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2011.08.08 (Mon)

王の花 Ⅱ

Ⅰのつづきです。











「杯を前に…」

言われるがまま手に在った杯を差し出す。
白濁が並々注がれ、杯が満たされると、祭祀は次に妃へも勧めた。

夕鈴は案の定というか、予想通りの態度を見せた。
珍しい朱色の陶器に吸い込まれるように白い液体が注がれる様子を、食い入るように眺めている。
華奢な作りの陶器を誤って落としたりしないように、強張った指先を慎重に運んでいた。


なんて可愛い仕草だろう。

稀有な景色に瞳を輝かせ、興奮気味なのか頬はほんのり高揚していた。
最初は婚礼の儀に困惑するばかりであったのに…くるくる変わる愛らしい表情に目を奪われる僕。思わず抱き寄せて腕の中に捕らえてしまいたいぐらい、可愛らしくて堪らない。

普段着慣れていないくせに、驚くほどに似合っている華美な衣装が、夕鈴の魅力を引き立てていたから尚更だった。

こんな形ばかりの儀式などすっ飛ばして、彼女の手を取り駆け出すことが出来たら…不謹慎な行為ばかり望んでしまう。

しばらく思いに耽っていた僕であったが、祭祀のしつこい呼び声にはっと意識を取り戻した。

しまった、婚礼の儀式中であった。

僕は慌てて祭祀に向き直る。
儀式は中盤に差し掛かっていた。少し訝しそうに顔を曇らせながら、祭祀が僕へ言葉を掛けた。


「これにて、夫婦固めの盃がかわされました」

僕は無言で頷くと、傍らの妃へ笑顔を向けた。
いつもならば、祭祀が絡むようなめんどくさい儀式など億劫なことこの上なかったが、今日は特別だ。

こんなに愛らしい夕鈴をずっと見続けることが出来るなんて…込みあがる嬉しさに喜ぶ反面、偽りの儀式である事実が心に暗い影を落とす。

今は、可愛らしい彼女がそばに居る事実に満足するしかないじゃないか…自らの心に言い聞かせるかのように、僕は夕鈴の白い手をぎゅっと握り締めた。


「夕鈴…大丈夫?」

祭祀が離れた隙を狙って尋ねると、夕鈴が緊張の面差しをこちらへ向けて来た。


「慣れないことばかりで…」

か細い言葉に、僕は小さく眉をひそめた。

華やかな衣装を身に纏い、傍らにはパートナーが立ち婚礼という名の儀式にのぞむなんて、一生に一度しかない。慣れるなんてまず有り得ないだろう。
彼女の口をついて自然に流れた「慣れる」という言葉は、夕鈴がこれを演技だとわきまえているからであろう。
この儀式はあくまで演技なのだと…。

寂しさを感じるのは初めてではない。だけど小さく空いた心の穴を埋めたいと思ってしまうのは、彼女が醸す無限の暖かさを知ってしまったゆえか…。


陛下…?

一瞬だけ浮かべた怪訝な表情に気づいた夕鈴が、恐る恐る僕を見上げた。

しまったと内心で焦る割には、なかなか笑顔が作れない僕。

結局無表情のまま、儀式が進行していった。

戸惑う彼女をフォローすることさえ出来ない自らに嫌悪を覚える一方で、何も知らない無垢な瞳がとてつもなく腹立たしくて意地悪したくなる。

優しくしたいのに…同時に苛々が募る。
定まらない自らの気持ちに振り回され、まだ望み通り、思い通りの展開が得られない。

思いとは裏腹に進んでいく婚礼の儀式。
本当はこんな気持ちではなく、通じ合った心でこの日を迎えたかった。

大好きな人と結ばれる今日の日。傍らに居るのはもちろん夕鈴、君しか居ない。

考えても仕方ないことばかり浮かぶ心に、だんだん僕の気持ちは落ち込んでいくようだった。
















「それでは、失礼いたします」

一斉に拝礼した侍女が、僕の合図と共に下がっていった。
やっと狼陛下の花嫁から解放された安堵感からか、夕鈴はほっと息を吐くと、遠巻きに侍女たちの後ろ姿を見送っていた。



「陛下。おつかれさまでした」

お茶を差し出しながら、夕鈴が微笑みを浮かべた。
卓に頬杖をついてくつろいでいた僕は、差し出されたお茶と、無事任務を遂行出来て気の抜けきった表情の夕鈴を見比べて頷く。

