。

なんで陛下…!?なんでここに居るの!?
妃の寝台になぜか横たわる狼陛下。当たり前のように寝台の半分を使い、我がもの顔で寝入る姿をまじまじと眺める。
夕鈴は一瞬夢かと思い、頬をつねってみた。だが、鈍痛が頬に伝わり顔を曇らす。


「痛……夢じゃない…の?なんで陛下が寝てるの。しかも…」

なんで抱きしめてるのよ…夕鈴の目は今やはっきりと覚めていた。目覚めの狼陛下。これほど強い刺激はない。夕鈴は激しく動揺しながらも、なんとか腕を外そうと身をよじった。

この状況は皆目意味不明だが、とにかく逃げないと!


ごそごそと抵抗を続けているうちに、陛下が寝返りを打った。


「……ん」

「!?」

ため息を漏らす陛下を、夕鈴は恐る恐る見つめる。
寝ぼけ眼の瞳をゆっくりとこすって、陛下がぼんやりと目を開けた。視点の定まらない黒い瞳が夕鈴を捕らえている。


恥ずかしい。
何この状況…夢だと言って。


「ゆう…りん?」

「ち、違います」

夕鈴は即答すると、くるりと背を向けてまた身をよじった。
今なら…まだ陛下が寝ぼけている今なら逃れられるかもしれない。だが、必死の抵抗むなしく、一層力を入れてじたばたする夕鈴に回された腕は全く解かれることはなかった。

それどころが更に引き寄せてられて、背後から抱き締められた。

ぎゃー!!!!
寝ぼけてるはずなのに、なんなのこの拘束力。

夕鈴は声にならない声で叫ぶ。


「ゆ~りん」

陛下はふわふわと名前を呟きながら、さらに腕を絡めた。

ちょっ、どこ触って…見分けがつかないかもしれないけど、それはお腹じゃないわよ!
心の中で怒声を上げ、夕鈴は激しく抵抗して腕を取り外しにかかった。


「夕鈴」

「違いますって!離しなさい!」

髪越しに何か生暖かいものが触れて、夕鈴の体はぴたっと硬直した。
さすがの夕鈴も背後で何が起こっているのか想像出来る。いつも人前だけで見せる甘い夫婦演技、朝っぱらから寝台の上で始めようとしているのだ。

ぎゃー!やめてください!!!!


いちはやく危機を感じて逃げ出すまでは良かったが、相手が悪かった。今まで何度となく強靭な囲いから逃れようと獅子奮迅していた夕鈴であったが、その結果いまだかつて逃れられたことはない。
それでも観念することなく最後の抵抗を試みる夕鈴の耳元で、クスクスと含むような笑い声が響いた。


「な…」

まさか笑ってるの?笑い事じゃないわ!

怒りに任せて殴ってやろうかと思ったが、夕鈴ははたと止まる。真っ赤になって怒って、その顔に笑われて、また怒って子犬の姿で謝られて、それで許して終わり…いつもいつもそれの繰り返しだ。人間は学習するものだ、いつまでもやられっぱましというわけにはいかない。

夕鈴はごくりと生唾を飲み込んで、反撃ののろしを上げようと心の中で深呼吸をした。
迎え撃つのは狼陛下。相手に不足なし…むしろ若干手に余るぐらいだ。

夕鈴は肩を震わせ、両手で顔を覆った。

秘技、泣き落としよ!
狼陛下相手にどこまで効果があるのか不確かだが、やってみないことには始まらない。夕鈴は大きく息を吸い込んで、背後の陛下に呟く。


「痛い…です。お離しください」

夕鈴の言葉に一瞬陛下の拘束が緩んだが、まだ解放には至っていない。

も、もう少し…。

夕鈴は肩を小刻みに震わせてしきりに離してと呟いた。顔が見えないのは好都合だ。今更と言われるかもしれないが、面と向かって演技するのはとても苦手だ。しかもやましいことを心に抱えて演技すると、この狼陛下にはすぐに見破られてしまうし。


「夕鈴。それじゃあダメだよ、逆効果」

え…?

ふいに届いた声音に、夕鈴は顔を覆っていた両手を解いた。
肩を押されていつの間にか寝台に仰向けになった夕鈴を、真っ直ぐ陛下が見下ろしていた。黒い瞳が今度ははっきりと夕鈴を捕らえていた。


「……」

怒って…る?
いやいや怒るのはこっちでしょう!


