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2011.07.09 (Sat)

あなたの一番になりたくて

「あなたの一番になりたくて」

長らくお待たせしました。
夕鈴目線です。変わった文章ですが、楽しんで読んでいただけると嬉しいです。
あとがきも含め長いですが、一気に読んで欲しいです。

ではどうぞ。













「お見事!」

甲高い歓声に導かれて、夕鈴は声のする騒がしい方角へ目を向けた。
次々と飛び交う歓声と拍手が周囲にこだましている。そのこだまに囲まれて、凛と立つ姿がひとつ窺えた。
多数の人々に囲まれるようにして、弓を片手に笑顔を浮かべた青年が立っていた。その表情は得意気で、笑顔の奥に嬉しさが滲み出ている。


「素晴らしい弓手ですな」

青年の凛々しい姿と覇気に見とれていた夕鈴は、後ろから掛けられた声にはっとして振り返った。
そのまま上品な笑顔を浮かべると、こくりと頷く。


「えぇ…大臣さま」

固めたにこにこ顔で答える夕鈴に、大臣は満足そうに頷いた。どこから見ても完璧な妃の笑顔を披露できたことにほっと息を吐く夕鈴。だかその笑顔に向かって、ふいに大臣とは別の視線を感じた。その視線にはどことなく訝しさが含まれていて、夕鈴の鼓動が不自然に跳ねる。


「……」

ぎこちない演技を咎める怖い上司の視線か…、はたまた妃を敵視する若い官吏の視線か…気付かれないように視線の主を探す夕鈴。だがそれは思わぬ人物であったため、夕鈴は我が目を疑った。

夕鈴の横顔に訝し気な視線を送るのは、玉座の隣に鎮座する狼陛下だった。疑問の気持ちを抱えながら、夕鈴は陛下に尋ねる。


「…陛下もご覧になりましたか?」

何か言いたげな視線を気にしながらも、夕鈴は口を開いた。
尋ねられた陛下はというと、先刻と変わらず不機嫌さを露わにしている。

夕鈴とは対照的なその不穏な表情に、夕鈴を始め、陛下を取り囲む面々が息を飲んだ。夕鈴は、ふたりを囲む空気が音を立てて固まっていく様を、どうにも出来ずに見つめるしかない。



王宮の中庭で開かれた恒例の競技。
国一の優れた者を決める競技は、古来からの宮中の催しのひとつである。

初日の今日は、国中から集められた弓手がその腕前を競っていた。王宮の中庭に設けられた的の真ん中に近い所に射た者ほど、より優秀な弓手として認められ、最も近く射た者には褒美が与えられる。

朝から始まった競技は、日が高くなった昼を過ぎても白熱は冷めることなく続いていた。目の前で繰り広げられる華麗な技に、何度となく感嘆のため息を漏らす夕鈴であったが、そのため息は途切れることはなかった。

夕鈴にとって王宮内の競技の観戦は初めてのこと。ついつい興奮して競技に魅入ってしまい、妃としてのしとやかな演技を忘れそうになる。何度となく身を乗り出して拍手したい衝動に駆られていたが、何とか抑え大人しく観戦していた。

声を出して声援を送ることが出来ないなんて…湧き上がってくるわくわくドキドキの気持ちを隠しながらの観戦は夕鈴には酷だった。しかもいちいち感想を求める大臣たちの億劫なことこの上ない。


でも、それより何よりも…。

夕鈴は意を決してちらりと陛下を見上げた。
陛下は足を組み、組んだ足のひざの上に肘をつけて、手のひらは頬に添えて、頬杖をつくポーズで競技台をじっくり眺めていた。

視線には迫力があって、狼の冷たい雰囲気を醸し出している。


…なんだかよく分からないけど、怒っているような気がするのは気のせいか…。

競技が始まって半刻ほど。最初のうちはいたって普通の陛下だったのに、今は夕鈴の前でも珍しいほど非情な狼陛下に変貌していた。時間が経つほどに機嫌を損ねる狼陛下、夕鈴が競技者を褒めれば褒めるほど怒りの度合いは増しているようだった。