目の前に腰かけた夕鈴は、達成感と憔悴の入り混じったようなため息を何度もついていた。


「疲れた?」

「少し…無事終わって良かったですね」

花が綻ぶような笑顔で答える夕鈴。いつもならその笑顔に癒され、くしゃりと破顔するところであったが…。見返す僕の心情は複雑極まりないものだった。

儀式中、何度君を連れ去ってしまいたいと望んだことか。
心を抑え、欲望をセーブし続けた僕に、その笑顔は残酷すぎる。何も知らずに呑気にお茶を飲む夕鈴の姿に、抑えていた苛立ちがふつふつと沸いてくるような気がした。


「そんなに僕の花嫁になるのは疲れたのか?」

「……いいえ。そういうわけではありませんが…」

「ではどういうわけだ?」

「……陛下?」

明らかに豹変した僕の態度に戸惑う夕鈴。


「どうかされました?」

「どうもしない…」

僕はぶっきらぼうに一言答えると、ぐいと湯呑みのお茶を飲みほした。そのまま乱暴に茶卓に置くと、立ち上がる。


「お帰りに…なられますか?」

「今夜はここで泊まる」

「え?」

ここで…?夕鈴が大きく目を開いて、質問した。予想しない僕の行動に、動揺の色を隠せないでいるようだった。


「何がおかしい?今夜は私たち夫婦が婚姻後、初めて共にする夜だ。初夜だよ…」

「な!?しょしょしょ……初夜って………!」

顔を真っ赤に染め上げて口ごもる夕鈴。そんな彼女の頬に手を伸ばすと、離れていても分かるほどにビクリと体が跳ねた。


「なななな…何言っちゃってるんですか…?」

冗談はやめてくださいよー…張り詰めた笑顔を浮かべて、夕鈴が乾いた笑い声を上げる。

ごめん…いつもなら舌を出して無邪気に子犬陛下が謝るところであったが…。怯えた夕鈴の視線を真正面から受け止め、僕は彼女と間合いをつめた。


「冗談など言ってない。今日私たちは正式な夫婦の儀式を終えたではないか」

「……っつ」

反論しようと口を開けかけた夕鈴だったが、すぐに閉ざしてしまった。狼陛下の冷たい視線に萎縮してしまったのだろう。

さきほどから、僕はわざと狼陛下を見せていた。
彼女の怖がる狼陛下、彼女の嫌いな狼陛下。
演技だと信じている…本来の姿ではないと思っている狼陛下のまま、僕はどんどん夕鈴との距離を詰めていく。

一歩一歩と無意識に後ずさりする夕鈴。すぐに壁際まで追い詰められたため、今度は横からすり抜けようと体を動かす。僕はすかさず手をつくと、彼女の退路を完全に閉ざしてしまった。

視線が交わった刹那、腕の中で震える夕鈴をそっと抱き締める。

激しく刻む心音が体温と共に僕の肌を伝わった。


「いっ意地悪はやめて…ください!!!」

小さく訴える声が耳に心地良い。いつまでも君の奏でる愛らしい声を聞いていられたなら…僕は目を閉じると、より一層強く夕鈴を抱き締めた。


「陛下。は…離して…ください!」

震える声。
なんとか腕を解こうと小さな体を捻る夕鈴。


「離したく…ない」

離さない、今までもこれからも。ずっと君は僕の花嫁。
僕は短く呟くと、華奢な背中に腕を回して、ゆっくりと撫でた。

突然与えられた刺激に戸惑う彼女。
耳元で囁かれる抵抗の声が、甘さを伴って僕の心へ届く。
甘くて…甘くて…夕鈴の小さな声が上がるたび、僕の劣情は駆り立てられてゆくばかりだった。

確かな熱を持って、僕の心に在り続ける夕鈴への気持ち。
彼女と過ごす時間を重ねるたび増長する思いを、いつまでも押さえきれるわけもなく……。


分かっていたことだ。

太陽のように眩しい彼女。

ただ傍らで愛で続けることに、満足出来ていた。

意識的に線引きしていた気持ちを揺り戻すことに、抵抗を感じていたのは本当のこと。
僕自身、それを望んでいなかったんだ。だが…。

華美な婚礼の衣装で着飾った夕鈴の姿。
柔らかな笑顔が僕に向けられるたび、何度も何度も縫い合わせた糸が綻んでいく音が聞こえた。

演技だと知っている。
演技だと分かっている。

いつまでも手に出来ないもどかしさに…
願っても叶う見込みのない自らの思いに…

我慢出来ていたのに。



三度目の抗議の声を聞くと同時に、僕は夕鈴を抱き上げていた。

おそらく目を丸くして驚く夕鈴を気にすることなく、寝室へと足早に向かった。
薄暗い室内を慣れた様子で横切り、ほの明るい月明かりに照らされた寝台へ夕鈴をそっと横たえた。