「それほどに私が嫌いか…?」

息もかかるほど近い位置にある陛下の顔に、夕鈴の心臓は爆発寸前。しかも突然の狼陛下の降臨に、夕鈴は動揺しっぱなしだった。

ここで嫌いと言ったら補食されそう…。

夕鈴は演技してることも忘れてふるふると頭を振った。


「では離して欲しいと言ったのはなぜか?」


なぜって…言わなくても分かるでしょーが!
分かりやすい意地悪に、夕鈴はぐるぐると喉を鳴らした。

こうなったら威嚇するしかない。でも、迫力負けしそう…いやいや、くじけちゃダメよ!

夕鈴はきいっと目線を上げて、狼陛下を睨んだ。
そんな夕鈴の様子をぽかんと口を開けて見ていたかと思うと、陛下がおもむろに笑い出した。


「ははは」

肩を震わせて笑う狼。夕鈴は牙をそがれて脱力する。


「な、何……」

「相変わらず…我が妃は朝から私を楽しませてくれる」

するりと頬に触れると、陛下はほっぺたを軽くつねった。
弾力の良い肌が纏いつくように手を包み、陛下は口元に笑みを浮かべる。


「このまま望み通り食べてしまうのも構わないが…せっかくの清らかな朝だ。まことに名残惜しいが、そろそろ目覚めないとな」

「……は?」

「それに、君の怒り顔も心底可愛いのだが…やはり花の笑顔を見せて欲しいしね」

「……喧嘩売ってます?」

「愛を囁いているんだよ。これほど言っても伝わらないとは、もっと愛すべきだったか…」

そう言いながら覆いかぶさろうとする陛下を、夕鈴は渾身の力で押し退ける。


「冗談が過ぎます!!」

陛下はごめんね…と舌を出すと、やっと夕鈴を解放した。

















「なんだ…朝議に遅れたぐらいで、それほど怒ることもあるまい」

「遅れたのではなく欠席されたのですよ!」

李順の怒り声が妃の部屋に響いて、夕鈴はびくっと肩をすくめた。目覚めからの狼との一戦で憔悴しきった体を長椅子から起こし、怒鳴る上司の顔を見つめる。機嫌の良い顔などめったに見ないし、いつも不機嫌なのは分かりきったことだったが、今朝の上司の顔はまるで修羅のごとく怒っていた。


「我が妃が離してくれなくてな」

陛下の言葉に怒りの矛先を変えた李順が、じろりと夕鈴をにらんだ。夕鈴は何度も首を振って、濡れ衣です!と声高に訴えた。

むしろ陛下が離してくれなかったんです!と言いたいが、恥ずかしすぎてそんなセリフ言えない。事実なんだけど言えない…なんて悔しいの!

朝の大事件の直後、怒涛の勢いで妃の部屋に飛び込んで来た李順。
結局夕鈴は、一緒に寝台で眠っていた理由を問い正せずに、なぜか怖い上司の叱責を受けていた。理不尽な展開に憤慨するも、自分よりも怒り狂う上司を前にして、何も言い返せない。


「あのような会議に出席すること自体、時間の無駄だ」

どうやら大切な朝議に欠席したことを怒っているようであったが、怒られている本人はさらに怒っているようで、苛立ちを隠すことなく反論している。これじゃあどっちが怒られているのか分からない。


「重鎮の大臣が参列する大事な朝議ですよ」

「狸の会合に参加して、有意義な時間が得られるわけはない。さっさと仕事に取り掛かった方がよほど無駄ではないと言える」

いつもなら素直に側近の言うことを聞く陛下であったが、この日は別であった。よほど朝議へ参加するのが嫌らしい。いつまでも首を縦に振らない陛下に、先に折れたのは李順の方だった。


「では参列者の顔を変えましょうか?」

「古参の大臣などいらぬ。地方役人を呼べ。軍部の将と吏部の将もだ。あとは交易武官。次週の朝議は宰相と紅と孫を残し、顔ぶれを一新する。良いな?」

陛下の案に対して、李順はしぶしぶと頭を垂れた。


「治水灌漑工事への着手案を考えろと申し伝えよ。東の国の錫の輸入価格が高騰している。原因の追究と錫の交易ルートの変更案を練るように武官へ伝えよ。作物庫の保管量を知りたい。飢饉へ備えての今年いっぱいの………」