「……」

一体どうしたものか…思案しているうちに、新たな競技者が登場し喝采を浴びていた。よく見れば、的のど真ん中に矢を打ち込んでいた。さらにもう一本、腰に掛けた鞘から矢を抜き出し、弓にくぐらせようとしている。

歓声と同時に臣下たちを包む雰囲気も緩んだようだった。夕鈴はほっと息を吐くと、弓手の動向を注意深く窺う。

的の真ん中にはすでに矢が射られているのに、もう一本矢を取り出してどこに射ようというのかしら…などと考えていた矢先、それまで黙していた陛下がおもむろに口を開いた。


「夕鈴…」

「はい!」

肩をびくりと震わせて、隣の陛下に返事をした。そんな夕鈴の様子に苦笑しながら、陛下は細い髪に触れる。さらさらと髪を梳く音が耳元に流れた。


「弓の競技…気に入ったか?」

「はい。皆さま素晴らしい弓手ばかりで…感動のあまり言葉になりません」

緊張しながらも、目を輝かせて答える夕鈴。嘘偽りなく素直に意見を述べる夕鈴に対して、一瞬陛下の顔が緩むが…すぐに元の冷酷な表情へと戻った。

「なるほど」

「?」

眉間にしわを寄せて答える様子はまるで修羅のようで背筋が震えた。怖い怖い狼陛下の光臨に抗う術もなく、ただ見つめるばかりの夕鈴。彼の二面性を知っていたために、周囲の臣下たちよりは恐怖度はましだったが…。


「あの…」

ぼそり…と周りに聞こえない声量で夕鈴は呟く。

「何か…怒ってますか?」

「……」

陛下は目を見開くと、夕鈴から視線を外した。目線は真っ直ぐ弓手に向けられていたため、夕鈴もその先を追う。
先ほど、的のど真ん中に打ち込んだ青年だ。もう一本矢を取り出して、構えている。陛下も臣下たちも、もちろん夕鈴もまばたきもせず青年の姿を見つめる。

ぎりぎり…と競技台から離れているこの玉座にも、弓がしなる音が届いてきそうで夕鈴はドキドキした。ほどなくして、ばんっと弓が弾けたかと思うと、とぐろのような歓声が鳴り響いた。


「すごい!」

妃であることを忘れ、思わず夕鈴は立ち上がった。先ほどの素晴らしい技を、より鮮明に視界に収めようと背伸びするが、裾に足が絡まり前につんのめりそうになった。


「きゃ!?」

倒れそうになる体を支え、またしてもピンチを救ってくれたのは狼陛下だった。夕鈴はこれでもかと顔を赤らめて陛下に頭を下げる。


「す、すみません」

ぼそぼそ謝罪する夕鈴の頭上からは、はっきりと笑い声が響いていた。
う…恥ずかしい。またしても失態を披露する自らに落ち込みつつ、赤い顔を上げて陛下を見つめた。陛下の顔はさきほどよりも不機嫌さは薄れているようで、夕鈴は胸を撫で下ろした。


「君が興奮するのも無理はない…素晴らしい技を見せてもらった」

「はい…」

夕鈴はコクリ…と頷くと、的に視線を向けた。ど真ん中に射られた一本の矢を裂くようにして、射られた矢。超人的なすご技に目を丸くする観衆たちと同じように、夕鈴も目を丸くして何度も確かめた。


「ビックリしました。あのようなことが出来るのですね…」

夕鈴は自らの赤くなった頬を押さえながら尋ねる。なかなか赤面がおさまらないのは観衆たちの興奮が伝染したのもあるが、自らの気持ちがかなり高ぶっているためである。夕鈴はドキドキ刻む胸を悟られないように陛下と距離を取る。だがすぐに腕が伸びて来て、着物の袂を無遠慮に引っ張られた。


