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2011.08.08 (Mon)

王の花 Ⅰ

「王の花」

陛下目線の長編です。
最後はなかなか上手くまとめきれませんでしたが、お許しください。
今回はたっぷりあま~いですよ 笑

ではどうぞ。













遠くで、雁の鳴く声が聞こえたような気がした。




「最後に押印をお願いいたします」

「……」

「陛下?」

しばらく鳴き声に集中していた僕であったが、李順の苛立った声に仕方なく視線を戻す。

ここは狼陛下の政務室。
午後の政務もひと段落つき、重要な案件の審議を終えた部屋には、王である僕と側近の李順しか居なかった。堅苦しい謁見もこの日ばかりは無くて、早くに終わった政務にやれやれと羽を伸ばしていた僕であったが、ほんの短い休憩にも鬼のように仕事を詰め込んでくる李順のおかげで、綺麗に片づけたはずの卓には書巻が散乱していた。


「陛下、次に…」

「まて、李順。今日はここまでにしよう」

めがねの淵に手をかけて、不満気に李順が見つめ返して来た。いつもならばここで嫌味のひとつでも飛んできてもおかしくなかったが…最近目に見えて激務の僕の体を気遣ってか、素直に僕の言葉に従っていた。


「では…続きは明日にいたします」

「あぁ…」

僕はほっと息を吐くと、まだ遠くて泣いている雁の鳴き声に耳を澄ました。雁は群れで飛んでいるのであろうか…幾重にも重なって響く歌声のような鳴き声に、僕の気分は晴れていくようだった。


「陛下。すっかり忘れておりました。もう一件だけ、ご報告よろしいでしょうか?」

「……」

二回目の邪魔をする李順を、大人げないと知りつつも狼の表情でひと睨みする。側近は全く動じることなく、しかも僕の許可なく話を続けた。


「宋大臣の孫?」

「はい。このたび婚姻が決まったそうにございます」

宋の孫といえば…あの奇想天外な天然娘ではなかったか。昔、初対面したときの記憶が蘇り、僕は一笑した。逢ってそうそう挨拶もせず、王の部屋の調度品ばかり眺めていた娘。誰と居ても我が道を突き進むところが、ちょっと夕鈴と似ていて面白かった。

あの娘が結婚とはね…孫を溺愛する宋大臣の姿を脳裏に描きながら、僕は笑った。











その頃、話題の宋大臣の孫娘、宋香祥は、祖父の大臣と共に妃の部屋に居た。


「このたびは、おめでとうございます」

「ありがとうございます、お妃さま」

香祥の後に続いて、宋大臣も軽く会釈した。


「お相手は軍師さまの血縁の方とか…良き縁組、誉れ高いですわね」

「ありがとう存じます。孫も今年十七、やっと嫁に行ってくれてほっとしております」

髭をゆっくりとさすりながら、目元にしわを刻み大臣が呟いた。そんな大臣の言葉にむっとしながら、香祥が反論する。

「やっとではありません。私、ずっとお相手を見極めておりましただけです」

「あの方のあそこが嫌とか、気に入らないとか、縁談させるたび文句ばかり言っておりまして…本当に決まって良かったです」

「ですから!お相手を見極めておりましたのよ。大体、十七で結婚などと、遅くなんてありませんわ。だってお妃さまも、確か十七で後宮に上がられたのよ、ねぇ、お妃さま」

ふたりのやりとりを微笑ましく眺めていた夕鈴であったが、突如振られた質問にとてもたじろいだ。質問が質問だったために尚更だ。


「えぇ…そうですわね」

小さく呟いて、夕鈴は曖昧に微笑んだ。


「これ、失礼なことを申すでない」

「大丈夫ですよ。事実ですもの…」

怒り気味の大臣を宥めつつ、夕鈴は上品な妃笑顔を浮かべた。


「お妃さま。婚礼のときのお話、詳しくお聞かせいただけませんか?」

「え?婚礼の…お話ですか」

瞳を大きく輝かせながら迫りくる香祥に、さらにたじろぐ夕鈴。
婚礼の話って何!?知らないわよ!お茶に手を伸ばしとりあえず落ち着きながら、夕鈴は大臣にちらりと視線を送った。宋大臣はというと、孫と同じく興味津々の様子で、夕鈴を見つめていた。

