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2011.09.04 (Sun)

きみが一番

「きみが一番」

夕鈴目線で少し長めです。
ごちゃごちゃと会話が多いですが、気長に読んでください。

ではどうぞ。











後宮のある朝。
いつものように、前の晩から妃の部屋(もちろん長椅子)に寝泊りした陛下。ふたりで朝餉を取った後、夕鈴は侍女と一緒になって陛下の身仕度を整えていた。


「どうした?妃よ。先ほどから何をぶつぶつ言っている」

「え?」

上衣を纏いながら、陛下が尋ねてきた。しばらくぽかんと口を開けて陛下を見ていた夕鈴だったが、はっとする。

もしかして…口に出してた!?
心の声が漏れていたことに気付き、気恥ずかしくなる夕鈴。慌てて口元を押さえたが、後の祭りだった。
そんな様子にクスッと含み笑いで答えると、陛下が甘い微笑を浮かべる。


「味付けがどうとか…もしや朝餉か?」

ずばり当てられ、心臓がビクッと跳ねた。
いつもながらなんて鋭い…まるで射抜くように細められる瞳に観念した夕鈴は、素直に答える。


「はい。今朝の朝食がとても珍しいものばかりだったので…その、思い出しておりました」

言ってから赤面する。
いじきたない妃だと思われるだろうか…。

日々出される王宮の珍味。慣れ親しんだ庶民料理とは全く違う。出来ればレシピを覚えて帰って、父や弟に食べさせたいものだ。
そんな風に考えながら、今朝の朝食を食べていたのだ。


「故郷の料理とは少し違うので物珍しいか?」

優しい微笑みを絶やすことなく、陛下が尋ねる。夕鈴はほっと浅く息を吐くと、こくりと頷いた。


「はい。美食ばかりで…珍しい食材に、毎日胸がいっぱいです」

これは正直な気持ち。色とりどりの珍しい食材、一風変わった味付けや盛り付けに、いつも驚かされている。


「なんと健気な…」

陛下はひとつ口端に笑みを浮かべると、夕鈴の細腰を腕で抱えた。自然に視線が上がり、陛下と間近で目を合わせることになる夕鈴。突如現れた端正な顔立ちに、案の定夕鈴の顔が赤く染まった。


「君の言うとおり美食ばかりだ。だが…」

「?」

「私にとって一番の美食はやはり夕鈴、君しか居ない」

耳元でコソッと打ち明けられて、夕鈴の肌にさっと熱が走る。

え、それってつまり…。

夕鈴は赤ら顔でうろたえつつも、かろうじてすまし顔で微笑む。そんな様子に陛下が面白そうに笑った。


「いつまでも初々しいことだ。君のそういう所が愛しくて堪らない…」

「あ…はい」

「あんまり可愛い仕草を見せるな。政務に行けなくなってしまうではないか」

陛下は困ったように眉根を寄せると、夕鈴の頬を手の甲でなぞった。

途端に全身に鳥肌が立ち、夕鈴は固まってしまった。まるで狼の毒気に当てられたかのように、身動き出来ない。陛下はそんな様子を楽しむかのように、今度は長い髪に手を伸ばした。髪に指を差し込み優しく梳きやると、妃を溺愛する甘い表情を浮かべる。

微笑ましく見つめる侍女たちの熱視線があまりに熱くて、夕鈴はうつむいた。
侍女たちの手前、逃げ出すことも避けることも出来ない。こういう場面での対応に慣れたつもりであったが、ひよっこ夕鈴にはまだまだだった。


「そういえば…以前君が作ってくれた料理、あれも素晴らしく美味しかった」

陛下はふと手を止めると、夕鈴の動揺顔を真正面から捕らえた。しばらく空を見つめぼんやり考え込んでいたかと思うと、おもむろに夕鈴を見つめた。その視線があまりにも真っ直ぐで、夕鈴の身は簡単にすくんでしまう。


「……」

……嫌な予感。


「久しぶりに食したい」

「!?」

やっぱり…予想通りの展開に若干うろたえつつも、ここは反論するため陛下を軽く睨む。


「……私が作るより、王宮の料理人が作ってくれたほうがはるかに美味しいです」

夕鈴は作り笑顔で答える。


「君が作ってくれた料理の方が、はるかに美味しいに決まっている」

陛下はまるで当たり前だとばかりに即答すると、絡みつくような目線を投げて来た。
その視線に弱いことを心得ていて、あえて出してくるんだから…ホント困るわ。夕鈴は内心で深くため息をつくと、腰に差した扇に手を掛けて広げた。