慌てて逃げ出そうとする夕鈴を両手で制し、覆い被さるように彼女を組み敷く。
寝台の軋む音に混じって彼女の小さな叫び声が耳に鮮明に届いたが、僕の体が止まることはなかった。

混乱の混じった大きな瞳が僕を捕らえていた。


夕鈴…。

君のせいだ。
今回ばかりは君が悪い。

僕の心狂わせ、かき乱す悪い君。
もう、いつまでも初々しい兎のふりは、続けさせられない…。


僕は夕鈴の白い胸に顔を埋めた。





逃がさない。
逃がしたくない。
この腕の中固く閉じ込めて、手にしたいのは君だけだ。


「へ、へへ陛下!重いです!どいてください」

華奢な胸元に埋めた顔を無理やり引っぺがそうとされたが、夕鈴の手を掴んで抵抗を止める。


「やだ」

「な…なんで。一体…何を……」

手だけでなく全身を使っての抵抗は激しさを増す一方であったが、僕はその抵抗をもろともせず、夕鈴の不安気に揺れる瞳を真っ直ぐ見下ろした。
月夜が魅せる陰影が、彼女の白磁の肌をさらに白く染め上げていた。妖艶な兎の登場に、体の底から何か熱いものが這い上がってくるようで、身がぞくりと震えた。


「君に刻みたい、僕の気持ち…」

「……っつ」

さすがの夕鈴も僕の言葉を理解したらしい。焦点の定まらない視線が僕を見ては目を反らす、を繰り返していた。


「陛下。落ち着いて…ください」

「一瞬で済む」

そう一瞬で…その先に待っているのはきっと、幸せな未来であることを願っている。

僕は夕鈴の着物の合わせ目から手を差し入れると、大きく開けた。
きゃーきゃー叫びながら元に戻そうとする夕鈴を力づくで制して、鎖骨に唇を添わせる。甘露な香りに眩暈を起こしそうになったが、意識だけは失わないように、甘い肌をなぞった。

夕鈴はなおも諦めずに抵抗を繰り返していたが、僕はおかまいなしだった。後でうんと怒られてでも嫌われてでも、それでも刻みたい、僕のこの思い。

目的の場所に辿りつくと、柔らかな肌を甘噛みした。












「終わったよ…」

深くため息を吐くと、ぐったりと脱力した夕鈴からゆっくり体を起こした。


「……終わっ…た……?」

「うん」

僕は夕鈴の胸元に視線を落とした。
どこまでも白い肌に一点、鮮やかに咲く大輪の花。

月明かりの下、突如出現した赤い花を見て、夕鈴が絶望に似た声を出した。


「しん…じられません」

「うん」

口元に笑みを浮かべ、夕鈴の呟きを一笑する。怒るかな…と思ったが、予想に反して夕鈴は怒らなかった。
否、呆れて声を出せなかっただけかもしれない。

にこにこと満足そうに花を見下ろす僕をじっとりと睨むと、夕鈴は両手で顔を覆ってうつ伏してしまった。

今夜は何を言っても、きっと顔を見せてはくれないだろう…。
僕はうつ伏して狸寝入りをする夕鈴の隣に、ごろんと横になった。横になったら、全身からどっと疲れが滲み出る。夕鈴の長く細い髪を指に絡ませしばらく遊ぼうかと思っていたが、結局一瞬のうちに、眠りの世界へと落ちてしまった。















「おはようございます、陛下」

「!?」

驚いた、口を聞くどころか、目も合わせてくれないと思ってたのに…。居間で僕を出迎えた夕鈴を、不思議なものを見るような眼差しで眺めながら、僕は席についた。
暖かいお茶が運ばれると、いつものように口をつけた。