急にお仕事モードになって話し出す陛下の傍らで、夕鈴はほっと息を吐いた。甘い演技を繰り返されるよりも、真面目にお仕事してくれていた方がよっぽどいい。
夕鈴はさっと踵を返して次の間に向かった。話し合いがひと段落ついたら朝食の準備をするように侍女に申し伝えよう。陛下と朝食を摂って、仕事へ見送ったら今朝の妃仕事が終わる。陛下が退出したら、やっと本来の姿である私に戻って掃除婦バイトに専念しよう…などと考えていた矢先、背後から声を掛けられて驚いた。

振り返って確認した人物は李順であった。


「お話は終わったのですか?」

「用件は聞きました。陛下があなたと朝食を摂るとおっしゃって追い出されましたよ」


李順のイライラ声が響く。触らぬ神にたたりなし…夕鈴は黙したまま上司をやりすごそうと、お茶を淹れる準備に集中する。


「夕鈴殿」

低い声音が響いて、夕鈴はどきりとした。上司に呼び止められることなど数あることだが、嫌な予感がするのはそんなにはない。夕鈴は神経質に歪む上司の顔を見つめた。


「何か…?」

「本来ならばあなたにお願いすることではないのですが…背に腹は変えられません。次週の朝議、陛下はああおっしゃっていますが、また欠席されては困ります」

「陛下は理由なく朝議を欠席されたりはしないのでは?」

「もちろんそうなのですが、念には念を。夕鈴殿にはある役目を言い渡します」

「な、なんでしょう…?」

嫌な予感はますます濃くなる。不安に揺れる心と戦いつつ、夕鈴は李順の言葉を待つ。


「簡単なお役目です。朝、朝議に遅れたりしないように陛下を部屋から追い出していただくだけで結構」

「……追い出す?」

「はい」

「……」

それってつまり、今朝みたいに一緒にひと晩過ごして、朝見送れってこと!?
いやいや待って。朝、私が陛下の部屋に起こしに行けばいいのよ、うん。落ち着きを取り戻した夕鈴は、安堵の息を漏らすとこくりと頷いた。


「では、朝議の朝には起こしに参ります」

「いいえ。より確実に出席していただくためにも、前の日から寝泊りしてください。陛下の部屋でもあなたの部屋でもどちらでも構いません」

「そ…それは、何かの冗談で?」

優雅に微笑む夕鈴の顔に、李順は嫌そうにため息を漏らす。


「こんな凝った冗談は言いませんよ」

「そ…そうですよね」

急に頭痛がして夕鈴は頭を押さえた。
夫婦だから不自然ではないけれど、私たちは仮の夫婦、そんなの冗談じゃない。ふいに今朝の情景が脳裏に映って、夕鈴は眉をしかめた。


「お断り……」

ぴりりと空気を貫くような視線を感じて、口をつぐむ。目は口ほどに物を言う。李順の無言の視線がプレッシャーとなって夕鈴に重くのしかかる。


「私からお願いしているのですよ」

まさか断れるとでも?と目が言っていた。


「朝議の前の晩だけですから」

これはお願いではなく命令ですよ、と目が言っている。


「……でも」

「だいだいあなた、今朝も陛下泊まってたでしょう。あなたに限って間違いはないと思いますが、明日もよろしくお願いしますよ」

間違いって何!?そんなのあったら困るわよ。しかも今、明日って言った???


「明日も…ってどういうことですか?」

「あぁ、言い忘れましたが、今朝の分を急きょ明日行うことになりましたので」

「へ?」

そんなの聞いてない。


「陛下には私から申しておきますから。では、よろしくお願いしますよ」

「……い…」

反論出来ない雰囲気の中、夕鈴の口から漏れたのは掴めない言葉ばかりだった。結局足早に去って行く側近の背中を見つめることしか出来なかった。
こんなのバイト事項にあったけ…初めて後宮に来た遠い日のことぼんやりと思いだしながら、夕鈴は肩を落とした。





Ⅱへつづく。

23:11  |  風邪引き嫁(熱)編  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する

URL
COMMENT
PASS  編集・削除するのに必要
SECRET  管理者だけにコメントを表示  (非公開コメント投稿可能)
 

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://mike3aoi.blog134.fc2.com/tb.php/89-5a63bff4
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | HOME | 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。