狼陛下の臨時花嫁バイトも長くなって来ていたが、性格上、長時間の甘い演技は耐えられない。
しかも必要以上のスキンシップ。さすがにいたたまれないわ…。ここは得意技、大きな扇で顔を隠してしまおう、と取り出したものだった。


「そのようなこと…」

「妃よ…私は君が作った料理が食べたいと言っている」

陛下はさっそく実行しようとする夕鈴の手首を軽やかに掴み、制した。
手首を握りしめたまま、ゆっくり顔を近づける。

息がかかりそうなほど近い距離での演技に、夕鈴の鼓動がひとつ跳ねた。

夕鈴は今にも抜けそうな腰にぐっと力を入れて、陛下を見据える。


「料理人が陛下の為に腕によりを込めて作っていますのに…わがままを言うものではありませんわ…」

ほほほ…と上品に笑う夕鈴。狼陛下の演技での「お願い事」に毎度毎度屈するわけにはいかない。


「愛しき者の手作り料理を食べたいという願いは、わがままなのか…」

陛下はひどく憂い顔で夕鈴に詰め寄る。
演技だと分かってはいるが、完璧に作られた切ない表情に、夕鈴の顔も曇る。夕鈴の曇り顔を確認すると、陛下は一瞬だけ口元に笑みを浮かべた。ほんの短い刻であったが夕鈴が見逃すことはなかった。

思いがけない妃の反撃に、彼の意地悪心に火がついたのだろう。
王宮御用達の料理人の絶品料理を差し置いて、そんなに偽妃の手料理が食べたいと言うのだから、彼は本当に変わった人だ。

夕鈴は呆れ顔で、陛下の顔を眺める。
夕鈴の心情を読み取ったのか、陛下は困ったように笑っていたが、わがままをやめることはなかった。


「私は手にするもの、口にするもの、触れるもの、話し掛けるものすべて、君であれば良いと思っている」

ちょっと!言ってることがめちゃくちゃよ…陛下。

夕鈴は蒸気する熱を必死で抑えつつ、落ちつくように心の中で何度も呟く。
これは演技演技。この切ない表情は偽物偽物。ぶつぶつぶつ…自らの心へ暗示をかける。


「夕鈴、聞いているのか?」

「も、もちろんでございます!」

「では私の気持ちは通じただろうか。それだけ私は君に溺れているということ。夕鈴、君だけが愛しい…」

「……」

呼吸困難になりそう。これはさっさと承諾して、この苦しみから逃れるべきか。


「だから料理を。君が作ってくれたものが食べたい。厨房には私から話を通しておく」

早!まだ、うんって言ってないし。気の早い行動に、夕鈴はぎょっとする。


「陛下、私まだ…」

「ん?」

狼の冷ややかな瞳が夕鈴を捕らえる。朱色の瞳が揺らめいて、夕鈴の心を掴んで離さない。蛇に睨まれたカエル、いや…狼に睨まれた小さな兎は、圧倒的な目力を前に、肩をうなだれた。

















なんでこんなことになってるのかしら…。

居並ぶ料理人、そして並べられた山海の珍味。
準備万端の厨房の中、狼陛下の花嫁、汀夕鈴はずっと以前、陛下に手作り料理を振る舞った時の記憶を思い出していた。

あ~あ……大後悔。あのとき陛下のわがままで一度作ったがために、こんな状況になってしまった。


「お妃さま。まずは何を作りましょうか?」

「え……あぁ、そうね…何がいいかしらね」

やる気なく返事する夕鈴。そんな夕鈴の様子に厨房がざわざわと騒がしくなった。
しまった、なんか不穏な雰囲気?料理人たちの険しい表情をなんとか押さえようと、夕鈴は懸命に笑った。


「も、もちろん!いつも多忙な陛下のために、栄養満点な食事を作らねばなりませんわ」

夕鈴はふるふると頭を振ると、一斉に注がれる視線をもろともせず、大きく胸を張った。
引き受けたからにはやり通す。お人よしの性格は治らない。


「て、手伝ってください」

「はい!お妃さま」

そうよ、こんな機会はないわ。せっかくだから王宮料理のひとつふたつ、覚えてやろうじゃないの!