「!?」

「どこに行こうというのか…我が妃は」

甘い表情で迫られて、夕鈴の鼓動は激しさを増し爆発寸前。愛想笑いでなんとか誤魔化しながら、夕鈴はさりげなく陛下から視線を外した。


「私よりも…弓手のほうがいいか」

「え?」

耳元でぼそりと呟く陛下を見上げると、先刻よりも酷さを増した冷たい表情で競技台を睨んでいた。


「陛下…?」

陛下は一瞬だけ夕鈴を見据えたかと思うと、すぐに玉座の椅子から立ち上がり左手を上げた。


「弓手を前に」

陛下の声で静まった競技台からは、見事な競技を披露した先ほどの青年がゆっくりと玉座に歩みを進める。青年は前に進み出ると、礼を取って平伏した。


「すばらしい腕前であった」

「は…ありがたき幸せにございます」

「妃がお前をいたく気に入った。今年の弓手の一番はお前に与えることにする」

「はは」

最敬礼で答える青年に、陛下は満足そうに頷く。夕鈴も陛下の隣に立ち、喜ぶ青年と共に喜んだ。


「お妃さま、ありがとうございます」

「とても素晴らしい腕前でした。これからもどうぞ研鑽なさってください」

「はは」


















「私、王宮の競技は初めて観ますけど、とっても楽しいものなのですね」

褒美を受け取り、観衆の賞賛の声に嬉しそうに答える青年を遠目に見ながら夕鈴は言った。


「そうだね。昔からの慣わしなんだけど、王宮の催しの中で一番好きだなぁ…」

こそっと子犬の姿で答える陛下。夕鈴はそんな彼の姿にほっと安堵する。


「どうかした?」

「いえ。さっきまで何か怒ってらっしゃる風でしたので…」

夕鈴は脳裏に鮮やかに残る冷酷非情な狼陛下を思い起こし、鳥肌を立てた。


「あぁ…恐がらせちゃってごめんね。ちょっといろいろ気に入らなかったから…」

「気に入らない?何がですか…?」

「ちょっとね。でももう大丈夫。いい手を思いついたから」

「?」

「明日の競技も楽しみだよね~」

「はぁ…」

急に機嫌が良くなる陛下のペースに着いて行けない夕鈴。
ときどき何考えてるか分かんないのよね…陛下って。にこにこと、鼻歌を歌い出す目の前の陛下を複雑に見つめ返す夕鈴であった。
















迎えた次の日。
今日の競技は剣であった。この競技で優秀な成績を収めたものは、王宮の要所を守る護衛兵や出征の際に同行する王宮兵へと昇進が決まることも多かったので、臣下たちの熱の入りようは武術に明るくない夕鈴であっても見て取れた。
朝から熱気に包まれる王宮で、その熱気にも増してわくわくと心躍らせて準備する夕鈴。

昨日の失態が響いたのかそうでないのか、夕鈴たちが観戦する玉座は昨日よりも一段高いところに設けられていて、より競技台が見やすくなっていた。
これも狼陛下の心遣いか…夕鈴は陛下に感謝する。転びそうになったのは不本意だけど、でも競技がよく見えるようになったのは嬉しい…今日も楽しみだわ…夕鈴は微笑む。