困るわ。


「婚礼の前日はどうでした?やはり不安に思ったりするものなんでしょうか…?」

少し憂い顔で尋ねる香祥。孫の心情にいち早く気づいた大臣が労りの言葉を投げる。


「不安に思うことなど何ひとつない。お前は、嫁ぐ先の家が良き幸せを築けるよう、心を尽くすのみだ」

「おじいさまに聞いておりませんわ。私、お妃さまへお尋ねしたの」

「お妃さまも、珀家のため身命を賭して仕える所存で嫁がれたに違いあるまい」

珀家のため?身命を賭すって…どういう意味かしら?
難しい単語の連続に、夕鈴は首をひねった。


「お妃さまと私ではあまりに立場が違います」

「嫁ぐという点では同じこと。お妃さまも大きな意味があって、妃として王のそばにおられるのじゃ。お前も、大いなる意味を持って嫁ぐこと、ゆめゆめ忘れるでない」

大いなる意味って…何かしら。確かに臨時花嫁には大きな役割がある。妃を演じることに大きな意味があるから、今私はここに居るのだけれど…。


「そうなのですか…?お妃さま」

気づくと、ふたりの視線が真っ直ぐ注がれていて、夕鈴は驚く。気の抜けた表情を慌てて戻し、そうですわ…と答えた。


「もちろん、珀家のため、王のため、嫁いできたのです。大臣さまのおっしゃるとおりですわ」

堂々と答える夕鈴の言葉を信じたのか、香祥は憂い顔を解くと、夕鈴へ笑いかけた。

香祥の眩しい笑顔に、夕鈴はチクチクと痛む胸をそっと押さえた。
人を騙すのも嘘つくのも、とても苦手だしとても嫌。でも…。

痛んでなんていられない。臨時花嫁をやり遂げるって決めたんだから。いつも独りで居て、何もかも背負った孤独なあの人のそばに居るって決めたんだから。

夕鈴は改めて臨時花嫁の仕事に気合を入れた。


「お妃さま。もうひとつ、質問よろしいでしょうか?」

「なんでしょう?」

「その…婚礼の儀式のことなのですが…」

婚礼の儀式って…結婚式のこと!?わ、分かんないわ…。気合いとは裏腹に、込み入ってきた話に、眉をしかめる夕鈴。


「やはり緊張なされました?」

「え…えっと……」

「婚礼の衣装はどんなものをお召しになったんですか?」

「そ、それは…えっと」

どうしよう。経験がないから、こればかりは答えられない。
口どもる夕鈴の耳に、急に大臣の上擦った声が届いた。

「お妃さま!これはなんと失礼を…孫は何も知りませんで、どうぞお許しください」

「はぁ…」

「香祥、無礼を詫びよ。お妃さまと陛下は婚礼の儀を執り行われておられぬ」

「!?そうだったのですか。申し訳ありません…」

「気にしておりませんわ」

「いいえ!どうぞお詫びをさせてくださいませ。私、恥ずかしくてこのままでは顔向け出来ません」

「そんな…そんなに気にしないで。私たちは婚礼の儀で結ばれなくても、心は通い合っております」

完璧…我ながら優秀な受け答えに、自ら感心する夕鈴。
そんな夕鈴の言葉に感動した祖父と孫娘両人が、口を揃えて言ったこの後の発言に、大きな衝撃を受けるとは思いもしなかった。