固く拳を握りしめ、目の前の見慣れない食材に戦いを挑む夕鈴であった。















「妃よ…今帰った」

日も落ちた夕刻。相変わらずの激務を終えて、疲れた様子の陛下が、妃の部屋へと帰って来た。
部屋に入ってすぐ、演技もそぞろに椅子へと腰かける陛下。

いつもならば、ここぞとばかりに妃に逢えなかった一日の寂しさを訴える彼であったのに、今日はというと甘い演技ひとつなく、早々に侍女を下げてしまった。

夕鈴は疑問に思いながらも、陛下へ労りの言葉を掛ける。


「今日もおつかれさまでした」

「うん、夕鈴。さ、早く早く」

子犬陛下が急かすように呟いた。


「あの…」

「君の料理。僕今日一日、ずっと楽しみにしてたんだ」


陛下は机の上に手を置くと、今か今かと料理が出されるのを待っていた。
わくわくと待ちきれない様子の陛下に、夕鈴はおかしくて笑った。彼が時々見せる、こういう子どもっぽさが結構好きだったりする。


「夕鈴。笑ってないで。早く食べたい」

「はいはい」

くすくすと笑いながら、夕鈴は手料理を振る舞う。


「う~ん。やっぱりとても美味しいね。待ったかいがあった」

「それは…どうも」

ストレートな言葉に、照れ笑いを浮かべる夕鈴。


「毎日食べたいな」

「!?ダメですよ!」

それは絶対無理。夕鈴は無邪気に笑う子犬陛下の、無謀なお願いを退ける。


「えーなんで??」

「なんでって、私は臨時花嫁であって、陛下のおかかえ料理人じゃありませんので」

「……夕鈴はさ。結婚したら夫に料理を作るでしょ?」

「は?」

突然の問いかけに夕鈴はまばたきを繰り返す。策謀にはまらないように、慎重に言葉を選び、夕鈴は答えた。


「急に何です?確かに夫に料理を作るかもしれませんが…私は仮の花嫁ですよ」

しつこいようだが私は臨時花嫁。最近、臨時の範囲を超えているような気がするが…。


「ふうん?仮だから作らないか…」

ゆっくりと箸を置いて、陛下が夕鈴を見つめた。


「!?」

いつの間にか変化した口調。まさかの狼の出現に、青ざめる夕鈴。
さっきまで機嫌良く料理を食べていたのに…変貌した雰囲気にのまれ、夕鈴の鼓動がうるさいくらいに鳴り響いていた。
室温は変わっていないはずだが、なんだか肌寒く感じ、夕鈴は肩をさすった。


「ちょっちょっと。なんか怒ってないですか?か、仮だけど……今作ったじゃないですか」

「別に怒ってない。ただ…拗ねているだけだ」

「はい?」

拗ねてる?なんで?
頬を膨らませて抗議する陛下。狼陛下なのに狼らしくない仕草に困惑する夕鈴。拗ねる狼を前にして、ますます訳が分からなくなった。


「どうして拗ねる必要があるんですか?意味分かりません」

「君は…なんて冷たい」

「冷たい??」

どこが冷たいの!?思いっきり叫んでやりたいが、ますます落ち込む陛下を見ると、責めることが出来なかった。


「…陛下。なんでそんなに落ち込んでいるのか分からないですけど、せっかくの料理が冷めちゃうんで、食べてくださいよ」

「……」

陛下は夕鈴にも聞こえるほど深く嘆息すると、再び食事を始めた。ぶつぶつ小言で何か言っているのが聞こえたが、食べ終わった頃にはすっかり機嫌を直した陛下が、満足そうにお腹をさすっていた。


「お腹いっぱい、本当に美味しかった。ごちそうさまでした」

「おそまつさまでした」

途中、拗ねたり落ち込んだり…いろいろあったけど、最終的には満足してもらったみたい、良かった!夕鈴はにっこり微笑むと、食後のお茶を陛下へ勧める。


「夕鈴、久しぶりに家事してどうだった?」

頬杖をつきながら、陛下が尋ねる。


「そうですね、正直ちょっと楽しかったですよ。主婦仕事はやっぱり燃えます」

嬉々として答える夕鈴に、陛下の目が輝いた。


「ホントに?じゃあ…」

「でも!もう作らないですからね。陛下にはたくさんの料理人が居るんですから、わがままは禁止ですよ」

「残念」

陛下は軽く舌打ちすると、デザートにと出された砂糖菓子をつまんで食べた。
まったく…油断も隙もない。陛下の言いたいことを先回りして制するのも大変だ。でもなんだか最近、こういう会話に楽しさを感じるのは気のせいか…。