「嬉しそうだね、夕鈴」

どうやら心の声が漏れていたようだ…夕鈴は慌てて口元を押さえる。そんな夕鈴の様子に、陛下は嬉しそうに苦笑すると、いつもどおり長い髪に手を伸ばした。


「今日の一番も君が決めるといい」

陛下は艶っぽく微笑むと、笑みを浮かべた唇に夕鈴の髪を当てた。


「は、はい…」

すでに真っ赤に染め上がった顔を必死で隠しながら夕鈴は頷いた。


「まったく…相変わらず君は初々しくて愛らしいな。どんな素晴らしい武術を披露されても、私の目を楽しませる最上のものは夕鈴、君だけだ」

甘いセリフを連呼し、陛下があっちこっちに触れようと手を伸ばして来たので、夕鈴は慌ててそれを制した。


「あっほら、陛下。もう始まりますよ」

もーこんな大勢の人の前で何をやらかそうというの!心の中で激しく憤慨しながらも、表情だけは上品に、ほほほ…と優美なお妃笑顔を浮かべる夕鈴。そんな様子がツボに入ったのか…肩を小刻みに震わせながら必死で笑いを抑える子犬が一匹。


「……」

なんて悔しいの…思わずその憎らしい顔をぎゅっとつねってやりたい衝動に耐えつつ、夕鈴は張り詰めた笑顔を周囲の臣下たちに振りまいた。



「今日の一番はどなたでしょうか…」

「昨日の青年に勝る腕前を持つ者はそう現れんでしょうな…」

しばらく臣下たちの談笑の声が周囲に流れていたが、競技が始まると皆一斉に口を閉ざしその競技に見入っていた、もちろん夕鈴も例外ではない。








「右の者が一本取るね…」

陛下がそっと呟いて後すぐに、陛下の言ったとおりに向かって右の者が剣を相手の首筋に当てた。まいったとばかりに相手が手を挙げる。


「すごい…どうして分かるんですか??」

「う~ん、どうしてだろうね」

陛下はにっこりと笑うと、おもむろ立ち上がり、玉座を降る階段の淵に足を掛けた。


「どちらへ…」

急に背中を向けて立ち去る陛下に、夕鈴は首をかしげた。


「少し席を外すよ。すぐに戻って来るから、夕鈴は引き続き観戦しててね」

そっと小さな声で呟くと、陛下はすっと踵を返して玉座から立ち去ってしまった。後にぽつんとひとり残された夕鈴は、所在なげに、着物の袂を握りしめる。


陛下のための競技なのに…私だけ観戦してていいのかしら。競技を中断させずに立ち去ったところを見ると、よほどの急用であったのか…夕鈴はぎこちなく後方に控える側近を見やると、何事もなく競技を観戦していた。


「あの…陛下はどちらへ行かれたのでしょう?」

夕鈴は尋ねる。李順は一瞬だけ眉根を釣り上げたかと思うと、あごで前方を指した。大人しく競技を観戦しろ!とばかりの仕草に、夕鈴は肩を落とす。
仕方なく陛下の立ち去った方角に目をやると、古参の大臣と目が合ってドキッとした。へらへらと愛想笑いを浮かべ、夕鈴は元通り競技台へと視線を向ける。


「きょろきょろしない!陛下御不在では、一番にあなたの姿が注目を浴びるのですよ、お忘れなく」

「はい…」

こそっと耳打ちされて、夕鈴は肩をすくめた。
臣下対象の競技といえど観戦者は多岐に渡っていた。玉座を取り囲むのは重役の大臣たちばかり。さらには競技者の中には名家出身の軍官が多く、その親族が一同に会していたため、中庭はやんごとなき身分の人々で溢れていた。大半は純粋に競技を見に来た者であったが、噂に名高い狼陛下と、その寵妃の姿を見ようと押しかけている者も中には居るようだった。

陛下が不在の今、大勢の視線を一身に背負う夕鈴。
大勢の人々に見られるのは多少慣れてはきたが、それでも好奇の目にさらされているのはとてもいたたまれない。

早く…陛下、帰って来て。
夕鈴は心の中で祈りながら、競技台をやんわり眺める。

すると突然、ざわざわと場が騒々しくなった。


「?」

一体何か…大臣たちが身を乗り出す様子に目を見開く夕鈴。競技台には喧噪に囲まれて、全身黒ずくめの男が仁王立ちしていた。眩しい日の下で、黒光りする装束。光と闇のコントラストに、夕鈴の視界が一瞬眩んだ。
男は黒装束に身を包み、顔には唐の仮面をつけている。男が放つ異様な空気に、またざわざわと周囲が騒がしくなった。