翌朝、大臣から届けられたお詫びの品を見た夕鈴は、卒倒した。


「まさか…本気だったなんて」

夕鈴にとっては、運悪くそのときそばに居た僕。届けられた品々を見て、僕は怪訝な表情を浮かべた。


「これって…婚礼の品々??届ける先、間違えてるんじゃないのかなぁ…」

などと呑気に呟きながら、一際豪華な花嫁衣装をまじまじ眺めた。


「届けるなら、孫娘の邸宅だよね。もうすぐ結婚するらしいし…って夕鈴、どうしたの?」

見れば、夕鈴の顔は真っ赤である。お酒を飲んだかのように見事朱色に染まった顔を見て、僕はくすりと笑った。


「そんな赤い顔して…どうしたの?」

可愛い兎嫁の表情に破顔しつつ、頬へと手を伸ばす。その手が夕鈴の肌に到達する手前で、怒涛の怒鳴り声が室内を覆い、僕の手は止まった。



「陛下!!!!!!!一体これは…これはどういうことですか!!!!?」

地鳴りにも似た大声が、室内を反響していた。

わなわなと怒り震える側近の登場に言葉を失う僕たち。
李順の顔は蒼白で、額には怒りの青筋が立っていた。固く拳を握りしめ、つかつかと近寄る姿に、僕は不穏な雰囲気を感じた。


「ちょっとどうしたのさ?なんでそんなに怒って…」

怯えて声が出ないのか…ふと、ずっと黙ったままの夕鈴を見ると、さっきまで赤かった顔が今度は青ざめていた。


「ちょっと…何?」

ふたりの顔を交互に見比べる。
夕鈴の顔は青ざめ、対する李順の顔は形容しがたいほどに怒り狂っていた。

またしても知らぬ間に巻き込まれていた厄介ごとの出現を予想した僕は、深く深くため息をついた。














「なるほどね…」

僕はため息と共に、まだ沸点の収まらない側近をなだめた。


「申し訳ありません。まさか…こんなことになるなんて」

「夕鈴、君が悪いんじゃないよ。李順、お前も夕鈴ばかり責めるな。今度のことの責任は彼女にはないだろう」

「そばに居て止めなかった責任があります」

「こんなことになろうとは予想出来なかったんだろう。ね、夕鈴」

「はい、分からなかったです。ごめんなさい…」

「大丈夫だよ」

今度は、小さく謝る彼女をなだめた。一方的に攻め立てる李順から夕鈴をかばうため、両者の間に立つ僕は、この事態を収束する手立てがないかと、ずっと頭をひねっていた。


「宋大臣も勝手なことを…」

舌打ちしながら、李順がぐちぐち文句を言う。


「あの人なりに気遣ったんだろう。それに…それほど目くじらを立てて怒ることもあるまい。たかが婚礼の儀式だ」

「たかがではありませんよ。古来より、婚礼の儀といえば時間もお金もかかるものです。それに…仮の夫婦が儀式を上げるのは少し問題が…」

「あるのか?」

「ないとおっしゃるのですか?」

「あぁ。問題なかろう」

問題なしだ。夕鈴を手放す気はさらさらないし、そうなると遅いか早いかだけだ。


「問題おおありですよ!やはりここは…お気持ちだけ受け取るという形を取りましょう。宋家には、王よりの手紙でお断りの返事をしましょう」

「そ、そうですね…」

黙したまま僕たちの会話を聞いていた夕鈴が、李順の提案にほっと安堵の息を漏らした。
その姿にチクリと小さな胸の痛みを感じた僕は、苛立ちを隠すことなく側近を見やった。


「勝手に決めるな。せっかくの申し出、断ったとあれば宋家の面子がつぶれてしまう。好意さえ受け入れられぬと風評を受けても良いと申すか?」

「それは…」

「しかも宋家だけではなく、孫の嫁ぎ先である軍師の家とも結託して話を進めているとかいないとか…」

「そうなんですよ!まったく、なんて勝手なこと…」

ぐちぐちぐち…さらに文句が始まった。


「文句を言っても始まらない…」

じとりと纏わりつくような側近の視線を無視し、僕は勅令を下す。


「婚礼の儀を執り行う」







Ⅱへとつづく。




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