夕鈴はクスリと笑うと、リラックスする陛下を見つめた。
王宮では絶対に見ることは出来ない陛下。こんな稀な姿を見られるのも、臨時花嫁の特権か…。

人前では見せない子犬陛下、この先も私は、見続けられるのだろうか。
ふと思う気持ちに少しだけ不安を感じた夕鈴は、思いを振り払うかのように頭を大きく振った。


「何?その仕草」

突然頭を左右に大きく振りだした妃を前に、陛下が目を丸くした。


「えっと、陛下のわがままが直るおまじないです」

「えぇーーー?何それ」

ひどいよ、夕鈴!と憤慨する子犬陛下に、少しの申し訳なささを感じながら、夕鈴は笑顔でごまかした。


「ごめんなさい。冗談です」

素直に頭を下げる夕鈴。
いくらなんでも子犬陛下が可愛そうに思えてきた。


「…冗談なの??う~ん、君って…やっぱり掴めないなぁ。でも、面白いからいいか」

うんうんと頷いて、陛下が何事もなかったかのようにまたお菓子をつまみ出す。
どうやら機嫌の良い今夜は、何をしても許されるらしい。しかし…。

面白いからいいの?
その考え方の方がよっぽど面白いと思うけど…。陛下こそ、掴めない人だわ。


どれだけの時間を一緒に過ごしたら、この人の気持ちが分かるのだろうか…。

分かりたいと…知りたいと願うのは、そう遠くない未来。
だけど、このときの夕鈴には知る由もない。




「夕鈴って、本当に面白いね」


「……陛下こそ」








二次小説第59弾完了
久しぶりのアップは、甘さ控えめです。
夕鈴の手料理ネタ、何度も出してすみません。でも喜ぶ子犬陛下が大好きです☆
夕鈴がまだ陛下への恋心に目覚めていない頃のお話です。むしろ、わがままな彼にとても振り回されている頃の話ですね。まぁ…常に振り回されていますが(笑)
愛しき者の手料理、毎日食べられるような関係になれたらいいですね。そう遠くない未来ですよ。
最後までお付き合い、ありがとうございました



01:57  |  日常編  |  TB(0)  |  CM(4)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

●甘さ控えめでこれですか・・・?

朝っぱらからーー!!と身もだえしておりましたのに、これで甘さ控えめとは・・・ミケさま、底が見えません!
拗ねる陛下がかわいいです!夕鈴って、恋する陛下の気持ちに冷や水ぶっ掛けるようなことを言って無意識のうちに振り回してますよね・・・そこがまた萌えます!!ごちそうさまでした♪

深見 |  2011.09.04(日) 14:19 | URL | 【編集】

●コメントありがとうございます!

深見さま

いつもながら、コメ嬉しいです~☆
甘さ控えめのつもりだったんですがね…ミケの中の基準が崩れつつあります(笑)
崩壊させて、甘さを極めてみようか…と最近思うのですが、まだ勇気が…(←臆病)

> 拗ねる陛下がかわいいです!
可愛いですよね!狼な彼も好きなんですが、子犬陛下もいい!2パターンの性格を持つ陛下、最強です!
ミケ |  2011.09.04(日) 14:37 | URL | 【編集】

陛下の子犬、狼、子犬な変わりっぷりが、萌えツボでした!!
私的には、かわいらしい子犬陛下の方が好きです!!
子犬な感じの陛下を想像すると、本当に癒されますよ~!!
今日の13時間の激務もどこへやら?です。
ミケ様も頑張って下さいね~!!
あち |  2011.09.04(日) 23:39 | URL | 【編集】

●コメントありがとうございます!

あちさま

こんばんは。いつもステキなコメントありがとうございます。

> 陛下の子犬、狼、子犬な変わりっぷりが、萌えツボでした!!
ころころと変化する技に、夕鈴も振り回されっぱなしでしたね~ホントたち悪いです(笑)

> 私的には、かわいらしい子犬陛下の方が好きです!!
ミケも同意見です☆今回は、子犬の方を前面推しでしたね、気に入っていただけて嬉しいです。

相変わらずの激務のようですね。13時間ですか!?お体心配ですが、がんばってください。
いつでもお待ちしています♪
ミケ |  2011.09.05(月) 00:13 | URL | 【編集】

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