「どこの家の者か…」

「唐の仮面とは…なんとも不気味」

大臣の呟きに、夕鈴も無言で頷く。確かに不気味…武人としての立ち居振る舞いは完璧だが、どうしても黒装束と仮面が邪魔して素直に応援できない。
夕鈴は控えめに手を打っていたが、男の武勇ぶりに、大人しく観戦し続けることが難しくなる。


「また勝ちましたぞ!!」

「仮面の男が一本取りました」

ばったばったと相手をなぎ倒す仮面の男。男が剣を振り払うと同時に、黒の着物がはらりと空中に舞った。長身に細身の体格。それでいて剛腕なのはどうしてだろうか…。夕鈴は仮面男を凝視する。

ふいに感じる違和感に、夕鈴は眉根を寄せた。
さぁ…と風が吹く。突然吹き付ける突風に、夕鈴は目を細めた。


「……」

「お妃さま」

「……え?」

しまった、ぼうっとしていた。夕鈴は慌てて振り返る。


「宋大臣…」

夕鈴を呼びかけた相手は、宋大臣であった。宮中に数ある大臣の中でも、夕鈴が最も信頼を置く大臣であった。欲と嫉妬渦巻くこの宮中において、唯一人畜無害な大臣。どこか祖父のような雰囲気を醸す大臣に、夕鈴は飾らない笑顔を見せた。


「仮面の男に見とれていらっしゃいましたか…」

「…え…いいえ…」

「それとも、もうとっくにお気づきか…」

「え?」

何のこと…?夕鈴の質問には答えずに、宋大臣はにっこり笑った。


「最後の相手を負かしたようですな。あの仮面男が優勝です」

大臣の言葉に、夕鈴ははっと競技台を見る。ついさっき、仮面の男が相手から一本取ったところであった。
あっという間に優勝を勝ち取ったのは、唐の仮面をかぶる不気味な男。予想しない展開に、夕鈴はほっと息を吐いた。


「仮面をかぶっていて、よく相手の動きが読めますね」

「それは…あの方が特別だからでしょう」

「特別?それは一体…」

どういう意味……?

ふいに、悲鳴に似た叫び声が響いた。


「!?何?」

中庭の中央が騒然としていた。だがその騒然は一瞬にして収まった。


「……」

競技台を取り囲む観戦者が一斉にかしずく。静寂を切るようにして、黒装束が風に舞った。左手には仮面が握られていた。男は大げさに袂を翻すと、仮面を空に放り投げた。唐の不気味な仮面が空を舞い、地面にぱたりと落ちる。
どこか見覚えのある後ろ姿に、夕鈴の背筋が震えた。口元に冷たい笑みを浮かべて、ゆっくりと男が振り返る。

まさか。
心の中、小さく叫び声を上げる。


「陛下…」

「陛下ですね」

仮面の男が陛下!?
夕鈴は口を開けて、不敵に笑う仮面男、もとい陛下を眺めた。


「陛下……だったの…」

胸を押さえながら、夕鈴は驚きの声を上げる。


「余興にしては少々度が過ぎていますね。お妃さまからご注意ください」

宋大臣はやれやれと困ったように笑うと、一歩下がって頭を下げた。宋大臣につられるようにして、周囲を囲む大臣たちも、陛下が通る道を空けるようにして一斉に平伏した。

夕鈴は立ち上がる。先刻と変わらず驚きを隠すことなく、あんぐり口を開けて陛下を見つめていた。
ふいに姿を消したかと思ったら、全身黒ずくめに身を包み仮面をつけ、なぜか競技者として現れる陛下。夕鈴は茫然と、陛下の冷笑を眺める。