夕鈴は無言で真正面に座ると、これもまた無言でお茶を飲みだした。


「……えっ…と。夕鈴?」

何から言おうか…。「昨日はお疲れ様」なんて言ったら、また家出されそうだ。


「昨日の…ことなんだけど」

やはり先に謝るべきか?すっきり全て謝ってしまってから、また信頼を取り戻すことにしよう。

ぴしゃりと…僕たちを包む空気が割れたような気がした。否、実際割れていた、夕鈴の握り締めた湯呑が真っ二つに。

かなり怒ってる…当たり前か。


「ごめんね!夕鈴、僕、昨日は君にひどいことを…。その…あれはなんていうか、気分が盛り上がりすぎて、つい君にあんなこと。本当に深く反省してる。ごめんなさい」

両手を合わせて、僕は深く頭を下げた。


「……大丈夫です。私決めましたから」

恐ろしいほど低い声に、この僕の背筋が、不覚にも震えた。


「な…何を?」

「どんなときでも動揺せず、冷静に対処できる鋼の精神を持ったプロの臨時花嫁」

「プロの臨時花嫁…」

「そうです!だから、セクハラ大魔王からひどいセクハラを受けても、私はうろたえません!!!」

「………セクハラ大魔王って誰?」

もしかして…僕のことか。なんて嫌なネーミング。
夕鈴は案の定、もちろん陛下のことです!と、声高く訴えた。


「前にも言ったけど、そんなものにならなくていいってば…」

「な!?なんてことを…。あんなひどいことしておいて…なんでそんなケロッとしてるんですか!?」

「だからごめん。もうしないよ…」

僕は努めてしゅんと謝る。許してもらうためとことん謝る。昨夜の行為の後、頭の中で導き出した答えだ。


「信じられません。跡がずっと消えないんですよ!!どう責任を…」

責任ならいくらでも取る。君を正式な妃に、本物の妻に迎える準備はとうに出来ている。君の方になかなかその気が芽生えないのが問題なんだ。

僕はそっと手を伸ばし、長い髪をひと房取った。昨夜の余韻が、まだ僕の中でくすぶっているようだ。甘い髪を薄い唇に当てると、夕鈴の柔らかな肌へ口づけした後のような感覚が蘇って来た。


「跡…消えてないんだ?」

良かった、ずっと消えないように…願いを込めて口づけた。


「確か…鎖骨の少し下。心臓の上だったような…。ねぇ、夕鈴。もう一度見せてよ」

「!?」

しまった…と思ったときには遅かった。
夕鈴はまるで脱兎のごとく風のようにすり抜けると、勢いよく開け放たれた扉から、外へと飛び出した。


「え?夕鈴!!」

ちょっと、どこ行くんだ。君の部屋なのに、君が居なくなるって…。僕は慌てて立ち上がると、妃の後ろ姿を追って、扉へと走る。


「夕鈴!!!」

「追って来ないで!陛下のバカーーーーーーー!!!!」

大声が回廊にこだました。
僕は込みあがってくる笑いを抑え切れず、回廊の端でお腹を抱えてうずくまる。

追うなと言われて、追わない男がどこに居る。
しかもこんな可愛い獲物、追わずには居られない。


僕は深呼吸をして呼吸を落ち着かせると、兎が逃げ去った回廊を真っ直ぐ捕える。


そっと吹き付けた風の香りが、夕鈴の行先を教えてくれているような気がした。










二次小説第57弾完
最近、何弾か忘れてしまいそうになります…それだけたくさん書かせていただきました!ありがとうございます。
宋大臣と宋香祥。前回「独り占め」という作品で登場させたふたり、再登場です。この祖父&孫が大好きなんですよね~。結婚式を挙げてない夕鈴へ、婚礼の儀式をプレゼントする話なんですが、今回はちょっと甘くしました!
陛下の溜まり溜まったうっぷんも、今回でだいぶ解消されたのではないかと思います☆
夕鈴の肌に刻んだ王の花、彼女の心にも消えない跡として残り続けることを切に願っております!夕鈴が陛下への気持ちに気付いた後のお話として書きましたので、大セクハラを受けても泣くほど怒っていません。でも、まだ花も恥じらう乙女なので、最後は逃げ出しちゃいました…(笑)
久しぶりの長編にテンションが上がっているミケです!最後まで、お付き合いありがとうございました



00:58  |  日常編  |  TB(0)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

甘甘なお話で、妄想が大爆発しそうでした!!
本編でもこんな感じになればいいのに…。
いつものことながら、本当に仕事の疲れが吹っ飛びます!
まだまだ、暑い日がつづきますけど、お体に気をつけてくださいね。
更新されるのを楽しみにしています。
あち |  2011.08.16(火) 22:58 | URL | 【編集】

●コメントありがとうございます!

こんにちは、あちさま。
毎日暑いですね~本当胸焼けしそうです。そんな暑さに勝る熱い小説を!と思い更新しました☆
本編でも甘々な展開を期待してますが、なかなかですね…う~む、欲求不満になりそうです(笑)
お仕事は若干落ち着いて来たのでしょうか??
またいつでも癒されに来てくださいね!そのためにも鋭意更新がんばります~♪またコメント楽しみにしてますね。
ミケ |  2011.08.17(水) 15:20 | URL | 【編集】

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