「妃よ…」

「へいか…」

意味分かんない。なぜ陛下が競技台で戦っていたのか…。


「君があまりに褒めるから、私も参加したくなった」

さらりと答える陛下。夕鈴は思わず言葉を失った。
そんな(夕鈴にとってはどうでもいい)理由で臣下を次々と打ち負かし、どこか得意顔で目の前に立つ陛下。夕鈴は唖然とする一方で、小さく込みあがる笑いに必死で耐えていた。



「最も優れた剣手は?」

陛下が問う。

それは、もちろん…。
夕鈴はクスリと笑うと、陛下の前に降り立った。


「褒美をとらす」

夕鈴は笑顔を浮かべると、みんなには聞こえないようにそっと呟いた。


「ありがたき幸せ」

いたずらっぽい笑顔を浮かべて、陛下も笑う。片膝を地面につけると、微笑む夕鈴の手を取って口づけた。


「……なっ、何するんです」

慌てて引っ込めようとする手を固く握り締め、夕鈴の体を引き寄せた。バランスを崩す体を支えながら、陛下が耳元で囁く。



「褒美は君の極上の笑顔で」














後日。

「陛下、どうして黒装束と仮面だったんですか?」

「あぁ…一回ああいう格好してみたかったんだよね。ずっと前から仮面かぶってみたかったんだ」

なぜ…夕鈴は心の中で疑問の声を上げながらも、なるほどと頷く。


「でも、臣下対象なのに陛下が出ちゃダメですよ」

しかも、一番も褒美も陛下が持ってっちゃうし…陛下は知らないが、あの後臣下たちの不満の声を抑えるのに、あの神経質な側近が骨を折ったことは言うまでもない。あの日以来、ぐちぐちと夕鈴に嫌味を言う李順に対し、対抗できずにいた。

「いいじゃない。観衆たちも楽しんでたみたいだし」

「いや、楽しんでたかもしれないですが。そんなことより、陛下が競技に出たのは私がそそのかしたから…とか李順さんに思われてるんですよ。次からは絶対に出ないでくださいね」

夕鈴は一斉に言い放つと、深く息を吐いた。陛下のしでかしたことの後始末が、妃にかかることだけは避けたい。


「実際、君がそそのかしたんだよ」

陛下はすっと立ち上がると、その長身で夕鈴の視界を遮った。突如現れた不穏な空気に、夕鈴は肩をすくめる。

「私…そそのかしてなんて」

「ふうん、君は自分がどれだけ無自覚か、知らないらしい」

「無自覚?何ですか、それ…」

問い詰めようかと思ったが、すぐに口を閉ざした。なんか嫌な予感がする…夕鈴は冷や汗をぬぐった。そんな夕鈴の様子に、陛下はクスリと笑うと、夕鈴の頬に手を添えた。


「君は僕の妃なのに、他の者に見とれるのはダメだよ」

「……」

「夕鈴?」

「……はい」

有無を言わさない態度に、夕鈴は仕方なく頷いた。



結局私のせい…なの?
その後も、ねちねちと言われ続ける側近の嫌味に耐える夕鈴であった。













二次小説54弾完了です
長くお待たせして申し訳ありません。当初の予定よりだいぶ遅れましたことも、お詫びいたします。

今回は、欲と嫉妬渦巻く王宮で、誰よりも嫉妬深い陛下(夕鈴限定)を書いてみました!(笑)陛下のわがままに振り回される夕鈴かわいそうですね~ですが、陛下の嫉妬深さにメロメロです☆独占欲の強い王様大好きです!
原作より随分と大人げなく子どもっぽい陛下でしたが、いかがでしたか??夕鈴から一番と褒美をもらって、さぞ満足でしょう。
最近雑誌がとてもいい感じで、ミケも妄想も高まります。やっとパソコンが修理から戻って来たのでがんばって更新したいと思います♪

最後までお付き合いありがとうございました~



19:28  |  イベント編(王宮)  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

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